水族館
「今日はおれがしきるんだからな!」 ルフィはやたらはりきっている。ゾロは少し苦笑して、ルフィの少し後ろを歩く。前回も前々回も入場料その他、ゾロが全部払っていたことをルフィはどうやら気にしていたらしい。 「今回はおれが誘ったんだからな!」 自分が誘ったんだから自分が払うのが当たり前だ、とゾロに言われて、いったん引いたものの、借りを返す時を虎視眈々と狙っていたらしい。だいたいゾロがルフィに連絡先を教えなかったせいで、ルフィの方から誘いたくても誘えなかったのが現状なんだからその言い分はどうかと思う、というのがルフィの主張だ。奢られるのが嫌いなわけではないのだが、やはり、同じ男として、あまり一方的なのはかっこ悪い。ゾロばっかりかっこよくて自分がかっこ悪いのは、とてもイヤだ。 ゾロの言い分としては、自分の方が(たぶん)年上で、自由に使える金額もルフィより多いのではないかという推論(ルフィがいまだ携帯を持たせてもらえない、という現状から察する)と、もともと自分の方からルフィをあちこち誘い出したわけだし、なにより、自分と会うことで、ルフィに少しでも負担を負わせたくないのだ。言ったら怒られそうなので言わないが(さすがにその辺は多少わかってきたようだ)。そして、ルフィの発言である。そんな風に言われてしまっては、ここはおとなしく奢られるよりないではないか。けれど、水族館の入場料は動物園と博物館足しておつりが来るぞ。とちょっと所帯じみたことを思ってみたりもする。 まぁ、嬉しそうなので今回は奢られておこう、と結論づける。次は絶対自分から誘うこともついでに心に決めて、ルフィから渡された入場券を持ってゲートをくぐった。 「お前それ、寒くねェか?」 ずっと気になっていたことを聞いてみる。すっかり秋めいてきている気候に綿シャツ一枚では、昼はともかく、夕方あたり、冷えるのではないかと。 「いや?別に平気だぞ?ゾロは暑くねェ?」 一方ゾロはワイシャツにジャケットを羽織っている。周りを見ても、今の季節、一般的な格好だと思うが。 「いや、寒くねェならいいんだ」 実際その白い綿シャツはルフィによく似合っている。なんの変哲もない、どこにでもある綿シャツなのだけれど。 「おれなー、たぶん暑がりなんだ。寒いのは割と平気なんだけど。たまに見てる方が寒いって言われることあるし。」 ゾロ見てて寒いか?と真面目に聞かれ、あわてて否定する。とりあえず、今の陽気は暑すぎず、寒すぎず、だ。日なたに出れば、ゾロが上着を脱ぐのかもしれない。そう言うとルフィはまた楽しそうに笑って、話を続ける。 「夏生まれは暑さに強くて、冬生まれは寒さに強いって言うけど、あれ、春生まれとか秋生まれはどうなんだろうなーって思ったことないか?」 思ったことは・・・ない。気にしたこともない。そもそもそんな統計あるのだろうか。根拠は希薄そうだ。が、ふと思いついて聞いてみる。 「お前は春生まれか、秋生まれかなんだな」 「うん。でも5月ったら春か夏か微妙なトコだよなぁ」 そんで冬より断然夏に近いのに、どうしておれは暑いのダメなんだろう。ルフィが呟いている。 「あぁ、でもなんだかそんな感じだ」 ルフィが5月生まれというのはなんとなくイメージに合う。自分の思考も根拠が希薄だ。 「ゾロはいつだ?」 ゾロの呟きを聞いたのか、ルフィが唐突に言った。一瞬なんの話かと思ったが、すぐに理解する。 「11月だ」 ルフィの表情がちょっと曇ってきた。11月のなにが悪かったのか考えるが、とっさになにも思い浮かばない。ルフィが浮かない顔で更に問いかける。 「11月のいつだって?」 「11日」 ひとまず聞かれたことに答えを返す。 「ゾロのアホ」 くるりと背中を向けられてしまった。
