ブランク。

 

  ほぼ三ヶ月ぶりにゾロと再会を果たしたルフィがまず連れていかれたのは、ゾロの勤める大学だった。どうやら、仕事中に抜けてきたらしい。

「だいたい10日に行く、ってなんだ。今日は何日だ。それにどこの空港の何時の便だとか書くべきだろう。そもそも手紙は配達に時間がかかるんだから、あぁいう連絡にこそメールを使え」

 空港から大学に向かう車の中でも、散々叱られた。

「家 出たの10日なんだから、10日に行く、で合ってねェか?いや、ほんとは、10日に着く予定だったんだぞ?どこの空港、とか言わなくても、ゾロに会いに行 くんだから、ゾロのトコから一番近い空港に決まってるし、何時の便かはあの時点ではわからなくって・・・って、そうだな。メールしなかったのはごめんなさ い。」

 ルフィは最後の点だけ素直に謝った。

「事前に連絡いれたら、ゾロに止められるかもしれない、と思ったんだ」

「どんな根拠で」

 ゾロが不機嫌そうに眉を顰めた。せっかく会えたのに怒ってばかりいる。

「たった一年くらい待てないのか、とか、一人で海外旅行なんか危ない、とか」

 

 ゾ ロは今年の9月から、この大学で教鞭をとっている。けれど、ゾロの研究室はまだ、ルフィの通う大学にあり、ここでは臨時の講師、という肩書きである。どう してそんなことになったのかは、ルフィの通う大学とこの大学が兄弟校だったり、総長同士の仲も良かったり、大学内で数人の講師が怪我を負う実験中の事故が あったり、それがたまたま工学科であったり、この大学の実験施設に大規模なものがあって、それが丁度ゾロの研究テーマに合致していたり、ひょっとしたら総 長であるルフィの叔父シャンクスの強い薦めもあったり。とにかく、諸々の理由で、一年の約束でゾロは異国の大学の臨時講師になったのだった。留学及び単身 赴任、といったところだ。

  ゾロは独身なので、単身赴任もなにもあったものではないのだが、ルフィにしたらそんな感じだ。実際、その話を聞いたときには、暴れそうになった。けれど、 ゾロの中ではすでに決定事項であったらしく、淡々と決まったことを報告された。泣きたいような気がしたし、怒りたいような気もしたが、ルフィももう20歳 になったのだし、ここで暴れたところで、ゾロが困るだけだと結論づけて、暴れるのはやめた。どうせ暴れたところで、意思は翻らない、と思ったせいもある。

  ただ、一年も離れ離れになるというのに、このドライさはどうなんだろう、と不安に思ったのは確かだった。ルフィも確かに湿っぽいのは好きではないが、もっ とこう、と思っても罰は当たるまい。実にあっさりと、ルフィの指導教諭兼恋人(たぶん)は異国に発っていったのだった。密かに腹を立てていたルフィは、最 初のうちは、こっちから連絡するものか、と頑張っていたが、3日で根負けして、携帯にメールを送った。その日のうちに返事があったので、つい嬉しくなって 何度も送った。けれど、ゾロの返信は、ルフィの質問に対してあっさりと返答をするだけのもので、終いには、あまりにひっきりなしに送るルフィのメールに辟 易してか、あまり送ってこないように、と返信される始末だ。

  その日のルフィの落ち込みようは、傍から見ていて気の毒なくらいだったらしく、いろんな友人が声をかけてくれて、相談にのってくれた。中でも、ナミの手紙 を書いたらよい、という提案はすばらしかった。こんな風に遠くに離れなければ、ゾロに手紙を書くことも、ゾロから手紙をもらうこともなかったのだと思った ら、これはこれで意味のあることなのだと思えてルフィは嬉しくなった。意外にもゾロはマメに返事をくれて、そして、絵葉書をたくさん送ってくれた。ルフィ にとったら、大変なプレゼントをもらった気分だった。

  ゾロの誕生日のプレゼントを買うためと、一年のうち何回かは会いに行こう、とお金を貯めるべく、ゾロが発ってからすぐにルフィはバイトを始めた。忙しい方 が、気が紛れてよい、と思ったのもある。絵葉書が毎日のように届くようになってから、ルフィはどうしてもゾロに会いたくなった。こんな風に、毎日葉書を 贈ってくれる、ということは、ゾロも毎日、葉書を出す瞬間だけは、ルフィのことを思い出してくれているに違いない、と思ったせいだ。

