牧場
「おぉーっ」 窓の外に見える景色に、ルフィが感嘆の声を上げた。一面の黄色だ。一面の菜の花だ。 「よそ見をするな」 ゾロがぴしゃりと言うので、ルフィの眉に皺がよった。 「いや、でも見なきゃ勿体ねェだろ?せっかくだし」 こんなに広い菜の花畑を見るのは初めてかもしれないのだ。花の造作はもちろん見えないけれど、かえってそれが一面の黄色という印象を受けさせる。 「見たけりゃ代われ」 ゾロの口調は変わらない。つまりルフィは車を運転しているところなのだ。現在ゾロの車には「仮免許練習中」なる札がかけられている。この春休み、バイト三昧だったのはゾロだけではなかったのだ。三年生は、2月から自由登校になり、卒業式は3月1日に終わった。卒業式にすら連絡をくれなかったゾロに対して多少、腹立ちを覚えたのも確かだが、学校の友人たちと朝まで遊んでいたので(もちろん兄には叱られた)、まぁ些末なことだと言える。つまり、ゾロに対する当てつけとかそういうのとは全然違う方向で、ルフィは空いた時間に自動車学校なるものに通っていたのだ。そして現在仮免許練習中。 「よく兄貴が反対しなかったな・・・」 「反対されたさ。でも自分で稼いだ金だし。こんなにまとまった休みもきっと最後だろうしさ」 車はのろのろと進む。脇に広がる菜の花畑を楽しみたいわけではないだろう。今は至って真剣に前を向いている。この公道は田舎道だし、交通量が少ない、という理由で、抗いきれずに運転を代わってみたのだが、ゾロとしては大変に不安である。それでなくてもルフィの気は、あっちこっちに逸れやすい。 「・・・とるのはいいが、あんま乗ってほしくねェな・・・」 「何だ?」 とルフィが聞き返した瞬間、車が路肩にかたむく。 「寄りすぎだ!」 「ゾロが話しかけるからだろ!」 さっきよそ見していた人間の台詞とは思えない。 「あーわかった。黙っとく。とにかくこの道を真っ直ぐ行け」 それきりピタリと黙ってしまったゾロに対して、ルフィは内心戸惑いながらも、だからと言ってなにをどうすることもできずに、目の前に集中しようとする。道は一本道の上り坂で、左右に菜の花畑が広がっている。その景色に気をとられないように、前を向いているつもりが、どうにも今度は隣のゾロが気になってしまう。今日のゾロはなんとなく機嫌が悪い。久しぶりに会ったのに、怒ってばかりいる気がする。今だってものすごく難しい顔をしているのだ。 「前見ろ」 「・・・はい」 ちらちらと見ていたのがバレていた。目、瞑ってるのに、なんでわかるんだろう、とルフィは首を傾げつつ、前を向きなおす。一応、今日の約束はゾロから取り付けられたものだから、ルフィが無理矢理つきあわせたわけではない。ついでにちょっと運転を代わってもらっただけだ。やはりゾロの車で練習しようとしてるのが気に入らないのかなぁ、とか、なんだかいろいろ考えてしまう。 「・・・もう少ししたら、右に駐車場が見えるから。右折して止まれ。前や後ろに車が見えなくても一応ウインカーは出すように」 まるで教官のような口ぶりだ。ルフィはちょっとばかりむっとしつつも、言われた通り、ウインカーを出した。対向車がこないことを確認して右折する。教習所なら、もう一度後ろを見ろ、と注意されるところだが、ゾロはなにも言わなかった。 駐車場には数台の車が停まっていたが、駐車スペースはいくらでも空いていて、たいして苦労もなく、駐車することに成功した。頭からつっこんでいったけれど。ルフィはエンジンを切って、ゾロにキーを渡した。ゾロは特に何をいうわけでもなく、キーを受け取ると、助手席から車を降りた。ルフィもあわてて降りる。 「キレーだなーっ」 さっきゆっくり見損ねた、菜の花畑を見下ろして声を上げた。 「菜の花って食えるんだよな?」 と言えば、ゾロが少し笑ったので、ルフィはほっと息を吐いた。 「ゾロ、今日なんか変だよな」 言ったら、ゾロの顔がまた難しくなった。 「・・・すまん」 別に謝ってほしいわけではない。 「おれの運転、そんなにやだったか?」 「いや、そういうことじゃなくて・・・」 珍しくゾロが言いよどむ。 「・・・とにかく、メシにするか?」 「うん!」 あっさりごまかされてしまうルフィに、またゾロが少し笑った。
