部屋

 

 ゾロは激しく落ち込んでいた。こんなに落ち込むのは生まれて初めてかもしれない。そしてこんなに焦るのも。確かに悪いのは自分のような気もしている。おれだけのせいか?と聞きたいような気もするのだけれど、聞きたい相手と全く意思の疎通が図れない。

8月の終わりに会って以来だから、かれこれ2ヶ月以上会っていない計算だ。2ヶ月以上会えないことは前にもあった。あの時は確か2ヶ月と3週間だから3ヶ月近く会わなかった計算になる。けれど、あの2ヶ月と3週間は、会えないまでも、週に一度は電話で声を聞いていた。2ヶ月以上、声すらも聞けていないのは新記録だと言っていい。新記録どころの騒ぎではない。危機的状況と言ってもいい。

花火大会の日、ゾロは駅からルフィの家に電話をかけた。電話に出たのはルフィの兄で、ルフィはもう寝た、という返答だった。それ以上なにも言えず、ゾロは一旦電話を切ると、また翌日にかけ直したのだが、出かけている、という返答。あまりしつこいのも考えものかもしれない、と思いつつも、折をみて、何度となく電話をいれてはみるのだが、その度にあの兄にはぐらかされてしまう。

確かに、ルフィの兄はブラコンだが、ルフィの意思を無視するような人間でないことはわかっているので、ある日ゾロは思い切って聞いてみたのだ。

「おれを避けているのはルフィの意思ですか?」

「そうだよ。しばらく会わねェんだって頑張ってる」

エースの声は、揶揄とも憐憫ともつかない複雑なもので、その言葉に偽りはないのだとゾロは痛感した。

「・・・。じゃぁ、おれも、少し、控えます。できれば、なんでそういう結論になったのか聞かせてくれ、って伝えといてもらいますか?」

それだけをなんとか伝えた。

「おぅ」

その軽い返事に一抹の不安を感じつつ、ゾロは電話を切った。

 

 それっきり、なんの連絡もないまま、2ヶ月半が過ぎている。そんなにイヤだったのだろうか、とか、仏の顔も2度までだったのだろうか、とか、埒もないことを考える。それでも授業はあるし、課題もあるし、バイトもある。せめて忙しくして気を紛らわそうとは思うのだが、あまり成功していない気もする。絶対的なルフィ不足だ。

 嫌いになったのなら、それをはっきり言わないルフィではない、と思うので、それでも奇跡的に耐えている。が、ゾロは元来、気が長い方ではないのだ。ルフィ相手には幾分(というより通常の十倍は優に)、長くなるように設定されてはいるものの、限界というものはある。

 明日は土曜日だ。バイトもない。ゾロは難しい顔をして携帯をにらみつけている。今日電話をかけて、もしもまた、兄に取り次ぎを断られるようならば、家まで押しかけるか、とまで考えていた。一歩間違えば、犯罪行為のような気もするが、いきなり避けられたのだからこちらにも言い分くらいはあるだろう。確かに、避けられるようなことをした、という自覚はある。そしていくら反省してみたところで、たぶんまた同じ事を繰り返すだろう、という自信(間違い)もある。が、はっきりした答えを聞けないままではいろんな意味で体に悪い。

 まぁ、構内でルフィに電話をかけることは避けるべきだと夏に学習したし(食券一ヶ月分は手痛い出費だった)、今、この時間では、ルフィも学校のはずだ。家に戻ったらかけることにしよう、と決意する。決めたら少しだけ気が楽になった。授業が終わるまであと少し。今日の午後はびっしり講義が入っていたので(こんな日は珍しいのだが)、却って間を持たせることができてありがたい。

 嫌われたとは思っていないのだが、だからと言ってそれ以外に避けられる理由も思いつかなくてゾロは密かに唸る。そしてなんでもいいから会いたい。我ながら呆れるくらいの執着心だ。これで本当に恐れているような告知を受けたら自分はどうなるのか、見当もつかない。

 半分以上をルフィに占められながら、講義終了のチャイムが鳴った。ゾロも大半の学生たちの流れに沿って、教室を出る。家まであと20分だ。ルフィはもう学校を出ただろうか。学校が終わったからといってすぐに家に帰るイメージではない。友人達と話をしたり、なんだったら寄り道をしたりして、家に帰り着くのはきっと夜に近い。そして受験生がこんな遅くまで遊び歩くな、とエース辺りに叱られても、きっとあの顔で笑ってすませてしまうに違いない。