  どうせなら誕生日プレゼントも手渡ししよう、と、ルフィはまた搭乗手続きやら授業の代返やらをナミたちに相談して、論文もひとつ片づけて、飛行機に乗った のだった。一日日をまたいでしまったのはある意味誤算だった。本当は日付が変わると同時に、ゾロにおめでとうと言って、プレゼントを渡したかったのだが。

  そして、今。とてもプレゼントを渡せる雰囲気ではない。おめでとうも言いづらい。さっきからゾロはルフィを全然見ない。車を運転しているのだから当たり前 だが。ルフィも仕方なく、窓の外を見る。確かに一目で異国とわかる町並みは大変興味深く、ルフィはゾロにもらった絵葉書の風景がないかどうかを見極めるの に夢中になった。とりあえず、その場で一番楽しそうなことをするのがポリシーだ。本当は、ゾロの顔を見ていたかったのだけれど、不機嫌そうな顔をみている と、さすがにいろいろ不安になる。車がやがて大学の敷地内に入って行った。広い。ルフィの大学もかなりの規模を誇っているが、その3倍くらいはありそう だ。

「うぉー」

 思わず叫んだ。石造りの立派な建造物が目の前に現れたからだ。

「城?」

 率直な意見にゾロがまた複雑な顔をした。

「校舎に決まってるだろう。言ったろ?こっちの建造物は石造りが基本で、ここの講堂なんかは500年近くそのままの形を保ってる。」

「ふぇー。サンジが見たら、喜ぶだろうな」

 ルフィは単純に感心した。ちなみにサンジとはゾロと共通の知り合いの助教授で、建築が専門だ。

「お前建築の方も選択でとってたろうが。なにを聞いてるんだ」

「むー。また説教か」

「悪かったな。説教でもしねェと間がもたねェんだ」

  ルフィが首をかしげている間に車が止まった。車を降りたルフィを迎えたのは、意外にもコンクリートの無機質な打ちっ放しの、低層建築だった。お城のような 校舎は明らかに10階建て以上はあったはずなのだが、打って変わったシンプルさだ。そして、ルフィが正面から見る限り、この建物には窓がない。校舎が城な ら、これはさしずめ

「秘密基地?」

「実験施設。まぁ、その喩えは悪くない」

 何処から入っていいのか、入口も判然としない建物であるが、ゾロが手をかざすといきなり入口が現れた。

「おぉーっ!!」

ゾロのあとに続くと、自動的にドアが閉まった。ドアはシャッター形式で、登録してある指紋を照合して、開閉するらしい。入口がわかりにくかったのは、ドアの部分にも、コンクリートと同じ色の拭きつけがしてあったせいだ。ルフィは目を輝かせた。

 数メートル歩くと、またアルミのようなシャッターがおりていた。ゾロは壁にある四角いガラスパネルに手を当てて、

「ロロノア・ゾロ」

 自分の名前をゆっくり言った。

「ここに手を当てて、自分の名前を言え」

 ルフィはかなりドキドキした。まさに秘密基地の装いだ。ゾロと同じように、パネルに手を当てて、名前を言う。いきなりどこかから、女性の声がした。すぐに機械の声だとわかる。だが、なにを言っているのかがよくわからない。

「ゲストを一名、登録した、と言った」

 ゾロが通訳してくれた。同時に、ドアが今度は横にスライドした。ルフィは興奮を隠し切れずに、

「すごいな!ほんとに秘密基地みたいだ。ゾロ、今どんな研究してんだ?」

「企業秘密。少し声が大きいぞ」

  注意されたが、ルフィは周りを見るのに忙しい。確かに、校舎や町並みの荘厳さには感動したけれど、こういうカラクリの方が、より楽しくて、ルフィは好き だ。アルミドアの向こうは通路になっていて、通路の左右の壁の凹んだ部分に、ドアがある。このドアはどれも一見してドアとわかるものだ。すべてのドアの横 には、アルミドアと同じようにガラスの四角いパネルがついている。

