二十六夜待 ※春で朧でご縁日という話の続きになっております。
7.
月の出ない晩だった。 ゾロは提灯を手に、いつものように見回りに出かけた。 ワイパーがいつの間にか姿を消していたのには、不覚としかいいようがないのだが、それどころではなかった、というのが実情だ。 それに、こう言ってはなんだが、ゾロにとっては、別段、ワイパーに消えられて困ることはなにもない。 確かに、同じ獲物を狙っていると言えなくはないが、辻斬りの方も、やすやすと捕まるようなことはないだろうし、お互いに無傷ではいられないはずだ。ゾロの目から見て、辻斬りとワイパーの腕は五分だ。もちろん、辻斬りの正体がゾロの見知った男であったとするならば、の話だが。 いっそ、辻斬りが捕らえられるのも、結果のひとつだ。与えられた仕事をこなせなかったことにはなるが、それだけの話だ。ゾロとしては、格段に困るわけではない。 ルフィはアイサに兄に会わせてやりたがっていたのだが、果たしてそれが本当によい道なのかどうかはわからない。ワイパーは渡世人なのである。今更妹に合わせる顔もないだろう。 しかし、ルフィが残念がっていたのは残念だと思った。 ワイパーの目的はおぼろげながら見えてきていたので、なんとかしてやれないこともない、と思う。あの男は、手段を間違えている。いや、間違えているわけではないのだろうが、随分と不器用だ。ゾロは少なからずも、ワイパーに好感を持った。 そのようにしか生きられない、という人間がいる。旗本と渡世人という立場の違いはあれど、ゾロもそうであり、また、ワイパーもそうなのだろう。正しいか間違いかは問題ではないのだ。 そのせいかもしれない。 ルフィのような奔放さに惹かれるのは。 ゾロはまたひとつため息を吐いた。 あれはいったいどういう意味だろう。ルフィはビビに惚れているわけではないらしい。少なくとも今は。そして、ゾロに許婚がいたということに嫉妬したと言う。 それではまるで、ルフィがゾロのことを特別に好いているようではないか。 ゾロは眉間に皺を寄せた。そんなことを考えている場合ではない。しかし、こう何事も起こらないと、ついそんなことを考えてしまう。せめて、歩くべきだろうか。ゾロは先程から、ある屋敷の前から動いていない。 今夜から、ゾロは方法を変えた。見回ることは、いっそワイパーに任せるべきだと思ったせいだ。ゾロは辻斬りの正体が、想定している人間と別人でありさえすれば、特に斬って捨てる必要はない。その人物が辻斬りであった場合に、その主家のために、斬り捨てるよう依頼されているためだ。 そこは、ワイパーと初めて出会った場所に近い。あの時の辻斬りは、この中に逃げ込んだ算段が高いとゾロは見ていた。件の男の仕官先を、ゾロは昔のつてで調べていた。大目付の使いの者からは、「さる大名」としか教えてもらっていなかったが、ゾロのような小普請組にそれを知らせるわけにもいかなかったのかもしれない。 立派な旗本屋敷の門を見上げる。ゾロの屋敷とは比ぶべくもない、幕府の御目付衆、千五百石の直参旗本の屋敷だ。大名でなく、旗本であった。大名といえば、他藩の者だが、旗本といえば、将軍直属である。しかも、千五百石の御目付衆といえば、幕府高官の中でもひときわ目立つ存在だ。 目付役は、若年寄の目になり耳になり、幕臣の監視を行うのが仕事だが、御目付衆は、己の意見を将軍に直接申し立てることができる、という特権も持っていた。そして、彼らを監視するのもまた、同役の御目付衆であり、彼らは互いに互いを監視しあい、同役のものに失敗や欠点があればどしどし蹴落としていく。 だからこそ、今回、ゾロに白羽の矢が立ったのだ。 生半なことでは勤まるものではない。剣や骨董に凝るのもわかる気がするが、もちろんそれが免罪符になるわけではない。たぶんに、今回の件は、試し斬りに相違ない。 しかし、それだけの地位を持ったものが、部下に辻斬りを命じていたとなれば、幕府そのものに傷がつく。