春で朧でご縁日

 3.

 

 炬燵につっぷしてナミは眠っていた。ビビは眠るナミに上掛けをかけていた。なんだか姉妹のようだな、と思いながらルフィが盃に冷えた酒を口に含んだとき、かたり、とかすかな音がした。

「奴らはお前を斬りにくるのか?それともなにかを奪りにくるのか?」

小声で言うと同時に、自堕落に寝そべっていたゾロが起き上がった。

「探し物・・・かな?」

「迷子札か?」

ルフィは驚いてゾロを見る。ビビも同様だ。

「まぁ、なんとなくわかる。だったらお前はここにいた方がいいな。酒の礼におれが出迎えることにしょう。」

そう言ってゾロは立ち上がり、大小を落しざしにして部屋を出て行った。

「少し、怖い方ですね」

ゾロの気配が去った頃、ビビがそう言った。

「そうか?でもかっこいいだろ?」

ルフィが素直な感想を口にしたらビビは少し苦笑した。

「ルフィさんらしくていいですけれど、ルフィさんは少し、人を信用しすぎるトコロがありますね」

ルフィは思わず顔を顰める。前にも誰かに同じことを言われたような気もするが、なんとなく、ゾロを信用できない、と言われているような気がしたせいだ。確かに、尼たちに連れていかれたのはゾロの屋敷だし、ナミとの現れ方も疑える、と言えば疑える。

「あいつはいい奴だ」

きっぱりとルフィは答えた。根拠は、ない。勘だ。

「けれど迷子札のことを口にされました」

「あれはおれが気にしたからだ」

ルフィは慌てる。だいたいルフィにしても迷子札のことはよくわかっていないのだ。

「あいつらが探してるのは、やっぱりその迷子札なのか?」

ビビが少し困った顔をしたので、ルフィはそれ以上聞くのをやめた。

「まぁいいや。おれ嘘とか下手だしな。知らない方がいいかもしれん」

そう言うと立ち上がった。

「おれちょっと外見てくる。もしなんかあったら呼べよ。んで、ナミのことよろしく」

言うが早いが、廊下に出ると障子を閉めた。

 庭に出ると、足下に黒装束の男が倒れていて、ルフィはぎょっとした。少し、くだんの泥棒を思い出したせいもあるかもしれない。どうやら別人だ。庭にはもうひとり、黒装束の男がいて、それがゾロと向かいあっていた。

 ルフィは倒れている黒装束の腰から鞘ごと刀を抜いて、普通の数倍も長い下緒で、両腕を背に縛り上げながら、ゾロともう一人の黒装束を見守った。ちょうど石灯籠を間において、二人は向かい合ったように見えた。ゾロは下段に竹光を構えて、静かに動かない。黒装束は、上半身をわずかに前にかたむけて、右手を背の刀の柄に、左手を鐺にかけている。全身に力がみなぎっていた。

 この黒装束の殺気を見れば、ビビだって変な疑いをもたなくてすむのにな、とルフィは思う。たいしてゾロの方は、よくわからない。殺気があるような気もするし、ないような気もする。それでも二人の周囲に見えない壁ができて、手をのばせばさわれそうだった。ふと思いついて、ルフィはのそのそと進み出てみた。ゾロの正面、即ち黒装束の後ろに回ってみたのだ。そしてゾロの顔を正面から見ることに成功する。

 ゾロはとても楽しそうだった。口の端を上げて、それでも目は爛々と輝いていた。まるで獣のようだとルフィは思った。ルフィの動きにも二人は少しも気息を乱さない。それはそれでたいしたものだと思う。その時、石灯籠の影にもう一つの影が現れたのを確認し、ルフィは走り出した。先ほど倒れていた黒装束の持っていた刀の鞘を投げつける。影は両足の間に鞘を投げつけられ、前にのめった。起き上がって体勢を整える前にルフィが追いつき、後頭部に蹴りをくらわせた。どうやら、この男が探索の係らしい。明らかにゾロが相手にしている黒装束より腕が劣っている。