  いきなりドアのひとつが開いた。中から出てきたのは、長髪の男で、年はだいたいゾロと同じくらい、に見えた。ルフィはいきなり人が現れて驚いたが、向こう はもっと驚いたようだった。ゾロがさりげなくルフィの前に立つと、男に話しかけた。なにを話しているのかルフィにはわからない。意思の疎通は度胸と情熱で なんとかなると思っていたが(現に税関のおじさんとは友達になった)、こういう時には、やはり語学は学ぶべきだと思う。ルフィは落ち着いて、二人の話に耳 を傾けた。少しは聞き覚えのある単語が出てくるかもしれない。最初からわからないものとしてはいけない。一応、現役大学生なのだし。

  たぶん、これは「生徒」だ。ルフィのことだろう。どうやら、現在の同僚にルフィのことを説明しているらしい。自然の流れだ。けれど、途中で、同僚らしき男 の顔が曇った。ゾロも負けずに不機嫌そうな顔をする。やっぱり、いきなり来たのはまずかったのだろうか、とルフィが不安になった頃、

「お前、いつ帰るんだ?」

 いきなりゾロに聞かれて、ルフィはうなだれた。今来たばかりなのに、もう帰る話か。その気配を察したのか、長髪の男があわててゾロになにか言った。

「・・・こいつはサガ、と言って、ここの助教授だ。お前を歓迎したいのだが、いつまでこの国にいられるのか、と聞いている」

 ルフィはいきなり破願した。なんだ、いい人だ。

「えぇ・・・っと7日くらい」

「帰りのチケットはとってないのか?」

「うん。ナミが帰りはゾロにとってもらえって言った」

「・・・なんだ、結局ナミがここまでの手続きしたのか」

バ レてしまった。鼻で笑われた気がする。けれど、心なしか嬉しそうな気がするのは何故だろう。それからまたゾロはサガに向かって何事かを話した。いくつかの やりとりがあって、やっとゾロは先に進んだ。あとをついて行こうとしたら、サガに握手を求められたので、ルフィはそれに応じた。

「ルフィ?」

  いきなり名前を呼ばれたのでいささか面食らったが、笑顔で返事をした。はい、といいえぐらいはルフィにだって言える。するとサガがいきなり笑い出して、ル フィを抱擁した。なにが楽しいのか、ルフィの名前を呼んだ。ルフィはわけがわからないなりに、サガの背中をポンポンと叩いた。とにかく、大変歓迎してくれ ているらしい。けれど、ゾロがどんどん先に行ってしまうのではないかと一瞬不安に思ったら、ドカッと音がして、サガの体が崩れた。持病の癪かと心配した ら、

「行くぞ」

 と、ゾロがルフィの腕をつかんだ。引きずられるように歩きながら、サガを振り返ると、まだ笑いながらこちらに手を振っている。つかまれていない方の手でルフィは手を振り返し、

「ずいぶん、テンション高い人だな。こっちはあぁいう芸風の人が多い?」

「芸風ってなんだ。奴も普段はあんなじゃない。今日はちょっと特殊だ。お前に会えて嬉しかったんだろう」

「なんで?」

「さぁ」

  ゾロは言いたくないことは言わないので、これ以上聞いてもムダだろう。それになんだか、また機嫌が悪くなってる気がする。ゾロが立ち止まって、パネルに手 を当てると、音もなく扉が開いた。そのコンクリートに囲まれた部屋は、ルフィのよく知るゾロの研究室によく似ていた。違いは窓のある場所が壁であり、そこ にいろいろな機材が置かれている。

「ナミはこっちの建物の中の方が好きそうだけど。うちの大学の設備褒めるくらいだから、こんなの見たら、すごいだろうな」

  ルフィはそう言って、部屋を見渡す。大変に雑然としている。コーヒーが入れたまま放置されていたり、机の上には、封の切られていない郵便物がたくさん。ゾ ロは部屋に入ると、黙々と機材のチェックを始めていた。そういえば電気もつけっぱなしだったけれど、ここはそういうシステムなんだろうか、とそこまで考え て、ルフィは思いつきを口にしてみた。

「・・・もしかして、すごく焦らせた印象・・・か?」

 机の上に開かれている、見覚えのある便せんを見て、ルフィはちょっと強気に出てみた。ひょっとして、一番最初に読んでくれているのだろうか。そして、ルフィの電話で、やりかけだった仕事を中断して、あわてて出てきてくれたのだろうか。

