春で朧でご縁日
2.
目が覚めたら昼過ぎで、雨戸も障子も既に入れ替えられており、台所には昼食の支度がしてあった。こんなんで、用心棒がつとまるんかな?と自分でツッコミをいれながら、ルフィはありがたく食事に手を付けた。食事は通いで賄いの女性が用意しておいてくれることになっていた。なかなかうまい。 昼間から賊が押し入るようなことはないと思われるので、昼間は自由にしていてよい、と言われたので、ルフィは一旦、長屋に帰ることにした。しばらく留守にすることなど、大家に伝えておこうと思ったせいだ。あぁいうことがあった後、すぐにルフィが行方不明になった、となれば、皆心配するだろう。子どもたちと遊ぶのも少しおあずけだ。今日辺り、凧揚げ日和だと思うのだが残念だ。友人作、がんぎ凧の初披露は少々日延べになりそうだ。 長屋に戻り、ひと通りの挨拶をすませたあと、ルフィはふと思いついて、昨日の武家屋敷をのぞいてみることにした。中間部屋に賭場の立つ屋敷の向かい、と言うことで、賭場仲間に聞いてみると場所はすぐにわかった。案外遠くない。 イガラムやビビの話を頭から信じたわけではないが、あの尼たちが狙っているものもその百万両、なのかもしれない、と思ったせいだ。場所もわかったし、とりあえず昼間なので、いざとなればなんとか逃げ出せるだろう。そう決心してくだんの屋敷へ向かった。 ずいぶんと荒れた屋敷だと思った。昨夜は暗くてよくわからなかったのだが。ぐるりと回ると、板塀の裏木戸には錠が下りていなかった。木戸を入ると庭木が裂けて倒れていた。せっかくの広い庭。あれだけの尼がいて、なんの手入れもしてないとは勿体ない、とルフィは少し顔を顰めて縁側に近づいた。 「誰だ?」 すると、障子の向こうから男の声がした。鋭い声ではない。むしろ、眠そうな声だった。ルフィが答えずにいると、声は笑いを含んだものに変わって、 「泥棒だったら帰った方がいい。がっかりするだけだぜ。念晴らしに見て歩いてもかまわねェが、障子は破るなよ。替えがねェんだ」 つづいて大きなあくびが聞こえた。あの尼たちの用心棒だろうか?とルフィは考えて、なんで尼に用心棒がいるんだ?と考え直す。言葉に甘えて屋敷の中を探検することにした。確かに昨夜の屋敷には違いない。が、尼の姿など一人も見かけることができなかった。 ルフィはあきらめて元の縁側に戻った。障子の向こうからはいびきが聞こえる。 「卒爾ながら障子の向こうのおひと」 ルフィが声をかけるといびきがぴたりとやんだ。 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 残念ながら文章語は長続きしなかった。障子の向こうのヒトはお侍だ。たぶん。ルフィの勘がそう告げている。なるだけ丁寧に、と思ったのだが、いかんせん、言葉を知らない。 「なんだ、まだいたのか。泥棒じゃなかったのか?」 障子の向こうの声が不機嫌なものになった。 「泥棒の方がいいのか?」 ルフィは慌てて聞いた。泥棒じゃないとわかったら不機嫌になる声を不思議に思ったせいだった。 「聞きたいことってのは?」 声がまた笑いを含んだものに変わる。ルフィは少しほっとした。 「えーっと、お侍さんはここのひと?」 「あぁ、この屋敷のあるじ、一応直参旗本だがな。金はお前さんの方が持ってるかもしれねェ。きわめつきの貧乏旗本だ」 障子の向こうの声が笑った。ルフィは少し呆気にとられる。確かにここは武家屋敷なのだから、お侍が住んでいるのは当たり前だろう。では昨日の尼たちはなんだったのだろう。そもそも尼は寺だ。ということに今更気づいて混乱する。 「えと、おれ昨夜、ここにつれて来られた気がするんだ。でもお侍さんはいなかった。」 「あぁ、昨夜は向かいの中間部屋で、酒と食事にありついていたな。聞きたいことってのはこみいった話か?」 「よくわかんなくなってきた。」 また障子の向こうで笑う声が聞こえた。 