「うわ・・・」 ルフィは思わず言葉につまった。これは、なんかずるい。 「なんだ、出会い頭にそのコメントは」 ゾロが嫌そうに呟いた。ゾロは学ランを着ていた。それ自体は珍しいことではない。二人の通う中学は男子は学ラン、女子はセーラーだ。ただ、普段着ている学ランとは、丈の上で大きく異なっていた。つまりは長い。長ラン、というやつだ。丈が違うだけでずいぶんイメージが変わるものだ。ルフィはまじまじとゾロを見てから、ふと気がついた。 「おれもそれ着てみたい」 「は?」 「ゾロばっかりかっこいいのずるいぞ」 「・・・格好いいか?」 ゾロは顔を顰めて自分の姿を見下ろす。この時代遅れの長ランを格好いい、というルフィのセンスがよくわからない。けれど、自分で着れば気がすむのなら、まぁいいか、とゾロは長ランをあっさり脱いで、ルフィに渡した。 「時間ないから、少しだけな」 長ランの下は、体操服だ。ちなみに、ルフィも今、体操服を着ている。なんで、長ランなど着るハメになったか、と言えば、体育祭における、応援団などというありがたくもない役職をおおせつかったからだ。明日に備えて衣装をつけての最後の練習に向かうところだった。放課後の廊下での出来事だ。 「ゾロは怒鳴るの得意だからなー。それに応援団って、格好いい奴がやるって決まりなんだって」 「・・・誰が言った?」 「ウソップ」 なるほど。そう言われてルフィは承諾したのか。単純でいい。ウソップとは一年のとき、ゾロも同じクラスだったので知っている。ルフィも団員なのだ。ただ、ゾロは赤組、ルフィは白組であったが。ちなみに、ゾロの場合もクラスに一人出さなければいけない団員に推薦され、強固に断っていたのだが、最終的には教師命令である。ここしばらくの素行不良を大目にみてくれるという、あまり感心しない裏取引の結果だ。たぶん、あれは教師陣、勝敗に賭けているに違いない。 「おれは衣装汚しそうだから、本番まで着ちゃダメなんだってさ。応援合戦も点数に加算されるから・・・ってやっぱそうだ!」 喋りながら、ゾロの着ていた長ランに袖を通したルフィが叫んだ。 「ゾロ、おっきくなってる!」 ルフィは右手をゾロの目の前に突き出した。袖口からは、指しか出ていない。ルフィは面白くなさそうに、袖口を眺めていた。下げている左手からは指すらも出ていない。そういえば、ルフィとこんなに近くで長いこと話すのも久しぶりだ。そして、ゾロは唐突に、ルフィが自分と話すとき、上目遣いになっていることに気がついた。だからなんだと言われても困るのだが、なんとなく、衝撃を受けた。そして、体操服の上から長ランを羽織って、腑に落ちない顔をしているルフィの、長ランの裾から伸びている足を見て、少し動揺したことがなにより衝撃だった。 「もういいだろ、とっとと脱げ」 目を逸らして乱暴に言ったが、ルフィは気にする風でもなく、 「うん、ありがと。おれのが絶対、ゾロより食ってるのになぁ・・・」 ぶつぶつ言いながらゾロに長ランを渡した。もう、普通の見慣れた体操服だ。 「・・・まぁ、成長期はお互い様だ。お前も練習あるんだろ」 「そうだった!じゃぁなゾロ!明日は敵同士だけどお互いガンバロウなっ!」 そう言ってあっという間に駆け出して、見えなくなった。さぞかし明日のリレーでは活躍することだろう。 自分を襲ったわけのわからない衝撃に首をひねりながら、ゾロは校庭へと足を進めた。
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