初参り
「いまから空いてるか?」 ルフィから電話があったのは、暮れも差し迫った、本当に差し迫った12月31日午後10時30分のことだった。これがルフィ以外の人間にだったら、 「空いてるワケねェだろ」 と言ってしまうところなのだけれど。 現在午後11時。いつもの駅でボーッと立っている自分にゾロは苦笑する。電話を切って、すぐに用意をして、地下鉄に乗り込み、今に至る。自分がこんなに機敏に動けるとは驚きだ。11時だというのに、駅構内はたいした人出だった。世の中にはヒマな奴が多い。と自分のことを棚にあげて、ゾロはため息をつく。人の多い場所はあまり好きではないのだ。すぐにそんなことは気にならなくなるのだが。 改札から人が溢れてくる。ルフィの使う路線だ。目を向ける。目立つのですぐわかる。器用に人波をすりぬけてくる。感心しながら眺めていた。一直線に自分に向かってくるのがわかって少し嬉しくなる。焦っているようだ。きっとゾロが先に着いていたことに対する焦りだろう。慌てている様がおもしろい。たぶん第一声はこうだ。 「ごめんなっ!遅れた!」 笑うゾロをルフィが不思議そうな顔で見た。
電車のドアから外を眺める。ルフィには見慣れた景色。ゾロには初めて見る景色。座席はいくつか空いていたが、二人はドアの前に立っている。 「座らなくても平気か?終点まで行くぞ?」 ルフィが尋ねる。 「別に立ってるのは苦じゃねぇが」 ルフィが座りたいならば座ってもかまわない、とゾロは言外に含ませた。 「いや、ゾロがいいなら立ってたいんだけど」 ゾロがルフィを見る。促されるようにルフィが続けた。 「今日は、なるだけゾロと一緒のモン見たいと思って」 座ったら一緒に窓の外見たりしにくいし。と、あっさり言われてゾロは少し困った。自分が深読みしすぎるのだろうか。ルフィは全然気にした様子もなく、外を眺めている。少し悔しかったので、 「お前がおれの膝の上に座れば問題ねェと思うが」 と言ったら脛を蹴られた。 「お前最近暴力的になったな」 「ゾロが変なこと言うからだ。常々思ってたんだが、お前おれをいくつだと思ってるんだ?」 そういえば今まで気にしたことがなかった。いや、気にしないようにしていたのか、よくわからない。 「いくつなんだ?」 思い切って聞いてみた。 「17」 「よかった」 「なにが?」 「義務教育期間中じゃなくて」 ルフィが少し眉をひそめる。よくわからない、と言った顔だ。 「でもお前こんな時間に出歩いて平気なのか?」 ゾロは話を逸らした。今までもそんな夜遅くにはならないように家に帰していたつもりなのだが、案外、門限とかは気にしない家庭なのだろうか。だが、話に聞く限り、ルフィの兄というのはかなり手強そうなのだ。 「今日は友達と初参りに行くって出てきたから大丈夫!」 ルフィがカラリと晴れた笑顔で言った。まぁ、友達、には違いない。たぶん。そして、初参り、と言ったか。初参りと言うとあれだろうか。新年の初めに寺や神社に行く、というアレだろうか。ああいうのは宗教は関係ないのだと誰かが言っていたのだが、ルフィもその口なのだろうか。確かにこの国で神教を信奉している人間の話はあまり聞かないが、この時期に神社へ行く人間はうんざりするくらいの数に上ると聞いている。あれに混じるのだろうか、と少し気が重くなりはしたが、まぁ、ルフィと一緒なのでよしとしよう、と気持ちを切り替える。ルフィが行くから自分も行く。その程度の気持ちでも罰当たりとは思わない。そもそも罰を与える存在自体、ゾロは信じていないのだ。 終点にどんな施設があるのかは知らないが、この電車の中を見る限り、そうたいして混む場所ではないはずだ、とやや楽観的に構える。ゾロはまた窓の外に目を向けた。なんの変哲もない風景だ。けれどルフィはいつもこの景色を見ながら帰るのだと言う。ただそれだけで少し特別なものに感じた。空には星がいくつか見える。ゾロはまたルフィを見る。ルフィもまた窓の外を見ていたがゾロと目が合った。同じモノを見たい、と言ったルフィの気持ちが少しだけわかったような気がした。 「ゾロの方こそ大丈夫だったのか?」 不意にルフィが口を開く。 「家族でなんかしたりしねェの?」 急に誘ったことを気にしているらしい。 「一人暮らしだからな。イベントもなにもねェよ。年越しもただの休みと変わらねェ」 寧ろ、ゾロの方が遠慮していたのだ。イベント事のあるような日はルフィに予定があるに違いない、と。こういうのを棚からボタ餅、というのだろうか。けれどゾロはおはぎもあまり好きではないので、違う言葉を思い出そうとする。どうでもよい話だけれど。 「なら、よかった」 ルフィの呟きは車内アナウンスにかき消された。間もなく終点に着くらしい。
