春で朧でご縁日

10.

 

 予定外に菱まんじで夜を明かしてしまったルフィが、ゲンゾウの厚意に甘え、朝食を食べてから向かったところは、ルフィの住んでいた長屋だった。寮の番をするようになってからはあまり帰っていなかったけれど、一応、ルフィの家はまだここである。

「ルフィ!!」

長屋に戻ると、まず、ウソップが飛んできた。それはもうすごい勢いだ。

「お前無事だったのか?」

一昨日の夜の一件が耳に入ったのかと思いきや、

「お前の部屋に、なんだかすげェ怖そうなお侍がやってきて、荷物持ち出して行ったんだ。あまりに堂々とした泥棒っぷりだったんで、うちの長屋の奴ら誰も止められなかったんだけどよ。借金のカタかなにかに全部持ち出されて、お前は売られちまったんじゃねェかとか長屋じゃもっぱらの噂だったんだが」

そういえば、ゾロがこの着物をとりにここに来たんだったか。ルフィは思い出して笑った。

「いや、あのお侍はおれの忘れモンを取りに来てくれただけなんだ。随分世話になってる。大変格好よくて優しくて良い奴だ。それに命の恩人だったりいろいろだ。でも心配かけて悪かったな」

ルフィは笑顔のまま言った。ウソップがなにか考え込んでいる風なのもなんだかおかしかった。

「でもすげェ怖かったんだぞ。ルフィの部屋はどこだ!っておれの襟首つかまえてな。おれはすっかり言いなりにお前の部屋を教えてしまったが、まぁ、それならよかった」

結局、泥棒だの借金取りだの思いながら、ルフィの部屋を教えたのはウソップなのだ。ルフィは思わず吹き出す。

「まぁ、結果的にはよかったよな」

ウソップと話をしていると、なんだかものすごく日常に戻った気がする。けれど、ひとまずルフィがここに来たわけは日常に戻るためではなく、しばし、あるいはずっとになるかもしれない、別れを告げるためだ。

「あのな、おれちょっと旅に出ることになったんだ。で、いつ帰って来るかよくわかんねェから、一応長屋引き払っとこうと思って」

いきなりそんな風に告げられて、ウソップは戸惑った。

「いつ帰ってくるかわかんねェって、どこ行く気だよ」

「どこかは知らねェんだけど。まぁ、宝捜しに行くだけだ。」

「お前そんな楽しい話におれを誘わねェとはどういうことだ!」

宝捜しと聞いて、ウソップは俄然はりきって切り返す。ルフィはニヤリと笑って、

「でも、死人とかが襲ってきたりするんだぜ?」

と、せいぜい怖く聞こえるように、それでも冗談めかして言った。

「む!それは残念ながらおれ向きじゃなさそうだ」

ウソップも冗談だと思ったのか、話を合わせてくれた。

「いつ発つんだ?」

「んーと、明日」

「そりゃまた急だな」

それでもなにかを感じ取ったのか、なんとなくしんみりしてしまう。

「とりあえず、大家に話して、荷物まとめるから」

荷物、といったところで、ルフィのすべての荷物など片手で持てる量だ。

「・・・帰って来たら、おれの自信作がんぎ凧、上げような」

ルフィは笑ってウソップに手を振った。

 

 大家に挨拶をして、荷物をまとめた。まとめる作業は荷物の量に比例して、少ない時間ですむはずだったのだが、長屋の子供たちが入れ替わり立ち替わり現れて、ルフィの邪魔をするもので、結局、長屋を出たのは昼過ぎになった。

 それからルフィは、以前約束した、あのサンジの働く料亭に向かった。思ったとおりの大きい店ではあったが、高級料亭、という感じはなく、ルフィは物怖じせずに店の中に入った。

「へい、らっしゃい」

威勢のよい声が四方から聞こえる。店の中は活気に満ちている。どうやら繁盛しているらしい。

「あ、おれルフィって言うんだけど」

「おぉ、てめェか!おぉい!料理長のお客さんだ!!」

そして奥の座敷に通された。料亭の座敷になど上がったことがないルフィが、物珍しそうに部屋を見回していると、襖が開いて、ゼフが現れた。

「おぉ、おっさん無事だったか!」

「当たり前だ、ボケナス」

ルフィはずっと気になっていた男の無事を確認してほっと一息吐いた。

「約束どおり、メシ食いに来たぞ!」

店の衆に負けぬくらい威勢良く、ルフィは言った。

 