 少しの不満を感じつつ、ルフィは戦局に再び目をやった。黒装束が背の刀を抜いたときに勝負は決まるに違いない。ルフィはまばたきも忘れて二人を見守った。じりっとまた一歩、黒装束はつめよりながら、鐺をつかんだ左手をぐいっとひねった。

 ルフィが息を飲んだのは、黒装束の間合いの詰め方にいささかの狂いが見えたからだ。次の瞬間には黒装束は大きく踏み込んでいた。右手は刀の柄から離れている。大きく動いたのは左手だった。左手は白刃の尾をひいて、下から斜め上に、ゾロの体を引き裂いたかにみえた。刀の方はみせかけで、鐺をひねると長さ1メートルほどの鍔のない刀が下から引き抜ける仕組みになっていたのだ。ルフィはあわてて、ゾロのもとにかけよろうとした。だが、ゾロは倒れておらず、黒装束が踏み込んだときにはひらりと飛んで、石灯籠に足をかけるとその背後に降り立っていた。

「うぬ」

初めてうめいて、黒装束がむきなおった。その顔をおおった黒い布が、からだをまわす動きにつれて、ふたつにひきさかれ、ひるがえった。ゾロもむきなおって、竹光を再び、下段につけた。黒装束はさけた頭巾の下に、青ざめた顔を狼狽させて、声を発した。

「勝負は預けた」

ゾロはなにも答えず、ルフィの方を見た。まるで、答えを促すかのように。ルフィがそれに気づいた時にはすでに黒装束は石灯籠の後ろに走りこんでいた。さっきルフィが倒した影を抱えて生垣を飛び越えるのが見えたかと思うと川の波がさわいだ。ルフィが生垣を伸び上がって覗き込むと、ちょうど小船の出て行く所だった。

「船か?」

ゾロに聞かれてルフィは頷いた。

「逃がしてはまずかったか?」

次いで問われてルフィは少し考えた。

「いいよ。捕まえろとは言われてねェし。一人残ってるし。・・・えっと殿様?」

「ゾロだ」

また訂正される。が、なんとなく呼びづらいので、続けることにした。

「・・・楽しかったか?」

呼び捨てにするのはためらわれるくせに、どうしても対等な口を利いてしまう自分をなんとかしたかったのだが、今まで、直参旗本なんかと口をきく機会などなかったのだからしょうがない。問われたゾロの方は、一瞬驚いた顔をして、それからニヤリと笑った。

「まぁ、おもしろかったが、ちょっとばかり肝を冷やしたな。てっきり、居合のように長い刀を抜くのだと思って、右手にばかり気を取られていたからな。鞘がわかれて抜けるなんてぇのは、忍者の考えそうなカラクリだ」

「うん、あの逆手の逆袈裟かわしたのはすごかったな!おれはちょっと焦ったんだけどな、うん、すごかった。かっこよかった。」

しきりに感心しているルフィにゾロは苦笑した。

「お前もすごい」

ゾロに言われてルフィは首をかしげる。

「一人、倒したろ?剣なしで」

あ、あれか、と思い至る。少しも気息を乱さなかったくせに、あの状況は把握できていたということか。

「あいつ、弱かったもん。・・・なんか悔しくなってきたな」

ゾロばっかりかっこよくて。と呟いたら、ゾロがまた笑った。

「やっと呼んだな」

と言ったその顔が、なぜかとても嬉しそうに見えたので、ルフィは謝るのをやめた。なんだかやっぱり妙な心持になって、あわてて頭を切り替えた。

「とりあえず、アイツにどういう団体なのか聞いてみよう、と思うんだけど」

そう言って、縛り上げてある黒装束を指差した。するとゾロは縁にあがると足下の黒装束をかかえ起こして活を入れた。黒覆面の下でうめき声が聞こえると下緒で後ろ手に縛り上げた手の間に相手の刀を鞘ごとねじりこんで、