二人の降りた駅周辺の人影はかなりまばらだった。当然ながら店はどれも閉まっている。ルフィは気にすることなく、歩いていくので、ゾロもその後に続く。なんとなく不思議な感じがする。車道にはひっきりなしに車が行き交っているのだが、歩道には誰もいない。実際には何人かとすれ違っているのだけれど、ゾロの目にはルフィの背中しか見えていなかった。ふとルフィが止まる。 「どうした?」 ゾロが後ろから声をかけるとルフィはこちらを見ずに続けた。 「なんで後ろを歩くんだ?」 なんで、と言われても特に理由はない。強いてあげれば、行き先がわからないせいだろう。 「気に入らないか?」 質問に質問で返す。今日の自分はちょっと意地悪かもしれない、とゾロはこっそり思った。 「いや、別に後ろ歩くのはいいんだけど・・・」 ルフィの歯切れがなんだか悪い。ゾロは少し気になってルフィの隣に並ぶ。ルフィの顔が少し赤い。 「なんか、ゾロ、後ろでおればっか見てないか?」 消えそうな声で言われて、ゾロは納得する。ルフィはゾロと同じモノが見たい、と言っていたのだ。自分の背中は見られまい。 「あぁ、悪かった」 ゾロは少し笑って言った。苦笑だ。気づかれるほど熱心に見ていた自分に。 「じゃぁ、腕でも組むか?」 試しに言ってみた。また蹴られるかもしれない、と思ったが、ルフィはゾロを少し睨んで、それからゾロの右腕を自分の左腕で抱えた。そしてそのまま黙って歩く。当然ゾロも同じ速度で歩くことになった。赤いまま、少し怒ったような顔をしているのがおもしろくてゾロが笑った。 「なんだよ」 「いや、背中もいいけど顔が見える方がいいと思って」 「・・・今日はおれのこと見るの禁止」 「無茶言うな」 「だっておれはおれのこと見れねェもん」 こんな風に至近距離でじっと見られるのは心臓に悪い。急に右腕にある体温が気になりだしてゾロは落ち着かなくなった。 「・・・努力する」 どこからか鐘の音が聞こえた。所謂、除夜の鐘というやつだろう。 「ゾロは鐘ついたことあるか?」 「ない」 そもそも誰でもつけるものなのか?というところから始まる。除夜の鐘。12月31日の夜12時をはさんで寺院でつく鐘。どうやら今は最後の鐘を新年0時につくことになっているらしい。百八の煩悩をとりさる意味から百八回つく。そのぐらいの知識はゾロにもあるのだが、なぜ鐘をつくと煩悩が取り去られると言われているのかはよくわからない。し、煩悩がすべて取り去られたら種としては絶滅だろう、とも思う。よくわからない風習だ。 「だろうと思った」 ルフィが笑った。その顔を見たいと思ったが、叱られそうだったので我慢した。
歩道もなくなり、車も通らないような細い道に入り、街灯の数もまばらになり、ついには街灯すらもなくなり、舗装されている道路でもなくなった。そして急な坂。つまり、山道に入った。枯れ葉を踏む音がやけに大きく聞こえる。月が明るいせいで足もとに不安はないが、こんな夜中に山道を登った経験はゾロにはないので、幾ばくかの戸惑いは否めない。ルフィの方は慣れているのか迷いなく歩いていく。きっと何度も来たことがあるのだろう。 一応その山道は道として成立していて、途中途中では休憩できるようにか、椅子がおいてあったりする。それなりに登山客も多いのだろう。昼間なら。そういえば、この山に入る時、金網の途切れた場所から強引に入ったが、ひょっとしたら夜間は立入禁止だったりするんだろうか、と誰とも会わない状況から考えてみたりもする。 誰とも会わない、というのが気に入らないわけではなく、寧ろ好都合のような気もするのだが、こんな暗がりで更に人目につかない状況で、自分にくっついて歩く危険性にルフィはまったく気づいていない。 