「・・・さっき食ったのコイツの仲間か?」 ルフィは真剣な顔をしてゾロに聞いた。昼ごはんは牛ステーキだった。ものすごくおいしかったのだが、今、目の前で呑気そうな顔をしている生き物を見て、思わず聞いてしまったのだ。 「そうかもなぁ・・・」 ゾロも負けずに呑気そうに答えた。ちょっとした意地悪だったのかもしれない。けれどルフィは、 「うまかった!ありがとう!」 と言って目の前の牛に頭を下げるので、やはりふきだしてしまった。ルフィの発想は相変わらずおもしろい。 「肉は好きだからなー。こいつらがおれを生かしてくれてるようなもんだな」 「野菜も食えよ」 「さっきの菜の花とか?」 「欲しけりゃ持って帰ればいい」 ルフィは笑いながら歩いた。いきなり視界がひらけてなにもない場所に出る。そこは遊具のひとつもない緑の芝生の広場になっていて、数人の子供が走り回っていたり、家族連れがレジャーシートを敷いてのんびり山を眺めていたり、犬を連れてきている人もいた。 「おーっ」 ルフィは思わず走り出す。広場は微妙な傾斜になっていて、全速力で走ると、奇妙な引力を感じておもしろい。 「ゾロ!鬼ごっこしよう!」 「はぁ?」 いきなりのルフィの提案にゾロが顔をしかめる。いくつだ、お前。と言いたかったが、あまりにキラキラとした笑顔で言われるので言葉に詰まった。 「制限時間5分!逃げ切ったらおれの勝ち!捕まえたらゾロの勝ち!で、負けた方が勝った方の言うことなんでも聞くんだぞ!」 つまっている間にいつの間にか勝負が成立してしまった。更に言うなら承諾も待たずにルフィは駆け出した。既に結構な距離だ。 「・・・案外卑怯なんだよなぁ・・・」 ゾロはポツリと呟いた。けれどまだまだ卑怯では負ける気はしない。そんな自信もどうかと思うが。さてどうするか。ゾロはその場で考えた。時計を見る。1分が経過していた。そもそもルフィはなにで時間を計っているのか疑問だ。ゾロはゆっくりとルフィが走り出した方向とほぼ直角の方向に向かって歩く。確かあの辺りに立てばこの広場を見渡せるはずだ。この広場は、ほぼ中央を頂点になだらかに傾斜しているので、その頂点に立てば、だいたいの範囲は見渡せる。2分経過。そろそろ不審に思う頃だ。 見つけたルフィはまだ全速力で走っていて、ゾロは小さく噴出した。後ろを振り向くだけの余裕もないらしい。また予想を外された。このまま行けばルフィの直線コースとゾロの直線コースはいい調子でぶつかるはずだ。あれだけルフィががんばっているのだから、ここは自分も頑張っておくべきだろう。ゾロは軽く屈伸をして、直線に傾斜を駆け下りた。
これだけ広い場所を思い切り走るのは気持ちがいい。ちょっとだまし討ちのように勝負をしかけたけれど、ルフィにしてみたらゾロが追ってきても、追ってこなくてもどちらでもよかった。どちらにしても勝つつもりだったからだ。だからいきなり前から手が出てくるとは夢にも思わなかった。 「・・・おれの勝ちだ・・・」 いきなり抱き込まれた。けれどルフィのスピードは完全に止まらずにゾロを巻き込んで転がる。芝生だからあまり痛みは感じない。それよりも転がる感覚の方がおもしろかった。楽しくて笑い転げる。 「人の上でいつまでも笑ってるな」 ひとしきり笑った後、ゾロの声が聞こえて、ゾロも一緒に転がってたのかと思うと余計におかしくなってきた。ゾロの眉間に皺がよったので、ルフィはあわててゾロの上からどいた。それからゾロの隣に一緒に転がって空を見る。 「あー。おもしろかった」 「そりゃよかった」 ゾロも寝転がったまま相槌を打った。 「空、キレーだな」 「夜になったらまた違う」 「あー。そんな感じだ」 きっと満天の星が見える。 「夜も入れるのか?」 「・・・入れないこともない」 それだけ言うとゾロは起き上がった。 「・・・このまま寝てるのも悪くねェけどな」 「そうだな」 ルフィも笑った。ゾロの眉間にまた皺が寄って、手がルフィの頭にのびた。あぁ、これは少し照れてる時の顔だったな、と思い出したら、優しく髪を梳かれてルフィにも伝染した。 「芝・・・ついてる」 「うん」 少し赤くなった顔をみられたくなくて、ルフィは俯いた。ゾロの手は普段乱暴なくせに、時々とても優しいのだ。 「で?なんでも言うこと聞くんだよな?」 「う・・・」 ルフィは口ごもる。背中についた芝もはらわれる。 「でもあれなんかおかしくなかったか?」 だって前から来たろ?と続くけれど、 「捕まえたら勝ちなんだろ?」 「うー・・・ひとつだけだからな!」 赤い顔をして睨みつけてくるルフィにゾロはまた笑った。 「さっさと言えよ!」 「いや、じっくり考えさせろ」 そう言ってニヤリと笑うゾロは悔しいくらいかっこよかったので、ルフィはとりあえず頭突きをかましておいた。