「気がついたか?少し聞きたいことがあるんだが、口をあいちゃくれねェか」

ゾロが声をかけても、黒装束は答えなかった。

「口がきけないのか?それとも口がないのか」

そう言ってゾロは覆面をひき下ろした。青白い頬のこけた顔がぼんやりと暗がりに浮き上がって見えた。

「とりあえず、何を探してるかだけでも教えてくれるといいんだけど」

ルフィも声をかける。

「なにも知らずに守っているのか?」

「悪いのか?」

ルフィの返答がおもしろくてゾロはまた笑いをかみ殺す。尋問中に笑うものではない。ルフィに尋問という意識があるのかどうかは置いておく。

「あとは、お前の名前とか、仲間はどのくらいいるのか、とか、あの仕掛け刀持った奴は忍者っぽかったからお前も忍者なのか?とか、忍者って毎日木の上飛び越す修行するって本当か?とか、そんな感じかなぁ。ゾロもなにか聞きたいか?忍者っておれ初めて見るんだよ。」

とうとうゾロが笑い出した。黒装束は呆気に取られている。腕の痛みも忘れたようだ。目が、辺りを見回すように動いた。仲間の姿がないことに気づき一瞬眉を顰めた。けれどそれ以上口を開くことはなかった。根負けしたのはルフィであった。いや、ただ単に飽きただけなのかもしれない。

「いつまでもここにいるの寒いから、中入らねェか?」

ゾロに話し掛ける。

「こいつはどうする?」

「放してやろう」

ゾロが驚いた顔をする。黒装束も同様だ。

「だって、話す気ないんだったら捕まえといても無駄だろ?」

「いや、だったらこのまま放っておくとか・・・」

「この寒いのに、そんなことしたら死んじまうかもしれねェじゃん。あぁでもあいつらが迎えに来てくれそうだったらそれでもいいかな?」

ゾロが少し思案して黒装束に話し掛ける。

「たぶん、こいつは本気で言ってるぞ。お前に選ばせてやろう。逃げ出すか、仲間の元に戻るかだ。おれの印象ではお前の仲間はこいつのように甘くはなさそうだったが」

黒装束の目が思案気に動く。

「・・・解いてくれ」

やがて観念したように呟いた。よしきた、とルフィが下緒を解こうとするのをゾロが制し、下緒に手をかける。どうもルフィには警戒心が足りない、と思ってのことだ。

下緒がほどけると黒装束は立ち上がった。たぶんこの男が仲間の元に戻ることはないだろう、とゾロは思う。一度敵の手の中に落ちた人間が無傷で戻った場合、あやしまれない方がおかしい。それをあやしまないのはルフィくらいのものだ。たぶん。

「探すものは小判型の迷子札、同じ形のものが6枚あるそうだ。おれはそれ以上は聞いていない」

それだけ言うと黒装束はスッと屋根の上に上った。おぉっとルフィが歓声を上げる。

「そこのあんた。一応忠告しとくが、もう少し人を疑うってことを覚えた方がいい」

そしてあっと言う間に暗がりに姿を消していた。とても忍者っぽい、とルフィは感心しつつも、どうもこのところ、同じ忠告をよく受ける、とちょっと気になった。

「なぁ?」

「あ?」

「お前ももうちょっと疑った方がいいと思うか?」

人に意見を聞くなんて、滅多にしないルフィだが、なんとなく目の前の男の反応が気になって聞いてしまった。なにを言われたところで自分を変えることはできない気もするのだが。

「確かに、警戒心なくて危なっかしい、とは思うがな」

あ、やっぱりそう思われてた。とルフィは少しだけ落ち込みかけた。たぶんそう思ったからゾロはあの黒装束の拘束をルフィに解かせようとはしなかったのだろう。それにゾロはルフィを甘いと言った。