 そこまで考えて、やはり電話をかけるのは、もう少し経ってからにしよう、と思い直した。このまま真っ直ぐ家に帰って携帯電話を睨みつけているというのもあまり愉快な図ではない。仕方がないので、駅近くで少し買い物をすることにした。そういえば、食料も酒も少し心許ない量になっていた気がする。

 そうして駅に向かって歩き始めた時、ゾロの携帯が鳴った。

 

「おぅ、ゾロ久しぶり!」

随分とあっさりと言われて、ゾロの方はどう対応していいかわからなかった。言いたいことは山ほどあったが、とりあえず目先の分かりやすい問題に目を向けることにする。

「・・・とりあえず、その荷物はなんだ?」

「これ?食いモンと酒」

2ヶ月以上経っているというのに、まったくそれを感じさせないルフィの態度に、ゾロは少し眩暈を感じた。

 今をさかのぼること10分前。携帯に表示されたのは「コウシュウデンワ」という文字だった。まさかと思いつつ電話に出れば、

「ゾロ今どこだ?」

と、まるで今日電話をかけることが決まっていたかのようなあっさりした声が受話口から聞こえて、ゾロはさっきまでの逡巡が悪い夢だったかのような錯覚を覚えた。

「お前こそどこからかけてんだ?」

逆に聞き返せば、ゾロの家及び大学の中間地点に位置する駅、即ち、今からゾロが向かう場所だと言う。カードがなくなる、という慌てた声を聞いて、とにかくそこで待ってろ、と言い捨てて電話を切った。

 

 そして、キオスク前で箱と袋を抱えたルフィと無事に再会を果たしたのであったが。

 

 実際ゾロは混乱していた。なんでこんなに普通なんだろう。

「まぁ、いろいろと言いたいことはあるんだけどな。とりあえず、ゾロん家行こう。案内してくれ」

言いたいことがあるのはこっちの方なのだが、今重要なのは後半部分のような気がした。

「あ?」

「ほんとはゾロん家で待ち伏せしようと思ってたんだけどさ。よくよく考えたらおれゾロの家知らなかったんだよ」

ルフィはからからと笑う。

「あー。待て。ちょっと頭が状況についてこないんだが」

「肉冷める前にゾロんトコ行こう。こっちか?」

「いや、反対・・・」

いきなりルフィのペースに巻き込まれている。いるが、まぁ確かに会えたわけなのだし、今のところ逃げられる様子もないし(それは必ずしもよい状況とは限らないが)、とにかくこの缶ビールと思しきダンボール箱を右脇に抱え、手にはレジ袋を三つほどぶらさげ、左手には白い箱を、他の荷物よりは比較的大事そうにひとつ持っていて、尚且つ、黒いリュックを背負っている学ランは、あまりに目立つ。

 ひとまず、言うことを聞いておく方が得策かとゾロは決断した。ルフィが見かけに反して、かなりの力を持っていることをゾロは知っていたが、少し危なっかしい気がして荷物を半分持とうかと申し出たのだが、きっぱりと断られた。どうやら自分で持って行きたいらしい。それにしたって学ランに酒を売るなよ、と思うのだが。その辺のモラルはどうなっているのだろう。そういえば制服のルフィを見るのは初めてだ、と今更気づいて、ゾロはまた自分に呆れた。心臓の音が少し大きく聞こえたからだ。なんだかとても情けない。

 10分ほどしてゾロの住むアパートに着いた。ゾロはアパートというけれど、4階建てのこじんまりとした鉄筋のビルで、それぞれの階に部屋はひとつずつしかなく、一階が歯医者になっていた。歯医者の横に上に続く階段があり、その少し狭い階段をルフィは少し緊張しながら上った。ゾロの部屋が二階で助かったと思う。荷物をあちこちにぶつけてしまいそうで、心配だったのだ。先に階段を上って行ったゾロが、部屋の鍵を開けると、ドアを大きく開いて、ルフィを促した。どうやら先に入れということらしい。ルフィは促されるままにドアをくぐった。

「・・・広い。し、キレーにしてるな」

ルフィの部屋はもっとこう、ごちゃごちゃしている。

「別に普通だろ」

ゾロはそう言いながらルフィの後から部屋に入り、ドアを閉めた。玄関を上がるとすぐ左に風呂とトイレがあってその隣にガスレンジと流し台、それと並んで冷蔵庫があり、それを含めた居間にルフィは立っているのだが、これがなかなか広い。中央に小さな猫足のテーブルが置いてあり、どうやらここで食事をとったりするようだ。居間の横、玄関の隣に位置する場所にもうひとつ部屋があって、ベッドとクローゼットが見えた。1LDKというのだろうか。ものがない分余計広くみえるのだろうと思う。ルフィがひとしきり感心していると、ゾロが言いにくそうに