無辜の民の命よりも、幕府の体面を大事にせねばならないのが、ゾロのおかれている立場だった。 そして、それをルフィには知られたくないと思っている。 「・・・結局おれもてめェのことしか考えてねェ」 ゾロは自嘲した。 その時、耳門から人影が現れた。網笠をかぶり、軽く周囲を伺うと、海鼠塀に沿って歩いて行く。少しの間逡巡したが、提灯の火をつけず、その後をつけることにした。 こんな晩に出歩く輩がそうそういるとは思えないから、どこかの屋敷へ使いを頼まれたものと見るほうが理にかなっているし、そもそも、屋敷から出てきたからと言って、ゾロの目当ての男とは限らない。姿も耳門から出てきた影をみたきりだ。けれど、間違いなくあの男だとゾロの勘が告げていた。 隠しても隠し切れない殺気を、前方から感じるからだ。この殺気は既に狂気にまで至っている気がする。 やがて左右は寺の塀になった。月の代わりに、木のしげみの上の高いところに、人魂のような灯が浮いていた。七月末まで、寺や武家屋敷では庭に高い竿を立ててその先に盆灯篭をつるす。高灯篭と呼ばれているが、左手の寺のそれが揺れているのだ。 ゾロは男のあとをつけながら、提灯をつけるべきか悩んだ。このまま後をつけていて、いつ他に人が出てくるかわからない。はっきりとした手証をつかむためには、男が誰かに斬りかかったところを押さえなければならないが、この距離ではゾロが男の間合いに入る前にその誰かの命はないだろう。 上の者は、町人の命のひとつやふたつ、大したものではないと思っているだろうが、そういうわけにはいかない。 一番良いのは、ゾロに斬りかかってくるよう仕向けることなのだが、今ここで提灯をつけて、囮になることができるだろうか。まかり間違って、後を追っていることに気づかれたら全て水の泡になる。その逡巡の間に、前から提灯の灯りが見え、ゾロは思わず舌打ちした。前方の闇から殺気が膨らむのを感じ、提灯を投げ出して駆け出す。大刀の鯉口を切る音が聞こえ、ゾロも柄に手をかけた。 提灯の灯が揺れて、地面に落ちると燃え上がった。遅かったかと思いきや、 「うわ、もったいねェ」 なんとも間延びした声が聞こえて、ゾロは唖然とする。 「・・・ルフィか?」 夜の見回りはやめるように言っておいたはずだが、何故ここにいるのだろうか。 「あ、ゾロ、ちょうどよかった。こいつ辻斬りだぞ!」 暗闇から声だけがする。わかっている。わかっているが。 思わず名を呼んでしまった自分の失態にも気がついた。 「ゾロ・・・ロロノア・ゾロか・・・?」 男がゆらりとゾロに気を向けた。 「・・・あぁ・・・貴公が屋敷を出て、この町人に斬りつけるまでの、一部始終を見させてもらった。この一件は貴公のご意思か?」 「・・・侍に意思など不要だ」 静かな声はいっそ面白がっているようにさえ聞こえる。 「主命である、と言われるか?」 「おれからはなにも言わぬ」 太刀風がゾロを襲った。ゾロはそれをかわし、 「腹を切る気はないようだな」 「主命であれば吝かではない」 家を主を守るためならば、腹も切ってみせるという覚悟は立派かもしれない。が、主命だからと言い、無辜の民を斬り捨て、また己の命も斬り捨てるのが、果たして武士の道なのだろうか。 「貴公はそれでいいのか?」 「いいもなにも、それが侍だ」 「侍なんてほんと、ロクでもねェな」 ルフィが呟いた。まったく同感だ。けれどゾロもまた侍だ。 「・・・お相手仕る」 ゾロが刀を抜いた。主命にしか生きられないこと、そして、その主が歪んでいることを不憫に思わないでもない。だが、彼に責めがないとは言えぬ。 その時、別の殺気が入り込んだ。 「それはおれの獲物だ!」 ワイパーの声だった。これはまずいことになった、とゾロは思う。三つ巴の乱戦というのは存外難しいのだ。二人を斬ればよい、というものでもない辺り。ただでさえ、実力が拮抗しているところであるというのに。 