「だったら寝てもいられねェか」 障子が開いて、この屋敷のあるじという男の顔がのぞいた。ルフィを見つめた目が明るく深く、ただ自堕落なだけの貧乏旗本とは思えなかった。貧乏なことは確からしく、黒羽二重の古びた紋付きの下に、女ものの長襦袢を着て、緋のいろを派手にこぼしている。思ったよりも若かった。 「どうした?」 呆けているルフィに男が声をかける。 「びっくりした。」 「なにが?」 「かっこいいから。」 思ったより、ずっと。男が吹き出した。 「そんな風に褒められたのは初めてだな」 笑った顔もかっこよかった。ルフィは初めてビビと会った時のことを思い出していた。あんなキレイな娘にもこんなかっこいい侍にもルフィは会ったことがない。今まで知らずにいたのが勿体ない、と思った。 「名前は?」 聞かれて我に返る。 「ルフィ」 「なるほど。盗人のツラじゃねェな」 盗人のツラってどんなだろう。ルフィの知ってる泥棒は役者みたいなきれいな顔をしていたけれど。 「とりあえず、そんなトコに突っ立ってないで上がれ。もてなしはなにもできんが、そのこみいった話とやらを聞こうじゃねェか」 ルフィはらしくなく、少し気後れしたものの、結局座敷に上がることにした。 天井を見上げる。昨夜見た天井と同じだと思うが、本当に同じ天井か、と言われると自信がない。 「ここには殿様の他に誰が住んでるんですか?」 ルフィが聞くと男は苦い顔をした。 「殿様はやめろ。ゾロでいい。」 「ゾロ?」 「あぁ、ロロノア・ゾロというのがおれの名だ」 そんなことを言われても、旗本相手に呼び捨てはどうかと。 「あぁ、ここに住んでるのはおれ一人だ。用人も昔はいたがな。今はもう誰も残っちゃいねェ。」 ゾロの言うことは本当だろう。では昨夜ルフィが見たものはなんだったのだろう。 「おれは、昨夜、初めて駕籠に乗って、気がついたら知らない場所で、隣に尼さんがいて、部屋を出たらずらっと尼さんが並んでて、外に出たら向かいの屋敷の裏木戸が前にあったんだ」 ルフィは端的に昨日みたもののことを話した。 「つまり、お前はこの屋敷の中で、たくさんの尼と出逢った、というわけだな」 ルフィは頷いた。 「それで、それらしい奴はいたのか?」 今度は首を横に振る。 「だいたいその尼はお前になんの用だったんだ?」 聞かれてルフィはどうしたものかと思う。今初めて会った人に、今回の一件を話していいものかどうか迷った。特に、迷子札やら百万両の話だとかは。 「えぇと、人違い、だったみたいだ」 ゾロの目が冷えた。たぶん、見抜かれた。やはり自分は隠し事が下手なのだ。それとも相手がお侍だからだろうか? 「無茶苦茶な話だな」 「うん、無茶苦茶だから混乱したんだ。おれも。」 ゾロがスッと立ち上がった。無駄のない動きだと思う。座敷の隅の刀掛けに手を置いて、鞘を掴んだ。斬られるのかと思ったが、ゾロはその刀をルフィの方に投げてよこした。そうしておいて、庭に出る。 「泥棒相手なら、とるものもなく気の毒、ですんだところだが、生憎、からかわれるのは好きじゃねェんだ。それでも丸腰相手に刀を抜くのも気が進まん。貸してやるから抜け。おれはこちらでいい。」 そう言ってゾロの抜いた刀の方は竹光だった。ルフィの手にある刀は重さから言って間違いなく真剣であろう。 「ちょっと待て!お前短気だぞ!確かにお侍のお屋敷に勝手に上がりこんだおれも悪いけどさ!」 別にからかってなどいない。 「さっさと抜け。竹光だからと甘くみるなよ」 竹光をななめにかまえて、さっと宙にふるう。女物の長襦袢の袖が黒羽二重の袖に、血のようにひるがえったと思うと、かたわらの松の下枝が落ちて、松葉の重なり合う音がした。だが、竹と木のふれあう音はしなかった。ただ、空気の裂けるような鋭い気配がしてから、松の下枝が地に落ちたのだ。 「ちょっとしたものだろう」 ゾロがルフィに落ちた松の枝を投げてよこした。切り口は、鋭利な刃物ですっぱりと一気に切ったかのようだった。 