「・・・ごめんなさい。大事な実験だったか?」

 嬉しさと同時に反省した。反対されても事前に連絡をいれておくべきだったと思った。

「・・・いや、別に構わない」

  ゾロはルフィにはわからない機材をあれこれ動かしていた。ルフィは手持ち無沙汰だったけれど、さすがに、その辺のものを勝手に触るわけにはいかないだろう と、借りてきた猫のようにじっとしていた。こんな風に、仕事(らしきこと)をしているゾロをただぼんやり見ているなんて、滅多にない経験だ。これはこれで 新鮮だ。

「待たせたな。帰るぞ」

 ゾロが振り返ると言った。

「どこに?」

 思わず強制送還されるのかと身構えたら、ゾロは怪訝そうな顔をして、

「家に決まってるだろ」

 

 

  施設を出て、駐車場に向かうと、ゾロの車の横に女の子が立っていた。髪が腰の辺りまでのびていて、大変に可愛かった。ビビをもっと儚げにしたような感じ だ。いつもなら、かわいいな、ですむ話なのだが、ゾロの車の横に立っている、ということが問題だ。明らかにゾロの知り合いくさい。

「ゾロ先生」

 彼女がゾロを呼んだことはルフィにもわかった。嬉しそうな顔をしていて、本当に可愛い。ルフィはイヤな予感がした。

『お誕生日おめでとうございます』

 そう言って彼女はゾロに持っていた大きな包みを渡した。先を越されてしまった。ルフィが一番先に言おうとしていたのに。そんなルフィを気に留めることもなく、ゾロは包みを無造作に後部座席におくと、彼女となにか話しはじめた。いきなり、彼女がこちらを向いた。

「ルフィ・・・さん?」

 彼女が、ルフィの国の言葉で話しかけて来た。ルフィはコクリと頷いた。ほんの少し、悔しかったのもあって、笑顔を返すことが出来なかったのが我ながら情けないと思った。

「私、マヤと言います。お会いできて嬉しい」

 にっこりと笑われて、ルフィもつられて笑った。ちょっとイヤな気持ちも抜けてほっとした。

「マヤはここの学生?」

「いいえ?事務員をしています。ゾロ先生にルフィさんからのお手紙を届けるのも私の仕事です。今日のパーティーの準備も私がしましたが、ゾロ先生の言う通り、誕生日は好きな人と過ごすのが、なによりのプレゼントですものね。」

「・・・サガからなにを聞いた・・・?」

「先生が祝う気があるなら帰らせろ、と言って7日の休暇をお取りになって、お帰りになるから今日用意していたプレゼントを渡すように、と言付かっただけですよ。あとはゾロ先生のルフィさんと少しお話したかっただけです」

 ゾロとマヤの話はルフィの国の言葉だったので、言葉は理解できた。だが、相変わらずなにを話しているのかは理解できなかった。言語以外にも壁はあるものだ。

「えぇと、マヤ?」

「はい」

見た目ほど儚いわけではなさそうだ。

「なんでみんな、おれのこと知ってんの?」

「ほら、ルフィさん、写真を葉書で送ってこられたでしょう?先生しばらく研究室に飾ってらしたんですよ。」

「しまい忘れただけだ」

ころころと笑うマヤに、ゾロが憮然として返す。

「ゾロ先生が楽しみにしてらっしゃる手紙の『ルフィさん』が写真の中のどなたかの賭けも成立してしまって・・・サガがとても喜んでました」

サガはルフィに賭けていたらしい。あの写真には、ビビもナミを写っていたのにあるイミすごい。サガの歓迎の意味もわかったような気がしたが、ルフィはなんといって返していいのかわからずにゾロを見た。

「滞在中にぜひ遊びにいらしてくださいね。ルフィさんの国のことを聞かせてください。私の母が生まれた国なのですが、ゾロ先生は、研究ばかりで、ちっともそう言う話をしてくださいませんので。ルフィさんからの手紙が届いたときにだけ・・・」

「行くぞルフィ。7日の間に一度は連れてくる。それでいいな」

話をさえぎるように、ゾロはルフィを車に押し込んだ。

「あ、はい。引き止めてすみませんでした。ではすてきな蜜月を。」

にっこり笑う顔に悪気はまったく感じられなかった。ルフィは多少、混乱の残る頭で今の出来事をあれこれ消化しようとしていたのだけれど、どうにもうまくいかない。混乱がおさまらないうちに、車は目的地についてしまった。

