春で朧でご縁日
5.
イガラムが斬られて怪我を負ったという知らせがルフィの元にやってきたのはあくる日の夕方だった。知らせを受けて慌てて身支度をすますと寮を出た。知らせが来た時、ルフィは少しうとうとしていたのだ。 昨夜、寮についたのは明け方に近かったが、ゾロは約束したとおり、きちんと起きて待っていてくれた。 「随分遅かったんだな」 と、少しだけ言いにくそうに聞いてきた。やはり心配をかけてしまったらしい。 「ごめんな」 「いや、謝らなくていいんだが」 何故遅くなったかの説明をするべきなんだろうなぁ、と思った。が、なにから話していいのやら見当もつかない。 「変な尼の集団に拉致されてたのよ」 ナミがあっさり言った。ゾロの眉がしかめられる。 「ごめんな、ゾロ。おれのことにナミ巻き込んで」 「いや、そんなことはどうでもいいんだが、尼ってのは最初に会った時に言ってた奴らか?」 どうでもいいってあんたね、と言うナミの声が聞こえたが会話は続けられた。 「たぶん、そうだと思う。今度はナミも見てるからゾロも信じてくれるか?」 「別に最初から疑っちゃいねェがよ」 「そもそもあの迷子札ってなんなのよ」 「いや、おれもその辺はわかってるようなわかってないような」 「なによ。煮え切らないわね」 ナミの追及に答えようとしたら欠伸がもれた。つられたように二人からも欠伸がもれる。 「ひとまず、今日のところは寝ろ。こいつはおれが送っていくから」 ゾロがルフィの頭をポンとたたいて言った。 「ん・・・でもおれサンジと約束しちまったしなぁ」 「サンジ?」 「うん。サンジがおれたちをここまで送ってくれたんだ。いい奴だぞ。」 またゾロの顔が顰められる。 「サンジくんは私を家まで送るように、って言ったんだから、別にあんたが直々に送らなくても大丈夫よ。殿様もこれくらいのことでいちいち妬かない。確かにまぁ悪くない雰囲気ではあったけど」 ナミにさらりと言われゾロは明らかにうろたえた。 「誰がっ!!」 「じゃぁね。ルフィ。今日はありがと。」 ナミにひらひらと手を振られ、ルフィは反射的に手を振りかえしてしまった。気がついたときには二人は寮から消えていた。 二人が帰ったあと、ルフィはひとつの結論に辿り着いていた。つまりはゾロもナミのことが好きで、サンジと言う男の出現にちょっと動揺した、という結論に。ずっとここで起きて待っていてくれたのもナミが心配だったからに違いない。やっぱり悪いことをしたなぁ、とルフィは落ち込んだ。自分が舟に乗りたがったばかりに二人に迷惑をかけてしまった。なんだかいまだかつてないほどの落ち込みだった気がする。そんな風になかなか寝付けずにいたので、ついうとうとと昼寝中、あるじ負傷の知らせを受けたのだ。
「ルフィさんっ」 ルフィが店についた頃には日も落ちていた。店のわきの玄関から奥に通ると、ビビが迎えた。その声が動揺で少し震えていて、ルフィは今一番大事なことを思い出す。この娘を守らなくてはいけないのだ。自分は。 「ビビ、おっさんはどんな風に斬られて、どれくらいの傷なんだ?」 ルフィは努めて冷静にビビにあるじの容態を尋ねた。 「所用の帰りに、橋のたもとで辻斬りに遭ったということでした。こちらへどうぞ」 ルフィはビビに導かれてあるじの寝間に通った。土蔵の二階座敷の夜具蒲団の中でイガラムは青ざめていた。蔵座敷は冬あたたかくて夏すずしい。おまけに人目につかないから、贅が尽くせる。だから大あきんどの家には土蔵の座敷があったものだ。ビビが声をかけると、イガラムは目を開いて、 「ルフィさん、よく来てくださいました」 「災難だったな、でも辻斬りに一太刀浴びたぐらい気合でなんとか」 ルフィが言いかけると、イガラムは首をわずかに振って、 「辻斬りというのは店のものの手前いったことでして、油断でした。まさかに命を狙われるとは思いませんでした。」 「相手はどんな奴だ?」 「背の高い浪人風でしたが、そんなことはどうでもよいのです。ルフィさんを見込んでお願いがある。それで来ていただいたので。」 