「・・・かっこいい・・・」 ルフィの感想にゾロは一瞬虚をつかれたようだったが、なんとか持ち直す。 「感心してねェで、用心しろ。わかったらとっとと抜け」 ルフィはニヤリと笑って、太刀を刀掛けに戻した。 「おれは剣術使えねェから。邪魔。」 「素手で勝負に出ようと言うのか?」 ゾロもニヤリと笑う。 「人の腕と松の枝は違うだろ。いざとなったら、無礼の詫びに、腕の一本もくれてやる。そのかわり、そん時は、お前の胸にも風穴開けてやるからな」 喉をつかれればルフィの負けだろうが、それをよければ勝機も出る。 「拳で?」 「おぅ。」 二人の間をしばし不穏な空気が流れた。どう間合いを詰めるかが、勝負どころだと思う。この時、ルフィの頭からは、百万両も迷子札もビビも尼も消えていた。 空気が震えた。ルフィはあれ?と思う。ゾロの肩が震えている。笑いを堪えているのだ。からかわれたのだとわかってルフィは頭に血が上った。 「お前っ!!それっ!ちょっとひでェぞ!!」 「ゾロだ」 「ゾロっ!お前殿様だからってやっていいことと悪いことってのがあるだろう!!いたいけな町人つかまえて、人が悪いにもほどがあるぞ!!」 いたいけな町人は素手で侍と戦おうとはしないと思うが。そう思ったけれどゾロは黙っておいた。 「お前もおれに中途半端なことしか言わねェんだ。人が悪いのはお互い様だろう。」 言われてルフィは怯んだ。 「・・・そう言われるとちょっとおれも困るんだけどさ」 言ってもいいことなのか悪いことなのか、ちょっとルフィには判別がつかないのだ。ゾロがどうこう、という問題ではなく。 「まぁ、いい。おれも久しぶりに侍気分が味わえた。礼を言う。」 礼を言われるのもどうかと思う。侍気分、てもともと侍じゃねェか。でもお礼を言われたらこう返すものだと教わった。 「どういたしまして」 そしたらまた笑われた。大爆笑だ。マキノ!なんか違うみたいだぞ!姉代わりの酒場の女主人を思い出しながらルフィは少し顔を赤くした。ゾロは竹光を鞘に収めて足を払い、縁側にあがる。 「あぁ、悪かった。気を悪くしてなけりゃ、また遊びに来い。尼はいねェし、もてなしもできねェが。」 そのまま笑って、座敷に入って行った。 「おれはまた寝るから、木戸からそのまま帰ってくれ。戸締りの心配はいらねェよ。調べたりなきゃ、畳を外してくれても構わんがな。」 障子が閉まったのでルフィは縁側で少し考えて、それでもそのまま帰ることにした。迷子札のことはまた改めて考えよう。また遊びに来い、と言った。今度は徳利のひとつくらいは下げてこよう、と思う。やっぱりなんだか不思議な感じだ。 寮についた頃には、もう日が落ちていた。大家の寮が立ち並ぶその一帯は、往来の人もまばらで、一気に夜がふけたようにも見える。寮の中に入ってゆくと、障子に灯のいろがあって、だれか来ているらしい。賄いさんがメシを作りに来てくれたのかな?と思い、 「ただいまー」 とルフィは声をかけた。すると障子が開いて 「おかえりなさいませ」 と、迎えたのは、思いもかけず、ビビであった。今は大店の娘の格好をしている。 「どうしたんだ?なんか用だったら使いをよこしてくれりゃこっちから出向いたぞ」 一応、大店の娘さんが一人で出歩いていい時間は過ぎた気がする。 「いいえ、晩御飯の用意をしに来たんです。新しい賄いさんの都合をまだつけられないもので」 前までいた、賄いの老婆は、この寮で殺しがあったのに怯えて寝付いてしまったのだ。ルフィは驚いて、 「じゃぁ、昼もビビが作ったのか?」 聞くと、ビビは苦笑して、 「さめたものをあたためなおすくらいのことしかできませんが。ルフィさま、今はお腹がすいていらっしゃいませんか?」 「いや、おれはわりといつでも腹はへってるけどな。その呼び方やめてくんないか?」 「ではルフィさん」 「妥協する」 「どうぞ召し上がってください」 ビビは微笑した。