「お前、いい加減頭突きはやめろ」 「やだよ。今んトコ、おれがゾロの意表つける技ってそれしかねェんだから」 「・・・意表ならつかれっぱなしだけどな・・・ちゃんと姿勢よくしろよ」 馬の背の上での出来事だ。 「落ちたらゾロのせいだな」 「また今度教えてやる。今日のところは我慢しとけ」 ゾロは苦笑しながら手綱を握る。ルフィの頭越しに周遊コースを回る。空いている馬が一頭しかいなかったため、二人乗りとなっているのだ。本当はお互いこれも悪くないと思っていたのだが、口に出すことはしなかった。 「なら走れ。ゾロだったら走らせてもいいんだろ?」 ルフィも以前馬に乗ったことはあったのだが、走らせるところまではいかなかったのだ。ゾロは少しだけ躊躇したが、それでも馬の腹を蹴って走ることを促した。馬もそれに応えてスピードをあげた。ルフィはめまぐるしく変わる風景に夢中になった。 「・・・もう終わりか?」 やがて並足になった速度にルフィが不満の声をあげる。 「二人乗りなんだからあまり無理させるな」 それが馬のことだと気づいてルフィは反省した。乗せてくれている馬のたてがみの横を撫でた。 「ありがと。お前すげーなぁ。いっつもこんな景色みてるんだ・・・」 「・・・お前やっぱりスピード狂だな」 いつかの遊園地で、絶叫系の乗り物ばかりに乗りたがっていたことを思い出す。 「あー・・・車の運転する時は気を付けます・・・」 「そうしてください」 手綱を握る手がルフィの腰にまわって、背中から抱きこまれた。ゾロはルフィが心配なのだ。それはよくわかった。 「そろそろ種明かししてもいいかと思うんだけどな」 ルフィはポツリと呟いた。 「この馬、知り合いだろ?最初会った時のゾロへの懐き方、ハンパじゃなかった」 飼い主に再会した時の犬みたいに、ゾロの顔を見て喜んでいたのだ。元々ゾロは動物に好かれる性質だが、これはちょっと違う。 「なんだ?妬いたのか?」 「違う!」 混ぜっ返すゾロに思わず声が大きくなって、馬がピクリと動いた。 「あー、お前に怒ったわけじゃないからな?」 ルフィが慌てて言うのがおかしくて、ゾロは笑いを堪えた。堪えたが背中に伝わる振動で、ルフィにはあっさりばれた。これ以上機嫌を損ねないようにゾロが何かを口にしかけた時、蹄の音が聞こえた。 ルフィがゾロの腕越しに振り返れば、キレイな女の人が颯爽と馬を走らせてこちらに向かってきていた。 「おー。かっこいー・・・」 ルフィがポツリと呟いたと同時に、 「ゾロ!」 と声がかかった。どうやらゾロの知り合いらしい。ゾロの知り合いは美人ばっかりだなぁ、とルフィは少し複雑になった。 「まだ出てくんな」 そして毎回、ゾロはルフィといる時に知り合いに会うのを嫌がるのだ。けれど今、「まだ」と言った。ルフィが不思議そうに成り行きを見ていると、 「そんな場合じゃないのよ!緊急事態なの!ごめんねルフィくん、ちょっとつきあって!」 ルフィはわけもわからず頷いた。黒髪のキレイな女の人は何故かルフィの名前を知っていた。そういえばいつか会った美人もルフィの名前を知ってたなぁ、と不思議に思う。 「羊の厩舎!逆児みたいなの!」 美人は必死に言う。 「あんたもう見込みとれてんでしょ!急いで!」 そう言うと馬を翻して走って行った。ゾロは大変バツの悪そうな顔をしている。 「あー・・・ルフィ・・・あのな・・・」 「・・・早く行った方がいいと思うぞ?」 ルフィが女の去った方向を指差せば、ゾロは笑った。 「舌、噛むなよ?」