「安心するな、って言ったはずだが」 ゾロがポツリと呟いた。鐘の音はいつのまにか聞こえなくなっていた。 「ここでちょっと休憩な」 ルフィの体がゾロから離れて、備え付けの椅子に座った。ゾロは急に寒さを覚えて、少し震えた。やはり冬だ。寒い。ゾロも続いてルフィの隣に腰掛ける。 「ゾロ上」 指の示す方向を見る。空には満天の星。 「キレイだろ?」 ルフィが歌うように言った。ゾロは少し圧倒されていた。こんなにたくさんの星を見るのは初めてかもしれない。 「冬の星座は一番わかりやすいんだ」 ルフィが続ける。 「まずあそこにみっつ並んでる星を見つける」 指差す方をみれば確かにみっつ、ほぼ直線に並ぶ星がある。 「あれがオリオン座の一部。三光って言うんだって。それから下に見えるのがおおいぬ座。あれがシリウス。シリウスのこと天狼星って言うの知ってるか?オオカミの目に似てるかららしいんだけど、暗いところで見たらあんな風なんかな」 プラネタリウムに来たかのようだ。解説も心地よいと思う。 「そんで、三光の直線上にあるのが牡牛座。でもほんとはおれも星座自体はよくわからねェんだけどな。だってどう考えてもその形に見えないものの方が多いし。そんであれがプレアデス星団。おれは昴って呼び方の方が好きなんだけど、エースはプレアデス星団って言わないと怒るんだ。」 じゃぁ、最初から昴なんて言葉教えるなよな、と呟くルフィにゾロが尋ねる。 「エース?」 「あ、兄ちゃんだ」 また兄か。ホッとしたような、悔しいような、複雑な心境だ。 「エースがな、好きなんだ」 目的語を略されて一瞬呼吸が止まった。重症だ。 「星を?」 数秒後、なんとか会話を続けることに成功する。 「うん。いろいろ教えてくれんだけど、言ってることの半分もたぶんわかってねェと思う」 「それだけわかりゃ十分だろ」 ゾロが笑ったので、ルフィも嬉しくなって笑った。 「こないだの帰りな、電車の中から星が見えて、今ゾロが隣に居ればいいのにな、って思ったんだ。さっき別れたばっかりでおかしいとは思ったんだけどな。だから、今、ちゃんと隣で同じモノが見れてすげェ嬉しい」 ずっとこうだといいのにな、と呟かれてゾロは頭を抱えたくなった。ルフィの肩を思わずつかむ。 「ゾロ?」 近づいてくるゾロを見ながら、ルフィは暗い所で見るオオカミの目はこんな感じなんだな、と呑気なことを考えていた。天狼星と同じかどうかまでは考えが及ばなかった。途中で呼吸困難に陥りそれどころではなくなったからだ。前回とはまるで違う。歯列を割って入って来た舌に、上顎を舐められたり舌を絡め取られたり、背中を走る悪寒のようなものだとか震えそうになる膝だとか、とにかく全然違った。 「今日はおれ見るの禁止って言ったのに」 息も絶え絶えにルフィが訴える。ゾロはまた手が伸びそうになるのを堪える。 「だから昨日は努力した」 鐘が鳴り終わっているのだから、日付はとうに変わっているはずだ。 「あぁ、でも確認とるのを忘れてたな」 次にする時はちゃんと確認を取る、と約束したのだ。 「いいか?しても」 今更改めてそんな真面目な顔で聞かれても困る。 「不意打ちも恥ずかしいけど、改めて聞かれるのも恥ずかしくて困る」 ルフィは困った顔のままゾロに告げる。実際さっきのは不意打ちとは違う。十分、ゾロを止めるだけの時間がルフィには与えられていた気がするのだ。 「じゃぁ、ゆっくりするからイヤなら止めろ」 言われて思わずルフィは笑った。そうしたらまた顔が近づいてきて、今度は額だとか頬だとかとにかく顔中に唇が降りて来た。そしてまた口を吸われる。ルフィはなんとなく気持ちが良くなって来ていて、ついつい流されていたのだが、ゾロの唇が首筋に降りて来たとき、夜空が目に入って、一気に正気に返った。 「ゾロっ」 言えばゾロはすぐにルフィから離れた。ルフィにしてみれば一瞬であったが、ゾロの中ではかなりの葛藤があった。それこそ、一秒が一年かと思うくらいの。まだイヤだとはっきり言われたわけではないので、このまま続けることも可能な気がしたのだが、はっきりとした拒絶の言葉もあまり聞きたくはなかった。そんな葛藤である。 やはり離れると寒さを感じてここが屋外であることに改めて気がつき、少し頭が冷える。