「町方がこの男を捕らえても、ろくな調べは出来ん」 「闇に葬られるよりはマシだ。町奉行ならば、きっとこの男の背後も明るみにできる」 そうかもしれない。モンブラン・ノーランドは将軍の信頼も厚い。この男の主についても、打算なく糾弾できるかもしれない。限りなくか細い線ではあるが、ゾロがこの男をここで斬るよりはましな結果が生まれる可能性はある。 「まぁ、御仁方々言いたいことは色々あろうが、主張したくばここでまず生き残ることだ」 男はここに残る者を皆斬り捨てて、まだ、生き残る気でいる。仮にこの男を倒したとしても、この男の主は、また別な男に試し斬りを命じるのかもしれない。 それでも、自分はこの男を斬らねばならない。しかしまたそれも、主命だ。殺害された者や、その家族からしてみれば、ワイパーの方が正しいのかもしれない。ゾロが柄を握る手に力を込める。 周囲がほんの少しだけ明るくなり、男やワイパーの顔がぼんやりとではあるが見られるようになった。男は覆面をしている。月が顔を出したのかと思ったが、それは寺社の塀の上から灯された提灯の灯りだった。 ルフィがゾロの投げ出した提灯に再び火を入れて、寺の木の低いところにくくりつけたのだ。 「んしょっ」 すたんと、ルフィが塀から降りる。 「とりあえず、お前の相手はおれってことで」 ルフィがワイパーに向かって言った。 「・・・貴様・・・なんのつもりだ!」 「ゾロの邪魔すんな」 「奴がおれの邪魔をしている。あいつは全てを闇に葬ろうとしてるんだぞ」 「うん、まぁ、おれには難しいことはわかんねェけどな。でも、これは剣士の勝負だろ。だったら剣士じゃない奴は邪魔しちゃダメなんだ。それにお前、徳利のカタキだし」 ふと、ゾロの身体から力が抜けた。剣士同士の勝負。そう思ってよいのだろうか。確かに色々な思惑は渦巻いている。ゾロも男もしがらみだらけだ。けれど、相手は剣を抜いて、ゾロもまた剣を抜いた。それならば、そこにあるのは、どちらが生き残るかの純粋な勝負と言えはしまいか。 ワイパーが脇差を持っていることが気にならないといえば嘘になるが、 「ルフィ」 「ん?」 「・・・頼んだ」 「おぅ、任せとけ」 ゾロから迷いが消えた。 下段に構えて、相手が打ち込んでくるのを待つ。男は気合の声もなく、正眼から打ち込んできた。刀と刀が噛み合って火花を散らす。ルフィとワイパーがどのような戦いをしているかは、ルフィを信じることにして、気にするのをやめた。火花が消えたときには、間合いを隔てて双方に構えを立て直している。 男が大刀を脇構えに移したところを、ゾロが間合いをつめた。一歩下がった男の足が、ルフィが落とした燃え尽きた提灯を踏んだ。男の目が一瞬足元に移った隙を逃さず、抜き打ちに、左の腿を切り払った。 致命の傷ではなかったから、男は飛びのき、ゾロへ一刀をおくりこんだ。その一刀は虚しく空を切り、つけいったゾロが左の首筋の急所を切り割った。 「む・・・・・」 ゾロへ振り向いた男が、妙な声を発しながら、ゾロを睨みつける。 勝負がついたと見て取ったルフィがワイパーの太刀をかわし、塀の上に上ったとき、男の身体が仰向けに倒れていった。 「おー・・・やったな」 ルフィの声がする。 「・・・お前、夜の見回りはやめたはずじゃなかったのか?」 今更な問いをゾロが口にした。 「おれはこいつ探してたんだよ。またこの辺りに出るかな・・・と」 ワイパーを指差した。そしてまんまと辻斬りを引き当てたらしい。 腹が治まらぬのはワイパーである。 「貴様・・・!!」 太刀をゾロに向けて斬りかかろうとしてきた。 「落ち着け。町奉行に会いたいなら、そのような方法をとらずとも手はある」 ワイパーの手が止まった。 「なんだ、お前、お奉行に会いたかったのか?」 ルフィののんびりした声が響き、 「あとひと仕事、お前も関われば、おれが話をつけてやるがどうする?」 ゾロの言葉にワイパーが舌打ちした。