羊の厩舎には数人の人だかりができていて、ゾロが到着すると人垣からさっきの美人が現れた。 「全然踏ん張らないみたい」 ゾロがなにも言わずに横たわる母羊のそばに近づいた。 「どいてくれ」 そこにいる係員に声をかける。係員は、はっとした表情ですばやくその場をどくと、 「逆児のようです」 とだけ伝えた。ルフィはただ呆然と成り行きを見守った。美人は真剣な顔でゾロと羊を見ていたが、その手が少し震えていたので、ルフィはなんとなく握ってみた。美人は少しびっくりしたようにルフィを見て、それから視線をゾロ達に戻すとルフィの手をぎゅっと強く握り返した。 ゾロが羊の子宮に手を入れて、なんとか子羊を引っ張り出した。やっと出てきた子羊は呼吸をしておらず、心臓の鼓動もなかった。ゾロはその子羊を隣にいた係員にまかせ、他に子供がいないかをまず確かめた。どうやら、もう一頭いたようだ。今度引き出された子供は、心臓は動いていたが、呼吸をしていなかった。 ゾロは子羊の口を開け、自らの口で羊水を吸い出した。心臓の動きが弱くなってきたようで、ゾロは小さくなにかを呟いた。心臓マッサージを試みる。足がピクリと動いた。ルフィも握った手に力を込めた。ルフィの呼吸の方が止まりそうだと思った。
「ありがとう、ゾロ」 美人がゾロに告げた。 「いや・・・死産だった・・・」 ゾロは相変わらず不機嫌そうな、難しい顔をしている。 「でも一頭、助かったわ」 ゾロはなにも言わずに厩舎を出て行った。 「ルフィくんもありがとうね」 「・・・えーっと」 ルフィはなんと言ってよいのかわからず、言葉を探す。 「あ、ごめんね。私くいなって言うの」 くいなは微笑んだ。 「面倒かけて悪いんだけど、追ってあげてくれる?」 ルフィは頷いて、それからペコリとお辞儀をすると、慌てて厩舎を出た。 外は夕暮れが近く、空がオレンジ色に染まっていた。ゾロは厩舎を出てしばらく歩いていたらすぐに見つかった。羊の群れをぼんやりながめて柵にもたれていた。近づいてくるルフィに気づくと、 「あー。なんか悪かったな。バタバタしてて」 「んー・・・」 ルフィは曖昧に頷きながら柵に足をかけて上る。柵に腰かけるとゾロの頭に手を伸ばして抱きこんだ。 「・・・お前はいっつも突拍子がねェ」 ルフィに抱き込まれたままゾロが呟いた。 「・・・うん」 「・・・なんでも言うこと聞くんだったな」 「うん」 「じゃぁ、もう少しこのままでいてくれ」
「ゾロの姉ちゃん?」 「そうよ」 くいなはにこにこしている。それに反比例してゾロの眉間の皺はどんどん深くなっている。 「見せたら帰っていいんだろ!」 そう言うとゾロはルフィの手を引いてずかずかと車に戻ろうとする。 「えーっとつまりここは・・・ゾロの・・・」 「実家!」 ルフィくんまた来てねー、と言う姉にうっさい、と怒鳴りながらルフィを引っ張って歩くゾロはなんだか・・・かわいいと思う。朝の機嫌の悪さも、馬の扱いに長けてることも、やたら動物になつかれる、のは天性かもしれないけれど、なんとなくするすると疑問が氷解していった。 「・・・笑うな」 「笑ってねェよ」 いつもと立場が逆転だ。なんだか嬉しい。ゾロが舌打ちしながら車に乗り込む。仮免許練習中は外した。くいなたちと夕飯を食べてすっかり辺りは暗くなっているせいだ。この夜道を運転させろとはさすがのルフィも言う気はない。 「いい姉ちゃんだな」 「お前の兄貴と同じくらいな」 ルフィはまた笑った。 「父ちゃんとか母ちゃんは?」 「今はもういねェ。あそこはくいなが旦那と一緒に続けてんだ」 「そっか・・・ゾロ、4月からあそこに戻るのか?」 思い切ってルフィは聞いてみた。ルフィにしてみれば十分待ったと思うのだが。けれどゾロはそれに答えず、 「あとひとつ、寄りたいトコがあるんだが、いいか?」 ルフィは黙って頷いた。