冬でよかったのか悪かったのか、微妙なところだ。 「休憩終わりっ!」 ルフィが赤い顔をして立ち上がった。ゾロも後を追って立つ。再び歩き始めた。枯れ葉を踏む音が相変わらず大きく響く。世界に二人しかいないような錯覚にとらわれる。それも悪くはないけどな、とゾロが自分の感傷的な発想に苦笑していると、 「なんか、世界におれとゾロしかいないような気がする」 とルフィが言うので、思わず笑ってしまった。ルフィがゾロを睨む。 「いや、おれも同じことを考えてたから笑ったんだ」 慌てて弁解したら、ルフィが一瞬驚いた顔をして 「そっか」 と笑った。あんまり嬉しそうに笑うので、また例の衝動に支配されそうになったのだけど、ゾロはなんとか堪えた。あまり余裕がないのもどうかと思う。 他愛のない話をしながら二人並んで歩いた。やっぱりルフィの話にはエースという名の兄が度々登場して、ゾロを複雑な気持ちにさせていた。兄貴と何回この山に登ったか知らないが、その記録は必ず抜いてやろう、とこっそり思う。実の兄に妬くのもどうかと思うが。 どれだけ歩いたのかわからない。途中、何度か休憩をはさんだが、最初の休憩時のような真似をゾロがすることはなかった。空がしらじらとし始めた頃、ようやく、頂上まで500m、と書かれた矢印つきの看板を発見した。 「ゾロ、こっちだ」 しばらく歩いたところで、ルフィがコースから外れる。つまり、道のない場所に入ろうとしていた。ゾロは怪訝に思いながらも、特になにも言わず、ルフィの後に続いた。 「頂上からの眺めも悪くないけどな。あ、足下気を付けろよ」 そう言いながら、器用に急斜面を歩いていく。斜めになった地面からは木が密生して生えているから、転んで転がったところで、すぐに木にぶつかって止まるだろうから、命まで落とすことはないだろう。骨折ぐらいはあるかもしれないが。そんなことを考えつつ後を追う。やがて出た場所は、今まで通ってきた道とガラリと様相を変えた岩場であった。あれだけあった木が一本もなくなっていて、ダイレクトに下の様子が見て取れる。様子と言っても、小さくてなにもわからないが。明らかに立入禁止区域だろうなぁ、と思う。手すりもなにもない。ここでバランスを崩したら終わりだろう。 「ゾロ、ここ上がってそこ座れ」 ルフィが得意げに言う。ルフィの後ろには空しか見えない。確かによい眺めには違いない。違いないが。 「ここも兄貴と来たのか?」 ゾロは岩場に手をかけて聞いた。ルフィの隣に座る。ルフィの話を聞く限り、こんな場所に立ち入らせることを許す兄ではなさそうなのだが。 「いや?連れてきたのはゾロが初めてだ」 ルフィはなんでもないことのように言う。 「秘密の場所だからな。ゾロにだけ教えてやったんだから誰にも言うなよ?」 釘を刺される。こんな顔で言われては、説教なんてできっこないと思うのだが。ゾロは密かにルフィの兄を尊敬したりもしてみた。 「・・・今度からここに来たいと思ったら、絶対おれのことを誘え。一人では来るなよ」 妥協案を口にする。 「万が一ってこともある」 もしルフィがここから落ちたら、と考えるだけで少し掌に汗がにじむ。ルフィはゾロの言いたいことを数拍おいて、理解したようだった。 「おれが落ちそうになったらゾロが助けてくれるのか」 「その代わり、おれが足すべらせた時はお前が助けろよ」 助けろ、なんて台詞をいばって言うのがおかしくて、ルフィは少し笑った。 「もし助けられなかったら?」 「一緒に落ちる。問題ねェ。」 とうとう、大声で笑い出した。 「やっぱ、おれ、ゾロ大好きだ」 と言ったらゾロの目がまた天狼星のようになって、ルフィはまたされるのかな?と思ったのだけど、ゾロはやっぱり動かなくて、ちょっと不思議に思って聞いた。 「ゾロ?」 ゾロは少し赤くなって、我慢する、とボソリと言った。 「こんなところで理性とばして、ほんとに落ちたら目も当てられねェ」 いかにもしぶしぶ、といった感じだったのでルフィはやっぱり笑った。やっぱりゾロが大好きだ、とまた言いたかったけれど、ルフィの方も我慢をした。 しらじらと夜が明け始め、随分と遠くに見える山の輪郭が光ってきていた。曙光だ。 「これがお前の初参り、か?」 元日の曙光を初日の出、という。 