それから三人がしたことは、男の死体を主家に届けることだった。ゾロが指示されていたのはそれまでだった。 かくして、事件は闇から闇へ葬られた。男の主がなにを思って男に辻斬りを命じたのか、単に刀の切れ味を試したかったものか、あるいは、辻斬りとみせて、仏にはなにかつながりがあったのか、その辺りはゾロの預かり知らぬことであった。 評定所はなんらかの沙汰をくだしたことだろう。それが表ざたにはならないにしろ。 とにかくゾロは剣の勝負をし、それに勝った。それだけのことだ。 「あいつのところの親分がお奉行の友達だったとはなぁ」 「大きな声を出すな」 浜辺で二十六夜の月を待ちながら、ゾロはルフィをたしなめる。 あれからゾロは町奉行であるモンブラン・ノーランドに面会を求めた。あくまで非公式に、ということで、道場のつてを頼ったものだ。奉行は多忙を極めていたが、ごく僅かの時間であれば、と、なんとか了承をとりつけることができた。 場所は奉行のなじみの料理屋だった。ゾロは一人の伴を連れていく旨告げてあったが、奉行の方は、一人の伴も連れていない。 ノーランドは風評にたがわず気さくな人物で、あまり時間がとれぬことをゾロに詫びた。ゾロの方も急な要請に応じてくれたことに礼を言い、奉行とワイパーを引き合わせた。ワイパーは座敷に入らず、座敷に面した中庭に平身低頭していた。まるで別人のような有様だった。 顔を上げたワイパーを見て、奉行は驚いたようだった。顔の刺青についてだとゾロは思ったが、当たらずとも遠からずで、 「・・・カルガラの一家の者か?」 言ったときにはゾロもワイパーも密かに驚いた。 「その刺青はカルガラを模したものだろう」 その声には温かみがあった。町奉行が博徒の親分との交流を認めたのである。 「彼は元気か?」 声もなく、ワイパーは頷いた。 「今はまだ、会うことは叶わぬが、私が務めを果たしたら、きっと君に会いに行く、そう伝えてくれ」 「・・・確かに・・・!」 ワイパーが顔を伏せた。 ワイパーの親分であるカルガラと、奉行であるノーランドは、ノーランドが町奉行の任を拝命するずっと以前からの友人であった。旅先で病に苦しむカルガラを、ノーランドが救ったのが交誼の始まりだったようだ。 ワイパーはカルガラを尊敬しており、彼が折りにつけ話す、恩人であり、親友である男の話が気になってならなかった。村を出てより便りのないことをずっと心配もしていたが、武家のノーランドに博徒の友人がいてはまずいのだと、カルガラは少し淋しそうに笑うのだ。そしてワイパーはとうとう、ノーランドの人となりや現状を知るべく戻ってきたのだ。 しかし、本人に会う手立てがない。ワイパーは渡世人であり、奉行所へ直接出向いても調べを受けるのがおちである。戻ったはいいが、手をこまねいていたところ、ワイパーは辻斬りの噂を聞いた。ワイパーが辻斬りにあったのは偶然であったが、その辻斬りを捕まえれは、渡世人の自分であっても、なんとか奉行に目どおりがかなうのではないかと考えたのだ。 町奉行となっていて、また、名奉行と評判であるノーランドの噂を聞くにつけ、誇らしくもあったが、腹立たしくもあった。己の身かわいさに、カルガラとの友情をなかったものにしているのならば許しがたいと思っていた。 しかし、そうではなかった。彼は彼のすべきことを真っ当するために、ここにいる。そしてカルガラのことも決して忘れることなく、ゾロの目の前でそれを認めた。それはなまなかなことでできることではない。 「結局あいつ、ラキにもアイサにも会わずに帰ったな・・・」 ルフィが残念そうに呟いた。ただ、ラキには渡世人など待たないように伝えるように、との伝言をゾロが受けている。ワイパーは奉行の言葉を胸に刻んで、カルガラの元に出立したのだ。清廉な奉行というのは、それだけで敵も多く、友に書状をしたためることもままならない。況してや、相手は博徒である。 だからこそカルガラも手紙ひとつ出すことをせず、今に至っていたのだ。 