不在                        

 


 チラリと窓の外を見る。相変わらず真っ暗で、隣の家に誰もいないことが知れる。ちょっと息を吐いたら、父に聞きとがめられた。
「ルフィ、お前マキノさんの作った飯をそんな辛気臭いツラで食うとは何事だ」
「別に辛気くせェ顔なんかしてねぇよ。シャンクスも黙って食え!」
 少し声を荒げる。
「反抗期ですかねェ、マキノさん」
「そうですねェ。中学2年って一番難しい年頃ですからね」
 この夫婦に逆らってもおもちゃにされるのがオチだというのに、ルフィはついついムキになってしまう。
「また隣か?」
 哀れに思ったのか、兄が口をはさんでくれた。ルフィがすぐにしゅんとなる。
「今日もまた、帰って来ねェ」
「いや、今時の中学生なら普通だろ?門限7時のウチの方がおかしいんだ」
 そしてそれを高校生にも守らせようをする辺り無理がある、と兄は続けた。
「なにを言う!夕飯は家族で団欒!これは鉄則だ!お父さんの門限だって7時だ!」
「それもどうかと思うがなー・・・」
 兄は肩をすくめる。なんだかんだ言いつつ、彼もこのユカイな家族が嫌いではないので、比較的門限を守ろうとしているのだ。
「でもゾロ、おれが起きてる間に帰ってこないんだ」
 ルフィが眉を八の字にして呟いた。
「お前、10時には寝るもんな・・・」
「エースはゾロ帰ってくるの見たことあるのか?」
「あぁ・・・たまにな。帰ってくるときはだいたい1時とか2時とか・・・まぁ、ちっと行き過ぎなきはすっけどな、張り込むのはやめろよ?帰ってない日もあるみたいだから」
 一晩中起きていられる自信はあまりない。
「あのな、ルフィ。お前くらいの年頃の男はいろいろあんだよ。ゾロくんもな、今そういう時期なんだから、ちょっとの間、そっとしといてやれ」
 父のわかったような台詞にルフィは反論する。
「そういう時期って?」
 というより、自分のそういう時期はどうなっているのだろう。
「いろいろとな、悩んだり、発情したり、反抗したりする時期ってことだ。思春期と言う」
「一部不適切な発言があったな」
 兄のツッコミにも気づかずに、ルフィは父の言うことを考える。
「ゾロ、不良になったのか?」
「あのな、エース。お前がそんなに過保護にするから、見ろ、この次男の中学生男子とは思えぬキヨラカさを!魚も住めないぞ!」
 ルフィはただ首を捻るばかりだ。兄は父の言うことを無視してルフィに話す。
「特別なことじゃねェよ、ゾロにだってお前以外にも付き合いとかあるだろ?お前だってゾロ以外にも友達いるんだし」
 それはそうだ。門限は7時だけれど。2年になって、クラスが分かれて、なんとなく距離を置かれている気がしてならないのだ。夏休みなんて、一緒に遊んだのはわずか2回だ。
「ルフィは淋しいのよね。急に距離置かれちゃったみたいで」
 母があっさりとルフィのもやもやを口にした。
「そっか、おれ淋しいのか」
 納得はいったが、さてどうしたらいいのだろう。
「少しの間だけだ。しばらくしたらまた一緒に遊べるようになるさ。」
 今度は父もマジメな声でそう言ってくれた。
「勉強でもしてみたら?かなり開いていた学力が一気に狭くなるチャンスかもよ?」
「頭良くなったらもっとゾロの気持ちとかわかるようになるかな・・・」
 あまりの素直さに父と兄はため息をついた。家族総出で過保護にしている自覚はあるが、このままではほんとに魚も棲まない。しかし、敢えて口を出すことはしなかった。次男に少し勉強が必要なのも確かだし、我が家の最強人物はやはり母である。



     初出 2006.9.16  この頃はほんとに精力的に書いてた気がします。    
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