そこは小奇麗な、ちょっとした一戸建てだった。手前に4台ほどの駐車スペースがある。ゾロはそこに車をとめると、車を降りて、ルフィを呼んだ。ルフィは不思議に思いながらゾロの後を追う。ゾロはキーケースから鍵を取り出すと、正面のドアの鍵を開ける。暗くて最初は気づかなかったが、そのドアはどうやらガラス張りで、一般民家っぽくはない。ゾロが家の中に入っていくので、ルフィも続いて入る。土足でもよいようだ。 ゾロが電気をつけると、そこは家というより、待合室だ。 「ここがおれの4月からの職場だ。頭金も無事貯まったしな」 「・・・病院?」 「あぁ」 診察室、と書いたドアをくぐる。部屋の真ん中に長方形のテーブルが置いてある。これはルフィの知る病院ではなくて、 「ゾロは、動物のお医者さんになるのか?」 「あぁ。元々は叔父が経営してたんだが、後継ぎがいないって言うんでな。くいなも身内に獣医がいた方がいいと言うんで獣医学科に進んだんだが、ほんとはあんまり乗り気じゃなかったんだ。お前にあれこれ言われるまではな」 「ゾロは動物に好かれるって?」 「そうだ」 ゾロは苦笑した。 「獣医っても客商売だしな、おれには向いてねェと思ったけど、お前がそこに立っててくれりゃ、なんとかなる気がする」 ゾロは受付を指差した。 「・・・・」 ルフィはただ黙ってゾロの話を聞いている。 「一応、裏と二階は住まいになってて、二人なら優に暮らせる広さなんだが・・・」 ゾロはそこで話をきった。それから黙ってルフィの答えを待つ。 「・・・遅い」 「は?」 「遅いって言ってんだ!そういうことを考えてんならもっと早くに言え!」 なんだか怒っている印象である。 「いや、試験の結果が16日までわからなかったし、そもそもここの頭金用意できるかギリギリだったからな。叔父相手とは言え、金のことはきっちりしたかったんだ。」 「ちなみに、試験っていつだったんだ?」 「・・・1日と2日。会えなくて悪かったな」 ルフィの卒業式の日だ。 「それも遅い」 「すまん」 「おれが就職他所で決めてるとか思わなかったのか?」 「・・・決めてたら考え直してもらうつもりだった」 あっさり告げるゾロにルフィは少々意表をつかれた。なるほど。意表をつかれるとはこういうことをいうのだな、と呑気に考える。 「どこの企業より、お前を必要としてる自信はあるからな」 まったくもって自信満々の顔に少し腹が立ったが、怒るのはやめにした。そのかわり、襟首をつかんで、思い切り噛み付いた。口に。 「・・・ほんとに意表つかされてばかりだな」 「おれのびっくりはこんなもんじゃねェぞ」 「待ってろって言ったのに?」 「言われても!」 ゾロは襟首をつかまれたまま、ルフィを抱きしめる。 「それで、返事の方は?」 相変わらず自信満々の顔をしているに違いない。 「さっきのお願い、ここで使えばよかったのに」 「あんなんじゃなくて、お前にちゃんと選んでほしいんだよ」 「断られると思ってねェだろ」 ゾロが笑った。 「エースになんて言うかな?」 笑いがピタリと止んだ。 「・・・一発なら殴られる覚悟はできてるが・・・」 果たして一発ですむだろうか。今度はルフィが笑った。 「とりあえず他のトコも見たい」 「いっそ泊まっていくか?」 「・・・なんか考えてる?」 「そりゃ考えるだろう。今日はかなり我慢してる」 「そうなのか?」 「そうなんだ」 至極真面目に言うので、ルフィはゾロの首に手を回して肩に顔を押し付けた。 「承諾と受け取っても?」 「エースにもう一発殴られろよ?」 「・・・了解」
2006.3.20UP ルフィが部屋の間取りとか確認できたのは当たり前ですが翌日です。 動物病院の助手に資格は必要ないそうですよ。 かかりつけの病院でたまたま従業員募集してたので聞いてみました(笑)。 これからWILD LIFE的な動物のお医者さん話になりますが、 書けませんから(笑)。 いや、単なる新婚さん話になりそうですが、 やっぱりムリですから(笑)。 これでこのシリーズはおしまいです。 最初は単に映画館で隣でいきなり寝られるというシチュエーションが書きたかっただけだったんですが、 これが好き、って言ってくださる方が思った以上にたくさんいらして、 ここまで続けることができましたv ありがとうございますvv この先、たまにはでかけるでしょうけれど、 基本的に毎日一緒なので満足されてることと思います。 ロロノア的にはでかけたくないくらいです(笑)。 毎日イチャイチャです。 好きに想像してください(笑)。 長いことお付き合いくださいましてありがとうございましたーvvv
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