本当にゾロはアホだと思う。たぶん今だっておれがなにを怒ってるかわかってないに違いない。ルフィはムカムカしながら通路を歩く。でもおれもアホなのだ。おれに怒る資格はない。そこまで思ってピタリと歩みを止める。 「ルフィ?」 ゾロが困った声でルフィを呼んだ。くるりと振り返り、少しホッとしているゾロの腕をつかんで通路をまた逆戻りする。 「仕切りなおしだ」 そう言って強引に入口近くまでゾロを引きずっていく。今日は自分の仕切りなのだ。いつもゾロがそうしてくれているように、ゾロに楽しんでもらわないといけないのだ。自分が怒ってどうする! 「えーっと。今のはナシだ。もっ回こっからな」 「・・・お前案外力あるな」 どうやら引きずられたことに対する感想らしい。とりあえず、気分を害してはいないようだ、とひとまず安心する。せっかくの水族館。なにも見ずに通り過ぎるトコロだった。つまらないことで怒って周りが見えなくなるのは自分の悪いクセだ。 「ごめんな?」 とりあえず謝っておこう。冷静になって考えればゾロは別段、なにも悪くないのだ。 「いや、なにを怒ってたんだ?おれは鈍いらしいから、言わねェとわかんねェぞ?」 ゾロを鈍いと言うのはルフィだけであるのだが。ルフィは少し考える。かなり勝手な言い分であることは承知しているのだが、ひとまず伝えておこうと思う。きっとルフィが言いたくないと言ったなら、ゾロは気持ちが悪いと思ってもそれ以上聞かないだろうから。 「・・・えーっとな・・・。今日・・・何日だ?」 「・・・・」 「もっと早く言え。と思って勝手に腹立てた。ごめん。」 ルフィはゾロの顔が見られなくてうつむいた。ゾロの方が怒ってもいいような気がしてきた。どう考えても、ルフィが怒るのは理不尽だ。 本日。11月13日。ゾロにもやっと、ルフィの言わんとするトコロがみえてきた。ちょっと言葉が出てこない。目の前でうつむくルフィになにか言わなくてはいけないということはわかっているのだが、口より先に手が出そうで困る。ひとまず左手は上着のポケットにしまい、右手で口元を覆う。微妙に目線をルフィから逸らして、一昨日のことを考える。普通に忘れていたのだ。今日の日付も。一昨日が誕生日だということも。 「・・・あー。でも、もらったから。ちゃんと。」 ルフィが顔を上げる。怪訝そうな顔だが、少し浮上したようだ。怒ったり反省したり落ち込んだり、ルフィはとにかく忙しい。 「一昨日、初めて電話くれただろ」 そういえば、今日の約束を取り付けたのは一昨日だ。 「あの時はおれも忘れてたんだけどな、今日の約束、くれただろ」 ルフィがまたうつむいてしまった。ちょっと顔がすごいことになっている気がする。どうしてこの男はこういうことをさらっと言うのか!!うつむいてしまったため、ゾロの顔も少し赤くなっていることには気づかない。自分が勝手に臍を曲げただけだというのに!なんだかものすごい差だ。これはよくない。 「・・・来年・・・」 ルフィが赤い顔のままボソリと呟く。 「来年、覚えてろよ!」 なんだか喧嘩腰のような台詞だが、ゾロはきちんと理解した。 「あぁ、楽しみにしてる」 ルフィの顔が更に赤くなった。これではほんとに負け負けだ。なんとかしなくてはいけない。ルフィはグルグル考える。さっきから自分は床ばっかり見てる気がするぞ?と思い至って顔を上げる。少し遅れたけれど、誕生日プレゼントも兼ねて、今日は絶対ゾロに楽しい、と思ってもらおう!と決意する。立ち直りも早いのだ。そうと決まれば予定の消化だ!まだなにも落ち着いて見ていない。 「んじゃ行くぞ!」 ついて来い!と言わんばかりのその態度にゾロは笑いをこらえる。どうやら、よい方向に完結したようである。来年の約束も手に入ったことだし。誕生日とは案外よいものなのだと思った。そして、ルフィの誕生日が5月の何日か聞いていないことに思い至り、慌ててあとを追った。
そういえば、水族館なんて、初めて来たんじゃないか?とゾロは唐突に思い至る。いや、子供の頃、学校遠足かなんかで、行ったような気もしなくはない。けれどもっとこじんまりとした施設だった、ような気がする。とにかくあまり印象にない。 「キレーだろ?」 ルフィが自慢げに言う。そこは上下左右をガラス越しのサンゴ礁の海に囲まれていた。様々な種類の熱帯魚(だと思う)やサンゴ礁、ナポレオンフィッシュやウミガメ。なかなか圧巻だ。 「なんかな、ここにいるとな、泳げるような気になってくるんだ」 どうやらルフィは泳げないらしい。海やプールは避けた方がいいだろうか?と半年以上先のことを考える自分に苦笑する。 「ウミガメってさ、空飛んでるみたいに泳ぐだろ?」 確かに、そんな風に見えなくもない。顔も、鳥類に似ている、気がする。 