「でも、お前は人を信じてろ」

そうゾロが続けたのでルフィは少し驚いた。

「たぶん、お前はその方がいい。その分、おれが疑ってやるから気にするな」

そう言って、ゾロはルフィの頭をポンとたたいた。えぇと。なんだか反応に困る。ルフィは少しだけ考えて、一番しっくりくる言葉を発した。

「・・・ありがとう」

「・・・いや別に・・・」

なんだか妙な感じだとお互いに思う。そしてなにか忘れていることにふと気づいた。

「あ・・・ビビとナミ、大丈夫かな」

座敷の方には賊は入らなかったのだろうか。あわてて縁を上がって座敷に戻った。

 

「あ、ルフィさん、どうでしたか?」

座敷に入ったルフィをビビが心配そうに迎えた。どうやらこっちの方は何事もなかったようである。ルフィはホッとする。

「うん、竹光の殿様が追っ払った。やっぱりかっこよかったぞ」

そう言えばビビは困ったように微笑んだ。

「とんだご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。」

そしてルフィの後ろにいたゾロに丁寧に頭を下げる。

「いや、なりゆきと、酒の礼みたいなもんだ」

「お心遣い、感謝します」

やっぱりビビは武家の娘に違いない。ルフィはそう確信する。ゾロと並んでいると本当にお姫様のように見える。そして、妙に絵になるのだ。なんとなく自分がここにいるのが場違いのような気がして、思わずルフィは二人から目を逸らした。逸らした先にはナミがいて、未だ、炬燵につっぷして眠ったままだった。

「これはこれでかっこいいなぁ」

あの騒動の中で一人、我関せず、と眠り続けるナミの大物っぷりに舌を巻く。

「ビビ」

ビビに声をかける。

「ナミこのままにしとくわけにもいかねェから、お前ここに泊まるんだったら一緒にこの部屋に布団敷いたらどうだ?おれはいつもの部屋で寝るから、なにか不審なことがあったら呼ぶこと。今日はもう来ねェと思うけど」

ビビは少し考えて頷いた。

「わかりました。けれどお武家様はどうなさいますか?」

「えっと、殿様はおれが寝てる部屋でいいか?」

ゾロが口を開くより先にルフィが聞いた。

「だって殿様だけ先に帰っちゃったらナミ起きた時困るだろ?それにあいつらまた来るかもしれねェし。」

実際自分が先に帰ったところでナミは困りはしないし、あの忍者たちも様子を見に来ることはあっても、今夜はもう仕掛けてきたりはしないと思うのだが、ゾロは黙って頷いた。ビビもまた、了承した。

夜具を敷きながらルフィはこっそりゾロを観察する。なんだか不機嫌そうである。あの忍者たちのことだろうか。でもあの時のゾロはなんだか楽しそうであったし、忍者が去ったあとだって、とりわけ不機嫌さを見せたりしなかった。ならやっぱり勝手に泊まることにしたことを怒っているのだろうか。実はなにか用事があったとか。

「あの、ビビという娘は武家の出だろう?」

ゾロがポツリと呟いた。話し掛けてくれたのは嬉しいが、ビビの話だったのでルフィは少し困った。

「・・・うん」

ビビの話はどの程度ゾロに話していいのか、ルフィにはよくわからない。それにルフィにだって詳しい事情は知らされていないのだ。

「でもあいつのことは名前で呼ぶんだな」

「へ?」

ルフィは一瞬なにを言われたのかわからない、という顔をして、それからとても困った顔をした。

「おれが殿様のこと名前で呼ばないから怒ってんのか?」

「何度も訂正してるだろう」

仏頂面のままボソボソとゾロが呟く。

「だって殿様じゃねェか」

「ビビはもっと偉いかもしれん」

確かにそうかもしれない。ルフィが黙ってしまったのでゾロは少し慌てたように続けた。

「いや、まぁ、人間と付き合っていくのに身分なんてもんはそうたいした問題じゃねェ、ってことだ。」

やっぱりゾロはいい奴だと思う。けど、名前で呼ぶのはちょっと、なんというか。

「いつまでもおれをそう呼ぶ気なら、おれもお前のことを『用心棒』とでも呼ぶぞ」

「あ、それはちょっとイヤだな」

ルフィは考え込む。そう言われてみれば、身分や肩書きで呼ばれるのはあまり気持ちの良いものではないのかもしれない。この国に直参旗本の殿様なんて他に何人もいる。そしてルフィはゾロがナミやビビにはそう呼ばれることを訂正も咎めだてもしていないことには気づかない。

