「なんだそれ。ゾロは全然悪くないじゃねェか」 「悪くはねェが、そういうこともある。別にその場限りのことだしな。」 なぜこんな話になったのだろうか。ゾロは首をひねる。ルフィはたいそうご立腹だ。 「そいつがゾロの言うこと聞かねェから時間になったんだし、そもそも調べてみたら向こうが悪かったわけだろ?それを棚に上げて、ゾロが悪いみたいにどうして言えるんだ?」 「まぁ、自分のことは棚に上げられる奴というのは多いという話だ。あそこまで身勝手なのもそうそういないがな」 ついうっかり、今日遭った出来事を話してしまった。まぁ、クレームのようなものだ。それも客からではなく、支店長からの。支社の仕事にミスがあった、という内容で、責任をとれ、と紋切り型で電話があった。実際調べてみれば、支社の仕事に落ち度はなかったわけだが、そう言えば、こんなに時間がかかってどうしてくれる!という申告にかわり、そもそもお前らの仕事はなっとらん、と続いたわけだ。まぁ、理不尽ではある。ゾロもそう思っていたので、つい、喋ってしまったのだろう。修行不足だ。 「なんでゾロが謝らなくちゃいけないのか全っ然わからん!だいたいそいつもお客じゃなくて、同じとこから給料もらってるわけだろ?仲間じゃねェの?」 ルフィが本気で怒っている。怒っているというより、信じられない現象を見ているような顔だ。 「まぁ、組織がでかくなると、いろんな奴がいるからな。そいつには残念ながら、そういう意識はないようだったな。むしろ、支社なんて邪魔でしょうがないんだろう」 実際そう言っていたし。 「・・・わからん」 「お前にはわからなくていい。つまらん話をしたな」 「だっておかしいだろ?」 「おかしくてもそれが組織で、それが仕事だ」 どうやら失敗したようだ。ルフィの機嫌がみるみる悪くなっていくのがわかった。 「今回は、確かにうちのミスじゃなかったが、ミスなんて、誰にでもあるもんだ。今回、それを盾に向こうをやり込めたとしたら、また次に、今度、うちがミスしたときに同じことをされるだろ?」 なんとか説明してみる。ルフィが自分のために怒っているのは、嬉しくないと言えば、嘘になるが、やはり、笑っていてほしいので。 「でもそういう奴は、今回のことを覚えてなんかいねェに決まってる。ほんとにゾロの会社がミスしたことがあったら、それこそ鬼の首とったかのように、ヤなこと言うに決まってる」 確かにそうだろうな、とは思う。その支店長は、有名人だ。 「なんかゾロが負けたみたいでイヤだ」 不貞腐れた顔のまま、ルフィがつぶやいた。ゾロは苦笑いをして、 「なんだ。そんなことが引っかかりか。あんなもんに勝ち負けなんかあってたまるか。まぁ、あえて負けとするなら、その電話が、仕事時間内に終わらなかったときだろう。定時に帰れてお前といるんだから、負けじゃねェよ」 「むー・・・」 まだルフィは納得いかないようだ。 「長い目でみりゃ、勝ち負けなんて、幸福か不幸かで決まるようなもんだろ。幸せな奴はいつでも勝ちだし、不幸せな奴はいつでも負けだ。お前そんな人間が幸せだと思うか?」 「うーん・・・」 「だから勝負で言ったら、おれの勝ちだ。安心してろ。仕事中の数時間なんて、些細なことだ」 「・・・うん」 「ついては、さらにおれを幸せにしてほしいところなんだが」 「・・・・・・・ガンバリマス」 どうしようもない人間でも、それなりに役に立つことはあるようだ、とゾロは思った。
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