「とりあえず、それどうにかしたらどうだ?どこでも好きな場所に置け。」

荷物を持ったままだったことに今更気づく。とりあえず、白い箱は猫足のテーブルの上に置いて、袋は一旦その下に、缶ビールは流し台の前に置くことにした。

「で、どういう了見だ?」

さすがにゾロの声は固い。たとえルフィ相手といえども、わけもわからず振り回されるのは趣味ではない。

「だって約束したろ?」

ルフィはきょとんとした顔で聞き返す。

「は?」

ゾロにしてみたら寝耳に水だ。一方的に避けられて、約束などする隙はなかったはずだが。

「ひょっとして忘れてんのか?」

ルフィの顔が少し顰められる。これでは形勢が逆転である。ゾロは必死で記憶を辿る。が、余計な記憶が邪魔をしてうまくいかない。わかっているのだろうか。今二人きりなのだが・・・壁に頭を打ち付けたくなった。そうじゃない。

「去年言っただろ?」

去年と言っても幅広い。しかし、ここ最近の話ではないということだ。去年8月に出会って、毎月一回は会うようになって・・・ゾロは顔を上げた。今日は何日だ?

「あ、思い出したな。」

ルフィがにっこりと笑った。

「誕生日オメデトウ」

 

「ゾロって酒以外何が好きなのかイマイチよくわかんねェから、とりあえず、酒と食いモン買ってきた。あとケーキ!」

どうやら白い箱の中身はケーキだ。ルフィはなんだか上機嫌に見える。悪くはないが、腑に落ちない。

「あー・・・ルフィ。お前怒ってたんじゃねェのか?」

「は?なんで?」

「避けてただろ。ずっと。電話にも出ねェし」

「あ、うん」

避けていたことは否定しない。

「ちょっと考えたいことあってさ」

「それとおれを避けることとなんか関係あんのか?」

「だってゾロと会ったり喋ったりしたら、ゾロでいっぱいになって、うまく考えられなくなるから」

・・・コメントに困る。

「でな、とりあえずおれに今できることってこれしかねェかな、と思って」

そういうとルフィは背負っていたリュックから紙片を取り出した。ゾロに差し出すので、受け取って開く。

「こないだの模試の結果だ。おれはこの2ヶ月生まれて初めてというくらい勉強したぞ。」

胸を張って差し出された割には平均点のようだが、前回の結果より、格段に上がっているのは見てとれた。

「・・・お前、進学やめたんじゃなかったのか?」

「やめたよ。エースにも話した。でも受験から逃げるためにやめるわけじゃねェから、勉強もきちっとやることにしたんだ。そしたらエースもいい、って言った。やりたいこともなんとなく見えてきたかなぁ、って感じで、その辺はもうちょっと待ってほしいんだけど」

「・・・待つってなにを」

「おれがゾロのトコまで追いつくの」

「・・・悪ィが、よくわからん。つまり勉強に専念するために、おれと会わなかった、って話でいいのか?」

「違うって。ゾロといても平気なくらいかっこよくなろうと思って修行してたわけだ。」

「ますますわからん」

ゾロはますます困惑する。ルフィも困った顔をする。

「えーっとな。ゾロはかっこいいだろ?」

「はぁ・・・」

ゾロ本人に同意を求められても困る。

「なんでもできるし、大人な感じするし、やっぱりかっこいいし」

「なんでも出来ねェし、お前と6違うんだから年食ってて当たり前だし、最後のはよくわからんが・・・」

「・・・ゾロ24?」

「今日でな」

「浪人?」

「おれの学部は6年制だ」

話が逸れた。気がする。

「とにかくゾロはすげェかっこいいので、おれもそれに釣りあうべくかっこよくなろうとして、できることが勉強しかなかったからがんばってみたわけだ!あと、ゾロにプレゼント買おうと思って、バイトしてた。」

「・・・おれを避けてたのは?」

「こういうことは内緒にしといた方がいいかな、と思って。いきなりかっこよくなってゾロをびびらせてやろう!とかも思ってたんだけど」

「・・・あるイミ成功してる」

この2ヶ月半の心労を返せ。

「かっこよくなったか?」

ルフィの顔が輝くが、ゾロとしては大変複雑である。

ゾロのためにバイトをしていた、というのは正直嬉しいし、ルフィがその気になってしっかりと勉強をしようと思うのはよいことだとも思う。けれど釣りあうべく、とは何事だ、と思うのだ。実の所ゾロは少し怒ってもいた。大きく息を吐く。