「なんでも聞く」 ルフィが枕元に顔を寄せると、イガラムは力のこもらない声で、 「あとをお願いしたいのでございます。この店のことではございません。ビビと迷子札を護っていただきたいのです。お察しの通り、ビビは、ビビ様はわたくしの子ではございません。わたくしの主人の娘御なので・・・。詳しくはビビ様にお聞きください。ビビ様を助けて莫大な宝を探し出していただきたい」 「わかった」 イガラムはそれだけ言うと疲れたように目をしばたたいた。ルフィとビビはイガラムの部屋をあとにした。母屋の方は随分と慌しい。あるじが斬られたのだから当然だろう。 「ルフィさん、少しこちらでお待ちいただけますか?」 ビビに言われて頷く。頷いたものの、じっとしているのはやはり苦手で、ひとまず段梯子をおりて、暗い土蔵におりた。戸前に出ると庭木のしげった闇の中にものの気配があった。母屋の方から大勢のひとの集まっているざわめきが伝わってくる。それとは別のものだった。ビビはたぶん母屋に向かったのだろう。騒ぎは聞こえなかったから無事なはずだ。ルフィは戸前を離れようとした。漆喰塗りの厚い扉は左右に開け放してある。戸前の段の下には、火災が起こったとき、大扉を閉ざして目塗りをするための土を木箱に入れて置いてあるのが薄黒く見えた。丁稚が朝夕水を打って、いつでも土をこねられるようにしておくのだが、今夜もそれが忘れられていなかった。あるじが斬られた騒ぎにあっても、番頭が気配りを忘れなかったのだろう。ルフィが感心していると、その濡れた土の中から、腕が一本、にゅっと出た。ふしくれだったその腕は、五本の指を広げてルフィの足首をつかんだ。 「うわっ」 ぎょっとして、ルフィは視線をおろした。目塗りの土を入れる箱はそれほど深くない。男が一人、隠れられる大きさでも深さでもないから気にしなかったのだ。油断だった。その手をなんとかしようとルフィがかがもうとした時だった。頭上にすさまじい気配があって、黒いかたまりが降ってきた。人間だった。土蔵の屋根から黒衣のものが飛び降りてきたのだった。 「!」 ひとの隠れられるはずのない足下から手をのばしておさえつけておいて、それに気を取られている隙を頭上から狙う。見事な手だった。ルフィは捨て身で応じた。拳を突き上げながらあおむけに倒れたのだ。 「ぎぇっ」 と悲鳴が上がって、黒衣の男はひっくり返った。その途端、ルフィの足首は自由になった。起き上がってみると足首にはまだ手がついていた。つくりものの片手で、指にはなにかの仕掛けがあるらしい。罠のように、足首をはさんだのだ。ルフィが片足を引きずりながら立ち上がると黒衣の男は腹を押さえてころがった。庭木の影にころがりこむと、そこから別の黒装束が二人、ひとりは腹を押さえた男を助け起こした。もうひとりは、背に大刀を負って、ふたりをかばうように立った。ルフィは罠に噛まれた足をひきずって、無造作にすすみよった。足が自由にならないので、思い切って、相手の虚をついたのだ。黒装束は庭木の影にすばやく身をひいて、 「用心棒、今夜は人が多すぎる。引き上げてやるぞ」 ルフィが庭木の影に近づいたときには、もう三人の気配はなくなっていた。ルフィはほっと息をついて、それからしゃがみこんで足首に食らいついている仕掛けの手をはずしにかかった。力いっぱい指をひろげようとしても動かない。 「ルフィさん?どうなさいました?」 ビビが母屋から戻ってきて声をかけた。 「メシか?」 ルフィの顔が輝いた。ビビの持ってきた包みに向かっての反応だった。 「えぇ、今少し慌しくてこんなものしか用意できなかったんですけれど、ルフィさん、お夕飯がまだだと思ったものですから」 握り飯が五つ、その手にあって、ルフィはその心遣いを嬉しく思った。その場に座り込んでありがたくいただくことにした。ビビもその隣に座ろうとして、顔色を変える。 「ルフィさん、それ」 足をつかんだままの手に気づいたようだ。 「うん、つくりものなんだけどな、これが外れねェんだよ」 ビビはなんと言ってよいかわからずに戸惑っていた。 「まぁ、これは気にすんな。なんとかするから。それよりビビ。