 ゼフの言った言葉に誇張はなく、ほんとうに、今まで食べたことのないくらい美味い料理が次から次へと出てきた。ルフィは遠慮なく出てくる先からたいらげていく。

「はー。うまかった。ここ出る前にこんな美味いもん食えてよかったなー」

ルフィが大変嬉しそうに言うと

「例の宝捜しか」

「うん。明日発つんだ。」

美味しいものを食べてすっかり機嫌のよくなったルフィがにこにこしながらゼフの問いに答える。ゼフの顔が少し顰められた。

「小僧。メシ代の代わりに聞かせろ。てめェ、どうしてそんなにそのお宝にこだわる?百万両だか知らねェが、そんな銭がなくたって、てめェは楽しくやれるだろうに」

「生まれながらの貧乏だからな。金はいくらでも多くあった方がいいさ。でもな、おれはちょっと怒ってんだ。そんな見たこともねェ宝のためにいっぱい人が死んでる。おれの大事な奴もひでェケガした。そんな危ねェ宝なんか誰かが掘り出しちまった方がいいと思わねェか?」

ゼフがニヤリと笑った。

「掘り出した宝にゃ、興味ねェか?」

「ねェことはねェけど。それよりも全部終わらせてすっきりしてェ。それにその宝の持ち主って奴を守るって約束してるんだ。宝が見つかれば、そいつもちゃんと心から笑えるようになるはずなんだ」

ビビの笑顔はいつもどこかはりつめている。ルフィには想像もつかない、たくさんのモノを背負っているからに違いないのだ。宝を見つけることで、その荷物が軽くなることは間違いない。

「その宝の持ち主って奴がケガしたって奴か?」

ゼフはなんの気もなく、そう聞いた。

「いや?ケガした奴と宝の持ち主は違う奴だ」

「ほぅ、大事な奴と守る奴が違うとは大変だな」

ひとつであった方が単純に楽だろう、とゼフは思っただけなのだが、ルフィはびっくりしたように目を開いた。

「・・・おれもそれ困ってるとこなんだけど。そういうのっておかしいか?」

「いや、お前の度量の問題だとおれは思うがね」

「サンジも一度にあちこち気になる、って言ってた」

「あのチビナスの言うことはまともに聞くな」

ゼフがまた顔を顰めたので、ルフィは少し笑った。

「まぁ、答えなんてのはもともとてめェの中にあるもんだ。時期がくりゃ嫌でもわかる。そんなことに焦る必要はねェだろうよ」

やはり人生の先輩の言うことは勉強になる。ルフィはなんだか心が軽くなっていくのを感じた。

「まぁ、宝が見つかったら、また食いに来い。今度は金をとるがな」

「・・・ありがとう。で、ごちそうさまでした。」

ルフィは深く頭を下げた。

 

 できればサンジにも挨拶をしたかったのだけれど、いなかったのが少し残念だ。けれどなんだかすっきりとした気持ちになって、ルフィはゼフの料亭を後にして次の目的地に向かった。ほんとうはなにも言わずに行ってしまいたかった気も、少しだけあった。明日発つことは聞いていたはずだ。が、それはあまりにも不義理だし、なにも言わずに行ったらきっと後悔するだろうな、と思い直したのだ。

 裏木戸を開けて中に入る。ナミがいたら、ナミにも挨拶しておこう、と思う。縁側にはナミの草履はない。表から入った可能性もあるのだけれど、ひょっとしたら留守なのかもしれない、とルフィは少しだけがっかりした。けれど出かけられるくらい回復したのならそれはそれでめでたい、と思い直しつつ、念のために縁側に近づいた。