「ん。ごめんなさい。これからはちゃんと名前で呼ぶ。その代わり無礼とか言うなよ?」

そう言えばゾロは苦笑して、

「あぁ、昼間のことは悪かったと謝っただろう」

「あれはほんとに悪いぞ。でもいいや。かっこよかったしな。」

ルフィは夜具を敷き終わり、その上に寝そべった。

「寝るのか?」

ゾロに聞かれて答える。

「いや、ちょっとからだを休めようと思っただけだ。あいつらまた来るかもしれねェし」

「今日はもう仕掛けて来ねェとおれも思うがな。一体あの迷子札がなんだって言うんだか、おれの知ったことじゃぁねェが、いい退屈しのぎにはなる。旗本として屋敷をいただいている手前お前のように雇われるわけにはいかねェが、なにかあったら声をかけてくれ。いつでも腕を貸す」

旗本は旗本でいろいろ大変らしい。

「ゾロはあの屋敷に一人なのか?」

お武家の家では、随分早いうちから縁談とかそういうものがありそうなものだ。ましてやゾロはこんなにかっこいいのだから引く手あまたに違いない、とルフィは思っていた。

「小普請旗本で台所は火の車のくせに、内職ひとつ出来ねェ怠け者だからな。女房子供は養えねェよ。二親は死んじまったし、あきらめて残っていた用人のじいさんも去年あの世に行っちまったからな。まぁ、おれが死んだら親戚があわてて養子でも見つけて家名だけは残すだろうがな。名前では食えねェって言うのに馬鹿馬鹿しい話だ」

ルフィはなにか言葉をさがすのだが、これと言った台詞が浮かんでこない。ルフィは町人だ。武家の気持ちはやっぱりわからない。ビビならばわかるだろうか。ゾロがふと気づいたように苦笑した。

「すまん、愚痴を言ったな。少し飲みすぎたらしい。滅多に飲めねェ上物だったからな。今夜はおもしろかった。またああいう手合いが来たら、堀端の化け物屋敷に宝物は移動した、とでも言っておれの方にまわしてくれ。酒持参のこと、とでも言ってくれれば尚いい。」

そう言ってルフィの敷いたもう一つの夜具の上に横になってあくびをした。するとたちまちいびきが聞こえてルフィは少し笑った。そういえば昼間もこんな感じで、横になった途端にいびきが聞こえた気がする。そのいびきを聞いているうちにルフィも眠ってしまったが、やがて柔らかい手に揺り起こされた。

「なんですよ、大の男が売れ残った鮪みたいにだらしがない。ゴロゴロしてないで起きなさい」

頭の上で常盤津の師匠、ナミの声がした。目をあけると、もう水口の井戸で顔を洗ったのだろう、おしろいっ気はないが、ほとんど酒の気はうかがわれないキリリとした顔つきでナミが立っていた。障子には、日差しが明るい。

「・・・おはよ。もう朝か?」

ルフィが障子の明るさに目をしばたかせると、ナミは笑顔になって

「もう昼よ」

と、告げた。

「昨夜は夜中に急に闖入して悪かったわね。お詫びって言ったらなんだけど、朝昼兼用のご飯をビビと一緒に作りましたから、どうぞ」

ご飯、と聞いてルフィの目が一気に覚める。

「ゾロ!メシだ!」

そう言って隣でいびきをかいているゾロに声をかける。

「あぁ、そんなんじゃその殿様は・・・」

ナミがなにかを言いかけたが、のそりと起き上がるゾロを見て呆気にとられたかのように黙ってしまった。

「あぁ、朝か」

「ナミが飯作ってくれたんだって!一緒に食べよう!!」

にこにこと話し掛けるルフィの頭をくしゃりと撫でて、ゾロはゆっくり立ち上がった。

 