例の迷子札、おれに全部預ける気はねェか?」 握り飯を瞬く間に食べ終わると、ルフィは真面目な顔でそう言った。 「ここまで踏み込んで来るのも、あの迷子札が狙いなんだろ?このままじゃおっさんもおちおち養生できねェ」 ビビも真面目な顔をして考え込んだ。 「それではルフィさんがあまりに危険です」 「危険なことを一手に引き受けるのが用心棒の仕事だろ?まぁ、おれが信用できねェんだったらしょうがねェんだけどな」 「いえ、決してそんなことは」 ビビが慌てて手を振った。しばらく考えてやがて決断したように言った。 「わかりました。ご迷惑ついで、と言ってはなんですけれど、お預けいたします。」 「迷惑じゃねェよ。おれはそのために十分な金ももらってる。絶対に護るから心配すんな」 さっきの黒装束たちがどこかに隠れて聞き耳をたてているだろうことを予測して、少し大きな声でルフィは言った。これでビビのいる場所から迷子札を狙う連中の目が逸れてくれれればいいと思った。 「あとさ、駕籠を呼んでくれねェか?とびっきり信用できる奴を」 ルフィは少し言いにくそうに言った。さすがにこの手をつけたまま、往来を歩くのは躊躇われたので。
三度目の正直、と言ったところか、今度は無事に駕籠は寮までルフィを運んでくれた。すでに朝になっていて、往来にも人通りが多かったせいもあったのかもしれない。あれから朝までビビに引き止められて母屋の座敷の方で過ごしたのだ。とびっきり信用できる奴、ということで、その駕籠かき二人はルフィの足を見ても、特になにも言わず、一礼して去っていった。庭にまわって柴折戸を開けると、ゾロがうつ伏せになっている。それが庭の真ん中だったのでぎょっとしたけれど、よく見ると茣蓙を敷いていた。ゾロは庭の土の上で眠っているのだった。起こさないように離れたところを歩いて、縁さきに近づくと、後ろでゾロの声が 「その足音はルフィか?」 「うわ、びっくりした。足音でわかるのか?」 ルフィが振り返ると、ゾロは寝返りを打って、両手両足を広げながら 「聞きわけたわけじゃない。おれを起こさないように気をつけながら、安心した足取りだったから、お前だと思っただけだ」 起き上がった途端にゾロは顔を顰めた。 「あぁ、これか。外れねェからちょっと困ってんだよな。いざとなったらゾロに斬ってもらおうと思ってたから丁度よかった」 ちっとも困った様子ではなく、ルフィはあっさりとそんな提案をしてのけた。 「・・・お前な・・・ちょっと見せてみろ」 そう言ってゾロはルフィを縁側に座らせるとその足下にしゃがみこんだ。 「ゾロっ!?」 目の前に跪かれる格好になりルフィは慌てた。ゾロは武士なのだ。その上旗本なのだ。この構図はよくない。常識的にもルフィの心臓にも。けれどゾロは知らぬ顔でルフィの右足を持ち上げると足首を掴んだつくりものの腕を観察したりさすったりしていた。肘の切り口のところに指の入るほどの穴があることに気づいたゾロは、そこに指をさしこんで、爪にふれたでっぱりを押してみた。するとつくりものの手は、あっさりひらいた。 「おぉっ」 ルフィは歓声を上げた。トスっと腕が庭先に落ちる音がした。 「ありがとな。ゾロ?」 腕がとれても自分の足を持ち上げたままのゾロに怪訝そうに尋ねる。ゾロの視線はルフィの足首に向いている。見ればくっきりとつかまれた跡が残っていた。あまり気持ちの良いものではないので、ルフィも少し眉を顰めた。 「痛ェか?」 両手で、とても大事そうに足をなでられて、ルフィは顔に血が上った。思うように声が出なくなって混乱する。 「・・・っ」 「やっぱ痛ェんだろ。なんか冷やすもん、持って来る」 ゾロはそう言って立ち上がると縁側に上って、勝手口の方に向かっていった。ルフィは縁側でただひたすらに混乱していた。この現象はなんだろう。いや、それよりも他に考えなくてはならないことがあったはずなのだが。ふと落ちているつくりものの腕に目をやる。これはウソップにやろう。こういうからくりの好きな男だ。いや、そういうことでもない。頭に上った血がなかなか下りていかない。