ビビと他愛のない会話をしながら、ルフィは吸い物や煮つけを食べていく。 「ものすごく食べるのが速いのですね。男の方は皆そうなのでしょうか?」 ビビが感心したように呟く。 「さぁ。ウソップはおれが特別なんだって言うけどな。」 「ウソップ?」 「おれの友達。同じ長屋で飾り職のシゴトをしてる。おもしろくていい奴だ。」 ビビといるとふんわりとした良い気持ちになる。ビビがキレイだからだろうか。けれどルフィは昼間の侍と会った時も、似たような気持ちになったので、どうにもこの感じがどういう作用によるものか決めかねていた。 「ビビ、そういやお前いつ帰るんだ?あんまり遅くなるとおっさん心配するだろ?迎えが来ないんだったらおれが送っていくぞ?」 ビビはこう見えてかなり強い。けれど今は大店の娘の格好をしているし、やっぱり夜道は少し心配だ。 「いえ、今夜はここに泊まっていきます。明日の朝ご飯の準備もありますし」 さすがのルフィも一瞬止まった。なに言い出すんだお嬢。そんな感じに。 「えぇと、おっさんはなんて?」 大事なひとり娘(実の親子かどうかはあやしいが)を、得体のしれない男(この場合はルフィのことだ)が一人でいる場所に送り込んでくること自体、どうかと思うのだが。 「新しい賄いが決まるまで、お世話してさしあげろ、と言われました」 ビビがにっこり微笑む。ルフィが言うのもなんだが、この親子。変だ。 「ご迷惑ですか?」 迷惑とかではなく、嫁入り前の大店の娘に悪い噂が立っては、この先の縁談にも支障が出るのではないかと、ルフィらしくもなく気にしているのだが。珍しく押され気味のところを救った(のかどうかわからないが)のは、玄関先から響く声であった。 「若旦那!いらっしゃるんでしょう。わかってるんですよ。若旦那!」 聞いたことのない女の声だ。明るくて張りのある、いい声だと思った。ルフィが立ち上がり、玄関へと向かう。ビビもその後に続いた。沓ぬぎに立っていたのはいきな衣装の若い女だった。華のある、美しい顔立ちをしていた。今回はやたらと美人に縁がある、そんな風に思いながら、ルフィは若旦那の亡くなったことをその女性に告げようとして、言葉を失った。女には連れがあったからだ。玄関の扉の向こうに、ふところに手をやって、うっそりと月明かりのなかに立っていたのは昼間に出逢ったロロノア・ゾロだった。ルフィが呆気にとられていると女は尚も続ける。 「おや、見かけない顔だね。若旦那を出しておくれ」 「えーっと、どちらさまで?」 すると女はにっこり笑った。とっておきの笑顔に違いない。 「堀の清元、ナミと言います。若旦那にはよくご贔屓にしていただいております。」 優雅に一礼した。これは若旦那ひとたまりもなかっただろう、とルフィは少し笑った。 「その清元の師匠が、竹光の殿様連れて、夜ふけにご入来とはどういった料簡で?」 ルフィの声を聞きつけて、ゾロがふところ手のまま戸袋に近づいてきた。 「ルフィ?」 ゾロも驚いたようである。 「この女とはくされ縁でね、ここに来れば酒がふんだんに飲めるというからついて来たんだが」 なんとなく、言い訳っぽくてゾロは苦笑した。別に弁解する必要もないのだろうけれど。 「飲ませてくれるのはこの人じゃないんですよ。若旦那は寝てるのかい?」 ナミがじれったそうに言った。ルフィは眉をひそめて 「いや、酒はあるけどさ、若旦那は亡くなったんだ。知らねェのか?」 ナミは一瞬目をまるくして、けれど、すぐに顔を振った。 「いくらアタシがしばらくここを離れていたからって、そんな手にはのらないよ」 「いえ、本当です。一昨日、何者かに胸を刺されて。昨日が通夜でした。」 後ろにいたビビが初めて口を開いた。ナミもゾロも初めてそこにビビがいたことに気づいたようだ。 「えーっと、若旦那の妹のビビ。そんでおれはそういう物騒なことがあったからビビの父ちゃんに頼まれて今この寮の寮番。で、ビビは今メシを作りにきてくれたトコだ。」 誰に対して言い訳しているのかルフィにもよくわからない。