「忍者が三人。見たのはそれだけだ。」

と、ルフィは茶碗を置いた。その日の午後、海産物問屋の奥座敷で、ルフィはあるじのイガラムと向かいあっていた。ゾロとナミが帰ったあとに、ルフィはビビを送りがてら、ゆうべのことを報告に来たのだった。

「忍びのものでございますか。それは、大変でした。よくご無事で」

「竹光の殿様がいたから、別にどってことなかったぞ」

竹光の殿様、と言うのは、ゾロの通り名みたいなもので、堀端界隈では結構な有名人らしい、とナミに聞いた。ナミに言わせれば、ルフィも有名人らしいのだが、ルフィの通り名がどんな風なのかまでは聞いていない。

「それにしてもルフィさんにはまたご迷惑をかけてしまった」

「そういうことのためにおれを雇ったんじゃねェの?」

ルフィがきょとんとして聞き返す。イガラムは苦笑した。

「それはそうでございますが・・・」

「昨日来た忍者の一人が教えてくれたんだけどな、探してるのは6枚の迷子札なんだってさ。知ってたか?」

ルフィはあっさり言った。イガラムの顔色が変わる。

「そのことを、誰かにお話になったりは」

「あぁ、ゾロが一緒に聞いたからゾロは知ってるけど、別に誰にも言わないと思う。」

イガラムは少し思案していたようだが、やがて意を決したように、口を開いた。

「あの迷子札は、わたくしどもの一族のものが別々に全部で6枚あずかっておりました。そのうちの3枚はわたくしの手元にもう集まっております。」

「6枚そろうと百万両のありかがわかるのか?」

「そう、言われているのですが、手元の3枚を調べてみてもなにもわかりません。6枚揃えばわかるでしょう。」

「その3枚は別々に保管してる、ってことだけど、一枚は若旦那が持ってておれが届けたやつ、もう一枚は昨夜ナミが若旦那から預かってた、と届けに来たやつ。もう一枚はもともとここにあったのか?」

「いえ、別の場所にあったのですが、敵が迷子札のことを聞きつけて狙っていると確信いたしましたのも、この家が荒らされたからでございます。荒らされた、と言っても迂闊には気づかないようなことでしてね。盗人が入ったらしい様子があって、しかしなにも盗られてはおりませんでした。その盗人は十日の間に四度、土蔵の中まで探していったらしゅうございます。」

ルフィの頭の中に、知った顔が浮かんだ。たぶん、その盗人に間違いない。忍者の仲間、には見えなかったのだが。イガラムはふところから紙入をとりだすと、蓋を開いて、迷子札を取り出した。

「倅の持っていた一枚。これを預かっていただけませんか」

「えーっとおれ、あんまりもの隠したりとか守ったりとか得意じゃねェんだけど」

するとイガラムは微笑した。

「言ったでしょう。6枚揃わないと意味がないのです。こちらにいろいろ仕掛けてくるということは、先方も札を一枚以上持っているということではありませんか?」

「あ」

言われてルフィも気がついた。

「とても危険な仕事です。ですからご意向を伺っております」

要は囮なのだろう。そしてできれば、先方の持っている札を取り返せれば尚良し、と言うことだ。

「その札の扱いはルフィさんにおまかせします。」

「・・・ゾロに相談してもいいか?」

「竹光の殿様は大変な酒豪だと聞いております。また寮の方へ酒樽を運ばせましょう」

その返答にルフィは一も二もなく頷いた。

 2005.1.23up

いけません。

なんだかゾロが予定と違う人になってきました。

ゾロだからしょうがないの?

もちょっとちゃんとビビを書きたいのですが、

ゾロが・・・(苦笑)。

前回の更新からちょっと間が開きました。

イロイロと忘れてる伏線もあるかと思いますが、

なんとかのんびりお付き合いいただけると嬉しいです。

 

 

 

 

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