あいにくの雨で


 

 ゾロにしてみれば正直、面倒くせェな、というのもあった。その場所は少し遠方だったし、休みの日は寝ていたい方なので。更に言うなら、車を出すのも自分の役目なのだ。

 嬉しそうな顔が見たくて、

「連れて行ってやろうか?」

 と言ったのは確かに自分の方だったのだけれど。

 だから、雨が降った時は、非常に複雑だった。

 ルフィがとにかく窓の外を見ては、一喜一憂するのを見るのが、なんとはなしに痛々しい。

 その場所はルフィが兼ねてより行きたがっていたところで、一回連れて行けば気がすむだろう、という打算も少々で、夜の催しに行く約束をしていたのだ。ルフィが楽しみにしているのはわかっていたし、ゾロもそれなりに乗り気ではいたのだが。

「・・・中止だと」

 ゾロが携帯を閉じながら言った。

 確認してみたところ、ライトアップやコンサートや花火といった催しが、天候のため中止ということで、夜のイベント自体がなくなってしまったのだ。

「・・・せっかく休みとったのに・・・」

 ルフィが萎れていく。そのイベントに合わせてルフィはわざわざ休みをとっていた。

「残念だったな」

 通り一遍の慰めしか浮かばない。

「今、降ってねェのに・・・」

 確かに今は降ってはいない。明るくなったり暗くなったりを繰り返していて、なんとか開催できるような気になるのもわからないでもない。しかし、予報では西から前線が近づいてきていて、明日も雨らしい。

まるで中止を決めたのがゾロのようにルフィが恨めしそうな顔で見上げてくる。

「でかいイベントはぎりぎりで中止ってわけにいかねェんだろうよ」

 主催者側のフォローなどしなくていいとは思うのだが、ルフィを納得させるには仕方がない。

「・・・浴衣も用意したのに・・・」

 その点についてはゾロの方が残念だったかもしれない。ルフィの浴衣姿というのはそれなりに貴重だ。

「・・・今から行けるところ、なぁ」

 急に浮いてしまった予定にゾロはあれこれ思案するが、特になにも思い浮かばない。もともとそういうことに興味がない上、既に昼を過ぎているので、殆どの施設ではゆっくりすることができないだろう。

「夜もやってるところか・・・」

 できればゾロはもう家でのんびり過ごしたいのだが、凹んでいるルフィを見ているのはあまり歓迎できない。まったく天候のことを考えていなかったのは迂闊だった。

 眉間に皺を寄せて唸っているゾロを見て、ルフィの眉間の皺がとれた。雨が降ったのは別にゾロのせいではないのに、ゾロがやたらと責任を感じていることに気づいたからだ。

「仕方ねェから花火はまた来年、だな」

「・・・そうだな」

「来年も雨だったらぶっ飛ばす」

「誰をだよ」

 ゾロは苦笑したが、ルフィの切り替えがすんだことにほっとしていた。

 残るは今日の予定だが。

「・・・寝るか」

「あ?」

 ルフィからはあまり聞かない台詞にゾロが眉を上げた。

「雨降ってちょっと涼しいし、ちょっと眠いし」

「・・・・・」

「で、起きたら、メシを食いに行こう」

「・・・・あぁ」

「たまにはダラダラするのもいい、と思う」

「・・・たまにはな」

「一日イチャイチャしてんのもたまにはいい、と思う」

「それはたまにじゃなくてもいい、と思うが」

 ゾロは少々困った。

 そんな提案をされて、来年も雨が降らないかと思ってしまったからだ。

 

 2011.8.21UP

再UP2018.7

 

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