「・・・ルフィか?」

障子の向こうからゾロの声がした。なんだか初めて会った時みたいだ、とルフィは少し笑った。

「うん」

返事をしたが、ルフィは障子を開けて中に入ることをしなかった。なんとなく顔を見るのが躊躇われた。そしてゾロも障子を開けることをしなかった。障子越しに話を続ける。

「・・・ナミはいねェの?」

「昨日あれからすぐに用事があるとかで帰ったぞ。なんだ、ナミに用事か?」

「いや、もちろんゾロにも用事っていうか・・・。知ってると思うけど、おれ明日ロビンやビビと一緒にこの町出るから・・・」

挨拶に。と最後の方の声が小さくなってしまう。

「・・・そうか」

ゾロもそう呟いたきりだった。

「おれも行く気でいたんだが、このザマじゃ足手まといになるかも知れねェからな」

その響きになんだか自嘲めいたものを感じてルフィは慌てて縁側に駆け寄る。それでも障子を開けることはせずに、縁側に座ると訥々と話す。

「ケガしてたってゾロは強いよ。そうじゃなくて、おれがビビを守るって決めたから、おれが守ってやりてェんだ。それにいつ帰ってこれるかわからねェ旅に、殿様連れてくわけに行かねェだろ?」

ゾロはお上にお屋敷をいただいている身なのだ。いつお呼びがかかるかもしれないし、そこまでゾロに迷惑をかけたくない。

「ゾロにはすげェ感謝してるし、いっぱい助けてもらったし。これ以上迷惑かけたくない、っていうより、おればっかりゾロに助けてもらうのヤなんだ」

自分でもなにを言っているのかよくわからなくなってきた。

「そりゃ、ゾロが一緒に来てくれれば心強いとか思うけど、それじゃダメなんだ、ってどっかで言うんだ。ここは助けてもらっちゃいけないトコのような気がする・・・」

うまく言えないことに少し腹が立った。帰ったらナミに言葉を教えてもらおう、と場違いに思う。

「聞くが・・・帰ってくる気はあるのか?」

ゾロが障子の向こうから低い声で聞いてきた。ルフィは質問の意味を図りかねたが、

「・・・だっておれの取り分山分けだって約束したろ?」

至極当たり前のように答えた。それでもほんの少しだけ、戻ってこられないような気もしていたことが、ゾロには見抜かれていたのかもしれない。ゾロが低い声のまま呟くように言った。

「ひとつだけ、頼みがある」

「引き受けた」

内容も聞かずに答えるルフィにゾロは苦笑する。それから少しだけ沈黙があって、やがて

「・・・待っていてもかまわないか?」

「・・・・」

ルフィは障子の合わせ目にコツンと額をあてた。こんな戸を開けるくらい造作もないことなのだけれど、なぜだかそれが出来なかった。

「・・・なんでゾロにはわかるんだろう」

本当に不思議だと思う。

「・・・うん。待っててくれ。」

必ず、帰ってくるから。その言葉は胸にしまっておいた。たぶん、言わなくてもゾロにはわかる。

 

「よかったのですか?」

ビビが不安そうに聞いた。ルフィとビビは大川をはしる舟の上にいた。舟を漕いでいるのは迎えにきた尼だ。ビビはいつか見たことのある若衆すがたをしている。

「あぁ、ナミとサンジに挨拶できなかったのが残念だけどな」

あれからルフィはナミの住む長屋に行ったのだけれど、ナミは出かけているとの返答で、会えずじまいだったのだ。

「いえ、それもありますけど、このような旅に出ることは本意ではないのでは?」

「なんでだよ。おれは旅とか好きだぞ?できると思わなかったけどな。初めてのそれが宝捜しなんて言うことねェよ。生まれた時からの貧乏人だから舟で大川を行き来することなんて一生ないと思ってたのに、ビビのおかげでいっぱいおもしろいケーケンができてる」

そう言えばビビは少し微笑んだ。

「ありがとうございます。町を離れるのは少し淋しいのではないかと思ったのですけれど」

「んー。それはまぁ、そうだけど。また帰るって約束したし。心配するな。」

おや、とビビは思う。またいつものルフィに戻っているようだ。一昨日会った時に感じた張り詰めた雰囲気が今はまったく感じられない。そうしてビビの気持ちも随分楽になった。

「それにしても、どこまで行くつもりなんでしょう。ルフィさん、そのロビンという尼は道中手形のことなどは言われなかったのですよね」

「うん。迎えをやるから待ってろ、ってそれだけだった・・・と思う」

ゾロのことに気がいってたせいで、記憶は曖昧なのだが、たぶんなにも言われなかったはずだ。どのように関所を越えるつもりなのかと二人で頭をひねっているうちに、舟は岸に着いた。

