意義                        

 


 会社に拘束される時間を減らすためには、効率のよい仕事運びが大事なのだが、本当に必要かどうかわからない仕事がやたらと増えてきて、残業をしないと回らない。合理化、合理化と唱えるわりに、まったく不合理な組織改正が行われている。不必要だと思う仕事を行うことにやる気を起こせる人間はいない。
 戦時中のドイツでは、捕虜に石を運ばせる拷問を行っていたらしい。重さ10kgから20kgの石を数十メートル離れた別の場所に運ばせるというものだ。そして、運び込みが完了すると、また元の位置に戻す。その作業が延々と繰り返される。
 人間には、全く意味のない労働を繰り返すということが、いかにストレスになるか、という話なのだが、その意義を与えずにただ、これをしろ、数を上げろ、と言い続けられる側に、どれだけの人材が育つと思っているのか、なかなか不安になる方針だ。
 ただただ、従順であることを求めるのならば、社員を奴隷と勘違いしていると思わざるを得ない。
 人員の確保よりも、人材の育成が大事なのだということが、どうにも上には伝わらない。人が増えればいいというものではないのだ。
 家に帰れば、会社のことなどは考えたくないのだが、最近はどうもよくない。
 ネクタイをゆるめ、ゾロは眉間に皺を寄せた。
 すると、随分と楽しそうにくすくすとルフィが笑って、ゾロは怪訝に思う。
「なにかあったか?」
 ルフィの笑う顔は好きなので、問題はないのだが、できればなにがそんなに嬉しいのか聞きたい。
「んん?なんで?」
 ルフィが首を傾げて聞き返す。
「嬉しそうだったから」
 言った途端、ルフィが自分の頬を両手で叩いたので、ゾロは驚いて、
「・・・聞いちゃまずかったか?」
 ルフィは両手で顔をはさんだまま、
「・・・変な顔してたか?」
「変な顔というか・・・」
 可愛かった、と言えば怒られるだろうか。
 ルフィはゾロからかばんを奪うと、そそくさと離れる。
「ルフィ?」
「ごめんなさい」
 ルフィがかばんを持ったまま、ペコリと頭を下げる。ゾロはわけのわからないまま、
「なにが?」
「一生懸命働いて、疲れてるゾロもかっこいいな、と思って見蕩れてました」
「・・・・・・・・」
「ゾロ、疲れてて眠いのに、嬉しくなってごめん」
 そんな風に目元を染めて言われて、疲れを引き摺るようなら、男なんてやめるべきだろう。
「・・・疲れてんじゃなかったのか?」
 腕の中で赤い顔のままルフィが聞いた。
「吹き飛んだ」
 ルフィが会社にいれば、疲れなど感じないかもしれない。
「・・・いや、仕事にならねェか・・・」
 思わず呟く。こんなに可愛いもののそばでは仕事が手につかない自信がある。
「今日も一日お疲れさま」
 ルフィがゾロの頭を撫でて、にっこり笑った。
 この顔を見るために働いているのだと思えばいいか、とゾロは単純にも思う。
「働くことは、食べることや眠ることよりも人間に必要である」とは、これもドイツの言語学者の言葉だったが、こんな納得もあっていいだろう。




     初出 2009.1.25 あやさんに素晴らしいリーマンゾロをいただいた勢いだけで打った。
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