「もしかして、怒ってるか?」

ルフィの顔が少し不安そうなものに変わった。ルフィに悪気はない。それはゾロにもわかっている。

「まず1つ。いくらお前でも、おれの惚れた奴をバカにされるのは面白くねェ。2つ目。2ヶ月と14日、お前の声すら聞けねェ状態だったのは、正直参った。3つ目。誕生日を祝ってくれようってのは嬉しかった。ありがとう。以上だ」

ルフィが神妙な顔をして、今言われたことを1つずつ噛みしめる。少しだけ目元が赤く染まった。

「えーっと。1つ。ありがとう。2つ。ごめんなさい。3つ。大好きだ。」

あ、以上を付け忘れた、とルフィが思った頃にはルフィの顔に影が落ちて、口を吸われていた。このキスはまずい。ルフィの頭に警報が鳴る。なにも考えられなくなりそうになるのだ。まだ余力のあるうちに、とゾロの肩口をたたくと、抵抗に気づいたゾロがしぶしぶながらも体を離した。

「あー・・・悪ィ」

ゾロは決まりが悪そうに謝る。

「いや、謝らなくてもいいんだけど。折角買ってきたんだから、メシにしねェ?」

 

ルフィの買ってきた食べ物は、予想通り殆どがルフィの腹に収まった。そのことに対してゾロの不満はまったくなく、ルフィの買ってきたブランデーを楽しんでいた。ケーキにはこれが合うんだって、と言って差し出された箱の中身のひとつだ。なかなか上等のモノだと思う。ルフィがバイトして貯めた金で買ったもの、と思うから余計なのかもしれないが。ケーキも一切れきちんと食べた。しかし、ホールだと思わず、更に残りを平らげられた時には多少驚きはした。

ルフィが会えなかった間のバイト先の話などを聞かせてくれる。やはり、体を動かしている方が性に合う、と思ったそうだ。いくつか掛け持ちをしたらしく、いい勉強になった、と言って笑った。

ルフィの声はやっぱり好きだ、と思う。聞いていて気持ちがよい。声だけではないけれど。思考がまた違う方向に進まないよう、ゾロは気を引き締める。ルフィを視界に入れないようにそらした先の時計を見れば、既に8時を回っていて、ルフィの家までの距離を考えれば、なかなか良い時間だ。

「あー。ルフィ。そろそろ帰らねェと、兄貴心配するぞ。学校帰りなんだろ?」

よけりゃ、いつもの駅まで送る、と言いかけたが、

「平気だ。エースにはゾロの家に泊まるって言ってきたから」

むせそうになった。今なんと言ったか?

「大丈夫!ちゃんと泊まり道具持ってきたから。明日明後日休みだし。」

「問題はそこじゃねェよ」

よもやこの2ヶ月半で、ルフィの中で、アレはすっかりなかったことにされているのではないかという不安が頭をよぎったが、ルフィの顔を見れば、やっぱりうっすら赤らんでいて、ゾロは戸惑う。いいように解釈していいものだろうか。この2ヶ月半がかなり堪えたゾロとしてはここで失敗するのは避けたいところなのだが。

「あー。おれはお前がおれのこと避けるのは、こないだのアレが原因だと思ってたんだが」

ルフィの顔がまた少し赤くなった。気がする。

「あー。うん。アレ・・・か」

なかなか微妙な反応だ。

「えーっと、おれはな、ゾロをがっかりさせたりあきれさせたりしたくねェんだ。ほんとに。」

またルフィがわけのわからないことを言い出した。どの流れでそうなるのか、ゾロにはさっぱりわからない。

「でも、なんかそれだと逃げてるみたいでそっちの方がかっこ悪いかなぁ、とかも思えてきてな」

どこへ着地するのか、ゾロは黙って聞いていた。

「えっと・・・いいぞ?触って」

思いがけない方向に着いた。あまりのことに思考が停止するところだった。いや、確実に止まっていた。

「うわっ!ゾロっ!?」

気がつけば座っていたルフィをひょいと抱え上げて隣の部屋のベッドの上に投げ出していた。時間にすればほんの数秒だったので、ルフィは抵抗らしい抵抗もできず、ただ驚いているだけだった。そんな風に少し乱暴に扱われても、ルフィは気にならなかったけれど、問題は今目の前にいるゾロだと思う。