 ゾロが住んでいるという家は、大学からほど近い住宅街にあって、一戸建てだった。一年の契約で借りたらしい。

「えぇと・・・ゾロはサガとかマヤとかと今日、約束してた?」

 ルフィは家の観察もそこそこに、気になっていたことを聞いた。家の鍵はありきたりのシリンダー錠で、さっきの研究所とは雲泥の違いだ。ゾロに促されて中に入る。

「別に約束していたわけじゃない。また別の機会を設けるそうだ。名目はおれの誕生祝からお前の歓迎会、になるだろうが」

「やっぱり、誕生会の予定だったんだ・・・」

「・・・いい年して誕生会もなにもあるか。宴会の名目だ。」

「・・・マヤからもらったプレゼントってどんなんだ・・・?」

 ゾロは袋の中身を取り出した。中からは、酒と缶詰がゴロゴロと出てきた。

「酒とつまみ。有志一同、かららしい」

 ゾロが苦笑した。ルフィも少し驚いて、それから笑った。空気が少し柔らかくなる。ルフィはゾロの服の腕をつまむと、肩にこつんと額をあてた。

「ゾ ロ、誕生日おめでとう。ほんとはおれが一番最初に祝いたかったんだけどな。あと急に来てごめんな。ゾロを祝うより前におれがゾロに会いたかっただけなん だ。仕事の邪魔もする気はなかったんだけど、休み・・・とってくれてありがと。でも仕事ばっかりしてるのもどうかと思うぞ」

 あまり帰っていないのだろう。生活のにおいが感じられない部屋のなかでルフィは呟いた。

「こっちに来たのは仕事のためだ。雑事が少なくて、仕事場としての環境はまずまずだし、休む理由もない。理由があれば休む。それだけだ。」

「・・・あのさ・・・ゾロ、少しはおれに会えて嬉しい、とか思ってる?」

  ルフィが俯いたまま呟くと、肩をつかまれて、何事かと顔をあげたら口にかみつかれた。ルフィは舌を食べられてしまうのではないかと一瞬危ぶんだ。こんな風 に捕食されるような感覚を覚えたのは初めてだった。ゾロはいつもルフィに触れるとき、腫れ物に触るように扱う。キスだって、ルフィがねだらなければ滅多に してくれないというのに。戸惑いと同時にからだから力が抜けた。それでもゾロはルフィの腰を抱いて崩れ落ちそうになるからだを支えると、執拗に貪った。

 しばらくそうしていて、やっと唇が離れると、ルフィはゾロのシャツの背中をつかんで胸に顔を埋めた。

「空港で会ったときからこうしたいと思う程度には」

 頭の上からあっさりと降ってくる言葉に、ルフィは嬉しすぎて腹が立った。

「だったら、最初っからそう言ってくれりゃいいのに・・・だいたいゾロはまぎらわしいんだ。怒ってるのかと思って心配してたおれがバカみてェじゃねェか」

「そりゃ悪かった」

聞こえる声がなんだか楽しそうで、ルフィは更に悔しくなったし、更に嬉しくなった。膝に力がはいらないので、その分腕に力をこめてぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「ほんとに悪いと思ってるのか?」

「それなりに」

「・・・じゃぁ、今みたいなのもう一回しろ」

「・・・一回でいいのか?」

「・・・・今日はゾロの誕生日なので、ゾロがしたいだけでいい」

 ゾロの口から苦笑がもれた。そういえば、まだプレゼントを渡してないな、とルフィは思ったけれど、あとでもいいや、と目を閉じた。

 

「冬休みになったら、また会いに来るからな!」

「来なくていい」

 強気になって言ってみたのにあっさりと却下されて、ルフィはまた落ち込みそうになった。けれど続く言葉に顔を輝かせる。

「冬はおれが帰る」

「ほんとか!?」

「・・・あぁ。あまりブランクがあると免疫力が低下して、思わぬ醜態を晒すことを学習したんでな。あとは、お前の報告により定期的な威嚇も必要だと判断した」

「わざと難しい言い方してねェか?」

 ルフィは首をかしげた。

「じゃぁクリスマスこそおれが一番最初にプレゼント渡すからな!」

 今回一番の反省点を口にしてみたら、

「今回もお前が一番最初だったけどな」

 と、返った。たまにはブランクもよいのかもしれない。





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