「最初見たとき、すげェかっこいい、って思ったんだ」 「幾つの時だ?」 「幾つだったかな、子供の頃には違いねェけど」 「今もそう思ってんだろ」 「うん」 「カメが好きなのか?海が好きなのか?」 「両方だ」 夢を見るような目をしている、と思う。綺麗なものばかり見て育つと綺麗な目になるんだろうか、と考えて苦笑する。まるで子供の発想だ。呆とルフィを見ていたら、ルフィが気づいてゾロの手を取る。 「ここだけじゃなくて、もっといっぱい見て欲しいモンあるんだ。どんどん行くぞ!」 手を取られて、その体温にどうしようかと逡巡するが、まぁ、暗いし、これだけ周りに見るものがあるのだから、誰も自分たちなど気に留めないだろう、と理屈をつけて、そのままにしておいた。
「やっぱりそうだ!」 ルフィが感心したように言う。ゾロはまたなにが始まったのかわからずに出方を考える。 「なにか発見でもあったか?」 「ゾロは水関係もバッチリだ」 「は?」 ルフィが指差すのはガラス越しのペンギン。コウテイペンギン、アデリーペンギン、フンボルトペンギンの水槽だ。どうやら、こっちを見ている・・・ような気もする。 「ゾロはペンギンにもタコにもイカにも好かれていることが判明」 「いや、ペンギンはともかく、タコとかイカとかはどうかと」 「タコもイカも美味いぞ?」 「帰りにたこ焼きでも食うか?」 ルフィが笑う。なんだかそれですべてがどうでもいいような気になってきてしまうのは、我ながら情けない。こういうのを骨抜き、というのだろう。
「ずいぶんと・・・シュールな魚だな・・・」 「ゾロはマンボウ見るの初めてか?」 ゾロが知らないモノを自分が知っている、というのは大変に気分がいい。いや、違う。自分が楽しいだけではいけないのだ。ゾロに楽しんでもらうのが今回の眼目なんだから。 「あぁ、本物見るのは初めてだな・・・。なんというか・・・平面だよな・・・」 マンボウは横から見ると、思った以上に大きくて、なんというか、魚の頭だけが泳いでいるかのような丸々とした印象なのだが、正面から見ると、横から見たときに比べて、どうしてもペラペラに見えてしまう。それがまた、プカーっと浮いてるのだか泳いでいるのだかわからないような状態でそこにいるので、ゾロとしては、虚をつかれたようだ。 「こんなにでかいと思わなかった」 普通に感心しているのが面白い。マンボウはどこをみてるのか、何処へ行きたいのかさえさっぱりわからない風情でただ、そこに居る。ルフィはマンボウも大好きだった。 それからイワナやフナから、スナメリだのマナティーだのラッコだのイロワケイルカだの、それは忙しく見てまわった。水族館は結構広い。 「よしっ!そろそろ時間だ!行くぞゾロ!」 どこへ?とは聞かないことにした。ゾロはルフィの後をついていくだけだ。もっとも手はつながれたままなので、自然、後を追うことになるのだが。
ドアを開けて、急に明るくなる視界にゾロは少し、目を細める。どうやら屋外にでたらしい。そこには大きなプール。大型海洋哺乳動物がいるらしい、といことはすぐにわかった。即ち、シャチやイルカである。 ルフィに手を引かれて客席の一角に陣取る。一番前の席だ。ショーをみるのならば、少し離れた席の方が全体が見えていいのではないだろうか、とゾロは少し思ったが、ルフィは臨場感を楽しみたいタイプなのだろう、と思い、発言は控えた。ルフィは始まる前から楽しそうだ。席につくと同時に、自然と手は離された。失われた体温にすぐに気づいてしまったことにゾロは苦笑する。本日、何回目の苦笑なのか、数えてないのでわからない。 ショーが始まった。5頭のイルカがタイミングよくジャンプしたり、ボールを打ち合う(というより表現しようがない)姿はなかなか迫力があり、よい調教師がいるのだろうな、と感心させられる出来であった。隣のルフィの顔を見れば、「夢中」と書いてある。ルフィは何度かここに足を運んでいるようだったが、何度見ても楽しいものなのだろうか。たぶんそうなんだろう、とゾロは思った。自分もルフィと何度会っても楽しい。 「それではお客様の中で彼と握手をしたい方―」 女性のアナウンスが流れる。ゾロは隣を見る。顔には「したい」と書いてある。 「とりあえず、名乗りだけでもあげたらどうだ?」 