「だってゾロ、人ごみも神様も好きじゃないだろ?」 またあっさりと言われる。そんな話、しただろうか。 「初詣って言うのは、年の始めに神様に願い事を言うんだけど、それは神様に今年の誓いを立てることなんだって聞いた。神様とした約束なら破らない、ってことなんだろうけど」 「それならおれはお前に誓いをたてるがな」 「うん。おれもそう思ったから今ここにゾロといるんだけどな」 日が差してきた。少し目に痛い。二人で黙って朝日が昇っていくのを見ていた。 「今日の朝日は今日しか見られないだろ」 ルフィが静かに言った。 「それをゾロと見られるのはやっぱり嬉しい」 ゾロはやっぱり困って話を戻した。 「願い事は?」 「今年もよろしく」 「挨拶じゃねェか」 「誓いだよ」 やっぱり困った。 「ゾロは?」 「早くお前を抱きしめられる場所に行きてェ」 そろそろ我慢も限界だ。ルフィの顔が瞬時に赤くなる。 「んと。じゃぁ、とりあえず、頂上行くか」 赤い顔のままボソボソ話すルフィにゾロは笑って頷いた。
頂上に着くと、そこはたいそうな人出で、ゾロはかなり驚いた。ルフィに聞くと、途中まで車でこれるコースだとか、ロープウェイだとか、頂上までの道のりはいろいろあるらしい。ルフィは言わなかったけれど、たぶん、今回二人が通ったコースは閉鎖されていたに違いない。ゾロに不満は一切なかったのでそのことについては言及しなかった。寧ろ不満なのは今のこの状況である。とても抱きしめられる雰囲気ではない。そんなゾロの顔を見てルフィが笑うのが、また、おもしろくないような気もするし、少し嬉しいような気もするので、自分でもアホだと思う。知らずため息をつくとルフィが心配そうに顔を覗き込んだ。 「ゾロ大丈夫か?疲れたか?」 ルフィにしてみれば、なんの前触れもなく、徹夜登山に誘ったようなものである。ゾロの体力に関しては疑っていなかったが、体調というものをまったく考慮していなかったことに気づき、焦った。また今日も自分のわがままにゾロを振り回しただけのような気がしてきて急に心配になった。その辺の心理がゾロにも手に取るようにわかって、余計落ち着かなくなった。疲れているとしたら間違いなく心労だ。 「体力的には問題ねェが、少し眠いかもな」 ロープウェイの列に並びながらゾロが呟く。帰りは徒歩でなく、ロープウェイを使うことにした。実際急な誘いだったので、既に24時間近く起きている計算だ。自慢ではないが、寝汚いのだ。自分は。 「じゃぁ、うちで寝て行け」 「は?」 「こっから駅に行くより断然近いしな。うん。それがいい。」 ルフィの中では既に決定事項だ。 「それともなんか予定あるか?」 そう聞かれては頷くしかない。心配なのは眠るだけですむのか、という点なのだが。どこまで考えての発言なのかわからないのがネックだ。 「家に着いたら、願い事、叶えていいか?」 ゾロはルフィの耳元に小声で聞いてみた。ルフィはやっぱり顔を赤くしてそれでも頷いてくれた。ルフィの赤さがゾロに伝染するかと思った頃、ロープウェイが到着し、二人は人に押されるように乗り込んだ。上半分全てガラス張りの車内から、さっきまでいた場所がどんどん遠くなっていくのを見る。非日常から日常へ帰っていくような気分になった。 けれど、今日の朝日は今日しか見れない、とルフィが言うように、同じ日常など存在しないのだろう。ひとまず今日のルフィとはもう少し一緒にいられるらしい。こういうのを春から縁起がいい、というのだろうか。 ゾロは少し笑って窓の外を見るルフィに声をかけた。 「今年もよろしくお願いします。」
2004.12.31up すみません。 1日にするか31日にするか迷いましたが 一応始まりが31日なので、31日にUPさせていただきました。 なにがスミマセンって・・・。 あまりにも恥ずかしい人たちで・・・。 そう、ルフィ17歳、今回初めて決めました。 ゾロがいくつかは決められませんでした。 いくつなんだろう・・・・。 まぁ、年越しネタでございます。 新年の挨拶も兼ねております。 どうぞ今後ともよろしくお付き合いしていただけると嬉しいです。
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