 ゾロの顔が近づいて来て、またキスをされるんだと思い、目を閉じた。ゾロの唇は顔中に降ってきて、やっぱりルフィは恥ずかしくなった。そのまま目を閉じていたら、やがて唇を吸われる。口の中に舌が入ってきて、あちこちを舐められる。ただそれだけで、ルフィの頭はぼーっとしてくるし、何も考えられなくなりそうな気がするのに、この先がある、とおぼろげながらわかってきている今は、やっぱり少しだけ怖い。

そのまま被さるようにゾロはルフィを体の下に敷いた。ベッドが少しだけ軋んだ音を立てた。上着は、夕食を食べる前に、ハンガーにかけて吊るしてあるものの、ルフィはまだ制服のままだったので、なんだか妙に緊張した。ついさっきまで、学校の授業を受けて、友達と新製品のバーガーについて話し合ったりしていたはずなのだが。目を開けばゾロの顔の後ろに天井が見える。ルフィの顔が少し曇ったような気がして、ゾロはそのままの姿勢ではあるが、

「・・・やっぱりイヤだ、ってのは今のうちに言っとけ。今ならまだ間に合うから」

最後通牒のつもりではあった。言質をとろうというのではないが、やはり、無理にするのは抵抗がある。

「ヤ・・・じゃねェんだけど・・・」

「けど?」

「あきれねェ?」

「わからんが、聞きてェ」

ルフィは少しの逡巡の末、大変言いにくそうにボソボソと呟いた。

「・・・ゾロはテナレテルから、きっと今までにこの天井見た奴がたくさんいるんだろうなぁ、と思ったらちょっとムカっとした」

ゾロの体がピクリとも動かなくなった。

「それにおれ、こういうことシタことねェから、なんか、変だったりしてもわかんねェし、こないだもその前も変になっちゃってかっこ悪かったし、で、ゾロが、がっかりしたらすげェヤだなぁ、とか」

「・・・ルフィ」

「ん?」

「手遅れだ。もう、止めるの無理」

ゾロの手がルフィのシャツの裾をズボンから引っ張り出す。白い綿シャツの下に手を這わせ、ルフィの素肌に直接触れる。ルフィの体がビクリと跳ねた。

左手で脇腹を撫でながら、右手でシャツのボタンをひとつずつ外していく。

「言っとくが、この部屋に女上げたことは一度もねェからな」

ルフィが言われたことの意味を考えている間にシャツのボタンは全部外されていた。腹の辺りを這っていた左手が段々と上に移動してくる。

「・・・ゾロっ」

ルフィが一応、抗議めいた声を上げた。ルフィは胸を弄られるのが苦手だ。というより、ここを弄られるとわけがわからなくなるし、変な声も出るしで、かっこ悪くてイヤなのだ。それでもゾロは聞かない振りをして、左手の指の腹でそこに直に触れた。

「・・・っ」

ルフィがゾロの下で身を捩じらせる。親指の腹で押し付けられて、それから捏ねるように動かされる。唇は耳を舐め、首筋を吸い、鎖骨の上、と左手とは逆にどんどん下へ降りていく。そして今度は左のそれを直接口に含まれて、ルフィはとうとう声を上げた。

「やっ・・・!!」

足が空を蹴った。舌先で突付かれたり舐られたり、ねっとりと舌を這わされて、ルフィは思い切り首を横に振る。ゾロの頭を外そうと手をかけるが、びくともしない。身体中の力が抜けて、息もうまくできなくなってくる。

 ゾロはルフィの弱い所を知って、確実に乱れさせるように追いつめていく。案外追い込まれているのはゾロの方かもしれない、とちらりと思ったりもするが。舌や指に弾かれて固くしこってきたそれだとか、翻弄されるままに上がる声だとか、滑らかな肌だとか、汗の匂いだとか、上気した顔だとかが、ゾロの頭からどんどん思考を奪っていく。

 ズボンに手をかけて、ボタンを外す。ジッパーを下げる音がやけに大きく聞こえた。緊張、しているのかもしれない。そんな自分がおかしくて、少しだけゾロは笑った。

「・・・やっ・・・ぱり・・おれ、おかしい、か?」

ルフィが切れ切れの声で、不安そうに呟く。ゾロはズボンをルフィの足から引き抜くと、またルフィの唇に唇で触れる。ルフィの緊張だって相当なものだ。なんと言ってもハジメテなのだし。