ノーランドはワイパーに礼を言って、帰りの路銀を持たせていた。ワイパーは固辞していたが、結局は受けたようだ。 「それぞれに事情というものがある」 ワイパーにとって大事なものは一家であり、親分なのだ。それを間違っているとは誰も言うことはできない。それを聞いてラキたちがどうするかはまた、彼らが決めることだ。 「うん・・・まぁ、そうなんだろうな」 これ以上はルフィが立ち入る問題ではない。アイサやラキ、コニスにはワイパーは一家の元に帰ったと伝えるほかはないだろう。 「あぁ・・・コニスで思い出した」 ルフィは懐から包みを出して、ゾロの手に落とした。 「・・・なんだ?」 ゾロが怪訝そうに呟く。 「頻繁に刀打ちかえるならちょっとどうかと思ったけど・・・」 ゾロが包みを開けると、六花のかたちをした目貫が出てきた。 「ゾロの白い刀に合うと思って」 「・・・どうしたんだ?」 「コニスと初めて会った日に、店の商品から好きなのをひとつ選んで持ってってくれって言われたんだ。おれが使うには上等なもんばっかりだからいらねェって言ったら、じゃぁ、大事な奴への贈り物にしろって言うからな」 「・・・これでよかったのか?」 「うん。それがよかった」 「・・・そうか。ならありがたくいただこう」 ルフィが嬉しそうに笑った。 「・・・ルフィ」 「んー?」 「ありがとう」 「いいよ。元手はかかってねェし」 「それだけじゃなく、あの時のことも」 「あの時?」 「辻斬りと闘った時のことだ。お前のおかげで勝ったようなものだ」 ゾロが言えば、ルフィは少し顔を顰めて、 「おれがいなくてもゾロは勝ったぞ?」 「いや、それはわからない。あの時おれには迷いがあった」 ルフィの声に救われた、と思う。 「・・・おれはこれから、真剣を持とうと思う」 ゾロが静かに言った。ルフィはゾロの顔を見て、けれどなにも言わなかった。 「竹光を持ち続けたのは、己の中にある人を斬ることへの欲望への恐怖からだ。恐怖から逃げ続けてもなにもならん、ということがわかった」 「・・・そうか」 「だから、おれはこれから、お前のために剣を振るおうと思う」 ルフィが驚いた顔でゾロを見る。侍は主のために剣を振るうもので、それは旗本にとっては将軍さまなのである。それが他の者のために剣を振るうなどと言ったことが知られたらただではすまない。 「これはおれの勝手だ。お前のために振るう剣だと思えば、真剣を怖がることもないと思った。だからお前がなにも気に病む必要はない。けれど、知っていてほしい、と思ったのはおれのわがままだ」 すまん、とゾロが謝った。ルフィは少々混乱しながらも、 「ゾロが謝ることねェ・・・と思うけど」 ゾロは今、非常に大事なことを言った。それはお上に対する裏切りを示唆しているともとれるのだが、ルフィは単純に嬉しいと思う。 「・・・じゃぁ、おれとゾロの秘密な」 好きな人と秘密を持つのはなかなか悪くないことだ。 「あぁ・・・そうか」 ルフィが呟いた。 「どうした?」 ゾロが聞く。 「おれ、ゾロのことを好きなんだな。」 ようやく答えが見つかったかのようにルフィが言った。ゾロの息が一瞬止まる。 「・・・・」 ゾロがなにかを言おうと口を開きかけたとき、 「あ、ゾロ見ろ!」 べたいちめんの星空に、逆三日月がゆっくりと上ってきた。 「空が笑ってるみたいだなぁ」 ルフィが感心したように呟くので、ゾロが笑う。 話の続きは月見が終わってからにしよう。そう思いながら、ゾロも空を見上げた。 2009.7.26up
え?これで終わり? って声が聞こえてきそうですが これにて夏の話はおしまいです。 たまにはこういうのもいいんじゃないかと。 1年半年以上ぶりの更新でした。 すぐ終わるつもりが・・・!! 足掛け何年なのか・・・。 辛抱強くお付き合いくださいましてありがとうございました。
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