そもそもこれは言い訳だろうか? 「どうやらあるじの亡くなったのは本当らしい。帰るぞ、ここにいてもしょうがあるまい」 ゾロがナミに言った。ルフィはやっぱりなんだか不思議な感じになる。 「イヤよ」 ナミがきっぱりとした声で宣言した。さすが常盤津の師匠。 「ルフィと言ったわね。私はずいぶん若旦那には贔屓にしてもらっていたの。ちょっと湯治に行っていて、今日帰ってきたものだからなにも知らずに申し訳なかったわ。けれど今からご本家に行っても迷惑になるだけでしょ。ここで通夜をさせてもらうわけにはいかないかしら。」 ナミがルフィを真っ直ぐに見据えて言った。ルフィは少し困った。このナミという女はいい奴だ、と思ったからだ。いい奴は、好きなのだ。 「若旦那は喜ぶかもしれねェが、ビビも言ったとおり、死に方が尋常じゃなかったんだ。また、ここにも怪しい奴が来るかもしれない」 念のため、言ってみた。 「あら、だってアンタ強いからここにいるんでしょ?そんで、そこには剣の腕しか取り得がないような殿様だっているんですから、もし、若旦那を殺した奴がやってきたら、とっつかまえて仇を討ってやればよし!」 ルフィはとうとう笑ってしまった。ゾロの顔が不本意に顰められたのがおもしろかったせいでもあるが、ナミのことが気に入った。 「とりあえず、上がってもらってもいいか?」 ビビに聞いた。ビビはにっこり微笑んで、 「こちらのあるじは今、ルフィさんですからお気遣いなく。けれど私は泊まりますからね」 と言った。そんな話をしていたのをすっかり忘れていた。
なんだか大変妙なことになっている。そしてある意味微妙なことになっている。ルフィは目の前の光景を見て思う。ここ数日で随分自分は複雑な人間になったものだ。その座敷はルフィが眠るために使う部屋ではなく、ここのあるじが使っていた部屋だ。座敷のすみの炬燵やぐらを中央に運び、押入れから友禅のこたつ蒲団を下ろした。疑っていたわけでもないが、ナミがこの寮に出入りしていたのは間違いないと思う。 そうして出した炬燵の上に酒を満たした盃を置いて、ナミは両手をあわせた。 「若旦那、何にも知らずにいて、お弔いにも出ませんで、申し訳ありません。若旦那の仇は殿様にお願いして、きっとこのナミが討ちますからね。成仏しておくんなさい」 思わずルフィが隣を見ると、ゾロは知らぬ顔で独酌で飲み始めていた。炬燵にはビビとナミ。ルフィはなんとなくゾロと一緒に座敷の端に座っていた。どうもビビとナミは仲良くなったようだ。ナミも最初のうちは神妙な顔つきをしていたが、燗はどんどん減ってきている。ゾロとナミをつないでいるのが酒だということはルフィにもおぼろげながら理解できた。ルフィがメシを食うかの如く、みるみる酒が減ってゆく。 今夜中にはたぶん、この寮の酒は飲み尽くされるだろう、とぼんやり思っていた。 「うまいか?」 隣のゾロに声をかけた。あまりに顔色が変わらないので、ほんとにこの男は酒を飲んでいるのだろうか?と心配になったせいもある。 「あぁ」 ゾロは答えた。 「悪かったな」 続けて言われてルフィはきょとんとする。 「昼間のことか?」 「いや、夜中に押しかけて。邪魔をした。」 邪魔ってなんだろう・・・。返事をする前にルフィの目にあるものが映った。 「ナミ!それ!」 ナミが懐からとりだしたそれをビビに渡す所だった。 「?若旦那からお預かりしてたものよ?お嬢さんに返すよりしょうがないでしょ?」 それはルフィが拾ったものと同じ、小判型の迷子札であった。 2005.1.3up とりあえず続けて更新してみました。 出てきたので次の更新はしばらく先かと。 今回のゾロ設定は、左文字小弥太という人がモデルです。 べらぼう村正という小説の人です。 かっこいいのです・・・。 あやかりたいです・・・。
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