「いいのか!?」 「こんだけ競争率高いんだ。手あげても当たるのは難しいだろ」 当たるかどうかにはかなりの運を要するのだから、自分に遠慮して手を挙げないことはない、とゾロに言われて、ルフィは思い切り手を挙げた。口ではそう言ったが、ゾロはなんとなく当たるんじゃないかなぁ、と思っていた。 「それではそこのお兄さん」 案の定だ。ルフィの運は強い。ルフィは興奮したように立ち上がってゾロを見る。やっぱり目が輝いている。 「すげェ!!初めて当たった!!ゾロのおかげだ!!」 そう言ってイルカの元に飛んで行った。残されたゾロは、やっぱり苦笑した。今までも手を挙げては、抽選に漏れていたわけだ。それは嬉しかろう。けど、自分は関係ないと思うが。目の先でウェットスーツの調教師に手を引かれ、嬉しそうにルフィがイルカに近づいていく。アイツ泳げないのにプールに落ちたらどうすんだ?とゾロは少し心配になった。プロがついているのだから、そんな心配は不要だと頭ではわかっているのだが。 あれだけ嬉しそうな顔をされたらイルカだって悪い気はしないに違いない。バンドウイルカもはりきって水面に立ち上がった。いつもよりはりきったに違いない。それはもう、すごい飛沫がルフィの上にふりかかった。ルフィは全然気にならない、と言った感じで、全開の笑顔のまま、イルカと握手(と言ってもヒレに触るだけなのだが)をし、更には頬にキスまでされていた。
ルフィは反省していた。結局自分一人で楽しんでしまった。そしてどうやらゾロの機嫌を損ねてしまったらしい。イルカショーが終わってから、ゾロは一度もルフィを見ない。話し掛ければ応えてくれるけれども、なんとなく上の空で、絶対にこっちを見てくれないのだ。 なにがいけなかったんだろう・・・、とルフィは考える。心当たりが多すぎて、どれだかわからないが、やっぱりゾロほっといて、イルカと握手がまずかったんだろうなぁ。と落ちこむ。ゾロがおかしくなったのはその辺からだから。ひょっとしてゾロもイルカと握手したかったんだろうか?でもそしたら自分だって手、挙げるよなぁ、とか、ゾロはあんまりイルカ好きじゃないのにおれがイルカイルカ言ってておもしろくなかったのかなぁ、とかグルグルと考える。でもおれだって何回もチャレンジして今日初めて当たったんだから、やっぱり興奮してイルカの話になってしまうのはしょうがない・・・とやっぱり自分勝手な方向に行きそうになるのを修正したりする。 ちゃんと話し掛けたら応えてくれるのはゾロが大人だからで、自分のように怒っててもそんな態度に出ないだけなのかもしれない。怒られるのはしょうがないけど、嫌われるのはイヤだなぁ、と思う。ここはひとつ、大人なゾロにつけこもう。 「ゾロ、なに怒ってんだ?」 「なんでおれが怒るんだ?」 逆に聞かれた。けれど、ゾロは先を歩いて、こちらの方は見向きもしない。 「だってお前、水族館出てからもこっち全然向かないし、なに話しても上の空っぽいし」 「あー・・・」 ゾロが立ち止まった。けれど依然、顔は見せてくれない。 「ルフィ。お前寒くねェか?」 突然、昼と同じことを聞かれる。そういえば少し寒い気もする。そう答えたらゾロがホッとしたように 「それはよかった」 と言って、上着を脱いでルフィに渡した。 「それ、着てろ。おれは少し暑くなったから」 そう言われてルフィはわけがわからないままゾロの上着を羽織った。本当は遠慮しようかと思ったのだけれど、ゾロは暑いと言うし、なんとなく、逆らえない響きがあるような気がしたのだ。それにとりあえず今は、ゾロの言うことを聞いておく局面だろう。 「あ、でもおれまだちょっと濡れてるぞ?」 イルカショーの時にかぶった水がまだ完全には乾いていない。このままだと上着も少し湿ってしまうかもしれない。 「だからだ」 「心配してくれてるのか?でもおれ、風邪とか引いたことないぞ?」 ルフィはちょっと嬉しくなった。少なくとも嫌われてはいない。 「あー。まぁそれも少しはあるけどな」 ゾロがまた歩き始めた。嫌われてないなら別にいいや、とルフィは強引に隣を歩くことにした。 「あるけど?」 ゾロは大変言いにくそうである。 「やっぱりイルカと握手したかったとか?」 