「いや、おかしいのはおれの方だ」

このまま止まるのではないかと思うくらい動悸が激しい。どっちの心臓の音なのかもよくわからなくなってきた。

「全部、触るぞ。」

「・・・うん」

ルフィの腕がゾロの背に回る。

ほんとうにゾロはルフィの全部に触れた。もうルフィの体でゾロが触れていないところはないというくらい。身体中が熱くなって、ゾロの手で熱を吐き出されたりもして、ゾロの顔も恥ずかしくて見られないところまで追い込まれた。気持ちがよかったような気もするけれど、濡れた下肢が気持ち悪いような気もする。そしてルフィですら触れたことのないような場所にもゾロの指は触れてきた。

「・・・ゾロっ!!」

戸惑ったようなルフィの声が上がる。ルフィだって覚悟はしていたはずなのだが、どうにも予想を越えている。

「痛ェか?」

ゾロの心配そうな声が聞こえて、ルフィはどう答えてよいのか迷った。痛くは、ない。ただ少し、体の中に入ってくるその異物感を気持ちが悪いと感じる。

「・・・ルフィ、お前は我慢とかするな。おれに無理に合わせようとしなくてもいい。」

ルフィは熱に浮かされた頭で、ゾロの言葉を考える。

「だからおれもお前に合わせたりしない。」

ゾロの指がある所を擦った途端、ルフィの体は電流が流れたように、びくりと跳ねた。ゾロはそれに気づき、殊更にその場所に触れる。

「ひゃっ・・あぁっ・・やぁっ」

ルフィの口から喘ぎとも悲鳴ともつかない声が漏れる。また下肢が溶けそうに熱くなってきた。ルフィもなにか、ゾロに言いたいことがあるのだ。けれど口を開けば変な喘ぎしか出てこなくて、もどかしい。しかたがないので、ルフィはゾロに思い切りしがみついた。伝わるといいと思う。きっとゾロが言ったのは、お互いに相手に合わせるのではなく、二人のリズムを作るということ。勝手にしろというイミではなく、半分は相手を信じて任せること。ルフィはゾロを信じてる。ゾロにもルフィを信じて欲しいと思う。合わせるのではなく、同じ気持ちになれたら、そんなに嬉しいことはない。

ゾロの動きが一度止まって、またゆっくりと再開された。

「・・・全部・・・もらうぞ」

ゾロの声も掠れている。少しだけ息が整ったルフィはなんとかこれだけは言った。

「ゾロを全部、くれるなら」

 

それからのことは、もう、痛いやら、苦しいやら、でも少し気持ちが良いような、幸せなような、結局、貫かれて、ゆすぶられて、散々声もあげさせられて、ワケがわからなくなって、気がついたら、ゾロの心配そうな顔が真っ先に目に入った。

「大丈夫、か?」

ルフィはゾロの顔をまともに見れなくて、ゾロの胸に顔を埋める。

「いろいろ・・・びっくりした」

「そうか」

ゾロはルフィの顔を無理に上げさせることもなく、ただルフィの頭を撫でていた。

「あー・・・風呂とか、入らなくて平気・・か?」

確かに、いろいろと出したり出されたりしたし、汗もいっぱいかいたけれど。体はだるいし、なんとなく離れがたい。

「・・・できれば、このまま眠っちまいてェんだけど・・・」

ゾロが言いにくそうに、それでもルフィの体を抱きこんで言うのでルフィは笑った。同じ気持ちになるのはやっぱり嬉しい。顔を上げたら、またキスが唇に落ちる。どこまでも優しい、甘いキスだった。

「おやすみ、ゾロ。大好きだ」

そう言ってルフィはまたゾロの胸に顔を埋める。お互いの心臓の音が聞こえる。二人は別の人間だから、まったく同じになることはないけれど、別の人間だからこそ、同じ時間を生きられる。わからないことは聞けばいい。そうやって二人のリズムを作るのだ。起きたらたくさん話をしよう。ゾロも柔らかく笑って、大事そうにルフィを腕の中にしまいこんだ。

「また明日」

 

 2005.11.11up

そんな感じでゾロバースデーを祝ってみました。

最近ベタ続きな気がしますが、

ベタ好きな方も多いことですし(笑)。

うん。私も好き(笑)。

ただどこまで書いていいのかわからなくって悩んだりしてました。

まぁニガテな人はごめんね(事後承諾か!)。

よかった。11日に間に合って(切実)。

ゾロが今年も幸せでありますように(笑)。

 

 

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