 案内役の尼の後について、二人は舟を降りると、坂を上った。やがて塀が見える。塀にそって歩いて行くとくぐり戸があり、ルフィが先にその小さな戸口をくぐった。尼に続いて中庭を歩いているうちに、ルフィはここがいつかサンジと連れてこられた屋敷だということに気づいた。あの風呂は気持ちがよかったなぁ、と場違いなことをのんびり考える。

 渡り廊下からまた、短い階段を上る。もうすぐ土蔵造りの別棟だ。

「お待ちしておりました」

土蔵の扉の前で、ロビンが待っていた。

「おぅ、来てやったぞ。ビビも一緒だけど、かまわねェよな?」

ロビンは頷いて

「もちろんよ。どうぞおあがりください。」

前半はルフィに、後半はビビにそれぞれ微笑んで言った。

 

「迷子札はお持ちくださいましたか?」

「あぁ。持ってきた。でも見せるわけにも渡すわけにもいかねぇよ?なにしろどこにいくにもお前まかせで、こっちは道中手形も用意してねェんだ」

「わたしたちを殺して迷子札をとろうとする気でしたら、こちらにも覚悟があります」

ロビンは小首をかしげて、

「どうやらお姫さまは気が立っておいでのご様子。まぁ、詳しいことをお話していないのですから無理はありませんが。道中手形はいらないのですよ」

「道中手形がいらない?」

ルフィが聞き返した。別棟の中にはルフィとビビ、ロビンの三人しかいない。ロビンはにこりとして、

「これから私たちが出かける場所は、この世とは異なる世です。私たちは仮の世のなかにいるわけです。ほんとうの世のなかと、間もなく重なり合います。その時、もとの世に戻ろうとしているの」

「なにを言ってるのかさっぱりわからん」

ルフィははなから考えることを放棄した。

「この世のほかに、もうひとつ、あの世があるということですか?」

ビビがロビンに質問をする。

「私たちはあなたを追ってここまで来たのよ。あなたの世界もこことは違う。ふたつの世の中の重なり合う時と場所は限られているのよ。今日を指定したのは、今日ここでふたつの世界が重なり合うから」

「今日を逃すと今度はどこで重なるんだ?」

これはルフィだ。ロビンの言っていることを理解したわけではないのだが、印象だけは伝わっているようだ。

「あと二回、ここで重なり合います。」

「その次は?」

「わかりません。天文を計って勘考しないことには」

と、ロビンがいったとき、障子が開いて、尼がひとり入って来た。

「支度ができました。庵主さま」

「わかりました」

ロビンは頷いてから、ルフィに向かって、

「いつでも旅立てるわ。どうします?」

「おれはいつでもいい。ビビは?」

ルフィが聞くと、若衆すがたのビビは、きっぱりとした声で、

「参りましょう。いますぐ」

「すぐ行けるのか?ロビン」

「大丈夫」

ロビンは言って尼に頷いてみせた。尼が頷き返して出て行ったかと思うと、四、五人の尼と一緒に戻ってきた。駕籠を一挺、かつぎこんできたのだった。町駕籠ではない。扉のついた武家駕籠だった。

「まず、ビビ様に乗っていただきましょうか。ルフィには私の話が事実なのを、実際に見てもらうわ。言葉で説明するより早いでしょうから」

ロビンが言うと、尼の一人が駕籠の扉を開けた。もう一人が、ビビの手をとって導く。ビビは少し不安気にルフィの顔を見たが、それは一瞬で、思い切ったように駕籠に乗り込んだ。ロビンはルフィを促して正面の扉のきわまでさがった。周りは以前と同じように黒光りした壁が燭台に照らされているのみだ。

「ビビ様はご自分の生まれた世にお戻りになります」

ロビンのおごそかな声が言うと、ビビの乗った駕籠を尼たちが押した。黒い壁に向かって押したのだ。ルフィの立っている場所から向かって正面の壁に、異様な空気の層が出来ていた。見えているものがずれていくようなおかしな感じだった。壁から黒い雲が湧いてくるようだった。

「ビビ様、お立ち」

ロビンが言うと、他の尼たちがいっせいに駕籠を押した。かつぐのではなく押し始めたのだ。壁に向かってずるずると駕籠は動き、雲に似たもやもやしたもののなかに飲み込まれていった。駕籠と一緒に2,3人の尼がずれて見える層のなかに入っていき、その尼たちの手に駕籠は押されてもうほとんど見えなくなっていた。