ゾロが言いにくいと思うことをあげてみた。やっぱりゾロのキャラクター的にはイルカと握手したくても、子供に混じって手を挙げて、みんなの前でイルカと握手―、なんてできそうにない。 「どういう流れでそういう発想になるんだよ」 ハズレだ。ルフィは首をかしげる。嫌われてないとわかった途端にショーからのゾロの態度が気になり始めた。今は割と普通・・・じゃない。微妙に目線が逸れている。さっきまでよりは随分マシだけれど。 「だっておれと目合わそうとしないし、その理由は言いたくないみたいだし」 「見ないんじゃなくて、見れなかったんだよ」 ゾロはそう言って少し早足になった。ルフィとは合わせてくれない目線の先を追う。たこ焼きの屋台があった。たこ焼きに異存はない。ルフィも速度を合わせる。 たこ焼き屋は、少し時間がかかる、と言った。その代わり、すごくうまいぞ?とも言った。ルフィは喜んで待つと伝えた。これで少し落ち着いて話ができる。ゾロの中では、たこ焼きでルフィの矛先を変えようという目算も少しあったのだが、その当ては外れたようだ。みっつ頼んで屋台の脇に二人で立つ。 「で?」 ルフィが続きを促す。ゾロは少し考えて、どうやら覚悟を決めたようだ。 「・・・お前、ショーの時、水、かぶっただろ」 「うん。もうほとんど乾いてるけどな」 「あの時、そのシャツが貼りついてて、それで欲情した。から、目、逸らしてた。」 ルフィの思考が一時停止した。
あの時、水に濡れて、ルフィも、他の誰も、そうたいして気にはしていなかったようだったが、濡れた白いシャツが肌に貼りついて、ゾロの心臓は大変なことになっていたのだ。そして、やっぱり自分はルフィをそういう対象として見てるんだなぁ、と奇妙に納得した気持ちになったのだけれど。 公衆の面前でなにをどうするわけにもいかず、その前にイルカで頭がいっぱいのルフィにそのことを告げるわけにもいかず、当座、ルフィを視界に入れないことで急場をしのいでいた。嫌われてはいないことはわかっているのだが、ルフィが自分に言う「好き」は、あのイルカに対して使われているものとたいして違いがないような気もするのだ。そろそろルフィにも考えてもらっていいのかもしれない。そう、覚悟を決めて告げた。 ルフィが止まっている。ということは、それなりに言いたいことは伝わったようだ。たこ焼き屋の声がする。ゾロは礼を言って代金を払い、ルフィに二つを差し出した。ルフィは条件反射のように手を出した。ゾロは笑って、 「今日はここで解散だ。ちょっと頭冷やして帰る」 お前が横に居ると冷えねェから、そう言ってまた歩き始めた。今度はルフィもそれを追うことはしなかった。
えーっと。つまりゾロは、おれのことをそういう、なんというか、コイビトに対して思うように「好き」ということだろうか。ルフィがそこまで辿り着いたのは。いつもの電車に乗ってからだった。「ヨクジョウ」と言ったからには、つまり、自分とそういう、キスだとか、それ以上だとか、したい、と思っている、ということか? 想像が追いつかなくて、頭がショートするかと思った。今、自分の顔は茹でたタコより赤いに違いない。そういえば、たこ焼き、おいしかった・・・とルフィの思考はとりとめもなく流れていく。買ってもらったうちのひとつは兄へのみやげになった。ひとつでなんだかお腹がいっぱいになったのだ。普段の自分からは考えられない現象だ。ゾロのせいだと思う。そしてまた思考がゾロへと流れ、また顔が熱くなる。 次、どんな顔をしてゾロに会えばいいのかわからなくなりそうだった。ゾロは、ルフィがゾロに対する「好き」の気持ちがイルカやカメに向けられるモノとさして変わらないと思っているフシがあるが、イルカやカメのことを考えてこんなに顔が熱くなるワケがねェだろう、と、とりあえずそれだけは今度告げておこうと思う。 2004.11.13up 少し進展させて・・・みたの? なんだか妙に好評なデートものなので、 ゾロ誕も少し織り交ぜて打ってみました。 あぁ、Mうさんが次はバナナワニ園で! と言ったのですがバナナワニ園行ったことないので水族館に・・・。 水族館にもワニいるよね? いや、いたんだよ。私の行ったところは!! お気に召していただけるとよいのですが。
|