毎年恒例                        

 


 今年もやってきた。やってこなければ困るといえば困るのだが。ゾロは自室で腕を組んで思案にくれる。ゾロはこの誕生日、というイベントが、ちょっとばかり苦手だ。ゾロの両親は共稼ぎで、大変に多忙な日々をおくっている。が、息子の誕生日ばかりはちょっと特別に思っているらしい。なんとか時間を見つけては、顔を見せに帰ってきたり、電話をいれてきたりする。中学二年になってもそれは変わらずで、ゾロとしては多少辟易してもいる。確かに、普段、仏頂面の父親が、この日だけは妙に気を使うような態度をとるのは面白くもあるのだが、もうそろそろ卒業してもいい頃だろう。
 それは、ゾロが小さい頃からの習慣になっていて、やっぱり隣にすむ幼なじみが原因であった。誕生日には、ケーキを食べて、プレゼントをもらったり、そんなことが楽しかった時期が、さすがのゾロにもあったのだ。
 それが、小学校2年生のとき、どうしても両親から仕事の都合で家に帰れないのだと、隣の家に連絡があったらしく、家族三人で行うはずの誕生会を隣の家族とすることになった。隣の一家は好きだったし、楽しくないことはなかったのだけれど、ゾロは子供心になんとなくいたたまれない気になった。楽しいけれど、なにか腑に落ちない気持ちがあった。隣の家族にお礼を言って、自分の家に戻ると、とても淋しくなった。なんだか妙に理不尽だと思った気がする。当時は理不尽なんて言葉は知らなかったけれど。
 両親の帰る時間を聞かなかった。けれど、待っているのもバカみたいだし、なんだか恥ずかしい気もして、ベッドに入った。このまま寝てしまおうと思ったとき、上からなにかが降ってきた。衝撃にゾロの目が一気に覚める。
「ゾロ!!せっかくの誕生日になんでお前もう寝てんだ!」
「・・・ルフィ・・・?」
 ゾロは軽く咳き込みながら、理不尽のかたまりみたいな隣人を見上げた。ルフィはゾロのベッドまで電話の子機を持ってきていた。
「あい。おじさんとおばさんのとこかけろ」
 ゾロは顔を赤くして、
「バカ言うな!そんな恥ずかしいこと絶対しないぞ!」
 声を荒げたゾロにルフィはきょとんとした顔をして、
「なんで恥ずかしいんだ?誕生日には言ってほしい人全員におめでとうって言ってもらわないとダメなんだぞ?」
 自信満々の顔で告げる。そんな決まりごとがあったのかとゾロは当時、マジメに感心したものだった。そして半ば無理矢理、電話をかけたのだ。怒られたらルフィのせいだと半ば責任転嫁しつつ。
 結果、両親は怒らなかったし(というより謝られた)、その年から二人はゾロの誕生日になると妙な気合をいれるようになってしまった。
「ルフィの言うことを鵜呑みにしたおれもたいがい頭悪かったんだが」
 ある意味汚点とも言える出来事だが、あれ以来親友を密かに尊敬しているのも事実だ。
「ゾーローッ!!おめでとーっ!おじさんとおばさん帰ってきたかっ!?」
 あれからの恒例行事がもうひとつ。
「帰ってきて、また出てった。あれはお前の分」
テーブルの上のケーキを指差す。ルフィの目が輝いた。

「もー、いい加減、小学生でもないんだから・・・」
 ゾロが苦い顔をする。
「なんで?これから修学旅行だってあるじゃん」
「修学旅行は普通、一人にひとつの布団が用意されるはずだ」
 ゾロは早々にベッドにもぐりこんだルフィに、ため息をついた。もうひとつの恒例行事はルフィのお泊り会だ。中学生男子が二人、ひとつの布団で眠るのはどうなんだろう。とゾロは首をひねるのだが、
「だって、ゾロの部屋、ベッドひとつしかないんだからしょうがないだろ」
 またわけのわからない理由を大いばりで告げる。
「一人部屋にふたつベッド置いてどうするんだ・・・」
 やれやれ、とゾロもベッドに入った。
「今年で最後だろうしな。来年は受験もあるし」
「なんで?関係ねェよ。いくつになったって、ジジイになっても、この日だけはおれ、ゾロの隣でおめでとうって言ってやる。だからアキラメロ」
 言うだけ言って、あっさりと眠ってしまった。時計を見れば、23時。ルフィにしては良く頑張った方だ。ゾロは何故だか顔を赤くして、それから少し笑うと、ルフィの隣で目を閉じた。






     初出 2006.11.11   毎年恒例ゾロ誕ですが、年々おざなりになっている気がしますよ。      
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