「おぉーっ!不思議駕籠だ!」

ルフィが感嘆の声をあげるとロビンがにこりと笑った。

「お姫様はもうもとの世界に戻ったわ。私たちも行きましょうか」

「駕籠が参りました」

尼の一人が言って、壁の前に出てきた棒鼻をつかむと、他の尼たちも手を貸して、もやもやした空間から駕籠を引き戻した。戸を開けるとビビの姿はなく、ルフィはロビンをかえりみて、

「おれもこれに乗るのか?」

「ルフィは初めてだから、駕籠に乗った方が楽だと思うわ」

ロビンに言われてルフィは駕籠に乗った。自分で歩けるものならば、あのもやもやした空間がどうなっているのか確認したい気も少しあったのだけれど、ここはロビンの言うことを聞いておくことにした。帰りに確認することにしよう。

 戸が閉まると駕籠が押されて、すべりだすのがわかった。急に胸苦しくなって、ルフィは目を閉じた。駕籠の中の空気が凍りついたような気がした。呼吸ができなくなって、ルフィは口を開いた。からだが引き裂かれるのではないかと思って両手を握り締めた。だが、息苦しさも、全身を襲った違和感も、すぐに消えた。駕籠の動きが止まって、戸が開いた。

「戻りました。お出になってください。」

駕籠の外はどこかの林の中で、ルフィが駕籠から出ると、尼たちは駕籠の戸を閉ざして、木立のなかに押し戻した。それは大きな甲虫のように棒鼻をゆらしながら、霧みたいに漂うものの中に吸い込まれていった。

「ここがロビン達のこの世か」

ルフィが聞くとロビンはにっこりして

「そうよ」

林の中は霧が流れてうそ寒いくらいだったが、自分たちの世界というのは格別なものなのだろうか。ルフィの世界ではまったくの無表情だった尼たちは顔を見合わせてにこにこしていた。ビビまでが生きいきとした顔つきで、ルフィのもとに走りよってきた。

「ルフィさん、私はなんだかこの景色に見覚えがあるみたいです」

「それはこの木に見覚えがあるのでしょう。城のまわりにもこの木がしげっておりましたから」

ロビンが口を出した。ルフィが目をやれば、まばらな葉を垂れてふしくれだった樹木は、なるほど、見たことのないものだった。随分と枝が曲がりくねっている。

「宝の場所は近いのか?」

ルフィが聞くと、ロビンは首を振って、

「宝はもっと山深い所にあります。旅立ちの支度をきちんとできる場所を用意していますから、一度そこに寄って、それから徒歩での道行となります」

その時、尼の一人が声をあげた。三人が目を向ければ、大きな角のように黒い棒がゆれて、駕籠が再びせり出してきていたのだった。駕籠を押して出てきた男が深い息をついた。

「やれやれ。からだがばらばらになるかと思った。あぁ、君がお姫様だね。噂にたがわずお美しい。大丈夫ですか?」

そう言いながら男は駕籠の戸を開く。旅姿に杖をついて、青ざめた女の顔が駕籠からのぞいた。

「ナミ!サンジ!どうしてここがわかったんだ?」

ルフィは呆気にとられて思わず叫んだ。

「そりゃ、お前のあとをつけてきたに決まってんだろ?」

サンジはナミに手を貸して、駕籠から出してやりながら、

「だいたい黙っていくなんて、不義理だろうが。」

きちんと挨拶をしたかったのにいなかったんだからしょうがねぇだろ、とルフィは言いたかったのだが、

「そもそも尼さんの方は・・・十一人もいるのに、あんたとビビだけじゃ心元ないでしょ?あんたたちじゃ人が良すぎていいように利用されて騙される可能性があるじゃない。私の宝がかかってんのよ?」

青白い顔を奮い立たせてきっぱりと言い切るナミの前であっさり黙らされた。ナミはロビンに向かって、

「私はあなた方にひとつ貸しがあるはずだわ。どう?私たちがルフィの側について行ってはいけないかしら?」

「お帰り願いたいところですけれど・・・」

ロビンは眉をひそめて

「あるいは人の数は多い方がいいかもしれないわね。ルフィがいいと言えば私たちはかまわないわ」

 

 2005.12.17up

 

結局ふた月開いてますね。

今回はコメント控えましょう。

 

 

 

BACK / NEXT

 

inserted by FC2 system