川の水で足よりも頭を冷やした方がいいかもしれない、と立ち上がりかけて思い出す。雪駄をつっかけて、庭におりると、生垣の外に出て川端へ行った。石垣の下に大川の水がたっぷりと光っている。ルフィはしゃがみこんで水の中に手をつっこむと、石垣の隙間から、油紙の小さな包みをぬき出した。川の水で冷えた手を顔に当てると少し落ち着いた。座敷に戻るとゾロが手ぬぐいをぬらして待っていた。 「あー・・・ありがと。自分でできるから平気だ。」 かがもうとするゾロからルフィは慌てて手ぬぐいを受け取った。ぬらした手ぬぐいはひんやりとしていて、足首に巻くと気持ちがよかった。ゾロはそんなルフィを少しの間じっと見ていたが、やがて目を逸らすと 「取ってきたのか?」 と油紙を指して言った。
ルフィは座敷に上がると、座敷の真ん中に文机を持ち出した。机のわきに、庭から拾ってきたつくりものの片腕を置いて、懐から革袋を取り出してひろげた。ビビから預かってきたものだ。膝上で、袋をしごきながら中の迷子札を取り出した。一枚、二枚、三枚。イガラムは手元にあるある迷子札は三枚だと言っていたが、四枚、五枚。迷子札は五枚あった。ルフィが元から預かっていた一枚を入れて、六枚。全部そろったわけだ。 文机の上に五枚の迷子札を並べてから、今度は油紙を広げる。これで六枚。川の中という隠し場所はゾロと二人で考えたものだった。 「見たところ、ただの迷子札だな。変わっているのはまもり本尊の代わりに紋がきざんであるというところくらいか。抱稲穂の中に三の字とは珍しい紋だな」 ゾロが札の一枚をとりあげて呟いた。 「三の字って?」 ルフィがゾロの肩ごしに迷子札を覗いて聞いた。一瞬ゾロの体が緊張にこわばったように思えたけれど、すぐに会話が続けられたので気のせいだと思うことにした。 「ここに横に三本線が入っているだろう。これが数を表す三、という文字だ」 「なんだ、わかりやすいな」 と、ルフィは一枚一枚見なおした。楕円形の金属札には、どれも稲穂が二本、輪形に向かい合った紋どころが繊細に彫られている。抱稲穂というもので、それ自体はゾロに言わせればたいして珍しい紋ではないらしい。けれど二本の稲穂の作っている輪は細く、中央に数字が入っている。 「今のが三だったら、これが一で、これが二だろ?ゾロ。これはなんて書いてあるんだ?」 「六・・・五、四・・・か。一から六までそろってるんだな。」 呟きながら、ゾロは迷子札を一枚一枚裏返していって、 「子どもの名前はみんな一緒だ。こりゃぁ、迷子札じゃねぇな。ひとりの子どもに六枚、迷子札を作る親はいねェだろ。どんなに裕福な家だって一枚こっきりのものだ。」 「そうだよな。その子はひとりしかいねェんだから、何枚も作ったらかえって困るよな」 「確か六枚そろうと百万両のありかがわかる、とかいう話じゃなかったか?」 「そやって聞いてるんだけど」 迷子札に関する話は、イガラムから迷子札を預かった翌日にゾロにはみんな話しておいた。 「穂の稲の数にも違いはねェな。違うのは真ん中の数だけか」 ゾロは両手に迷子札を一枚ずつつまみあげて呟いた。ルフィも左右の手に一枚ずつ、迷子札をとりあげて、ひっくり返して見比べながら、 「・・・なんか厚みが違うみたいな気がするんだけど。これは関係ないかな」 「厚みが違うか・・・」 ゾロは別の二枚をとりあげて、 「へりに筋が入ってやしねェか?」 言われてルフィは縁さきに立っていった。雲が散ってふりそそぐ明るい日ざしにルフィは迷子札をかざしてみたが、二枚重ねてある様子はないようだった。 「間に薄紙の絵図でもはさんであるんじゃねェかと思ったが、そんなこともなさそうだな。・・・しかし、厚みが違えば重さも違ってくるだろうな」 「そりゃ少しは」 ルフィが文机の前に戻ると、ゾロは一から六まで順番に金属の札を並べて声をひそめた。 「当たってるかどうかわからねェがな、これは宝の隠し場所を教えるものじゃねェかもしれねェ」 ルフィは首をかしげる。 「鍵なんじゃねェか?」 「鍵?」 「仕掛錠を開ける鍵だ。おれは以前に寄木細工の木箱を見たことがあるんだが、当たり前に蓋を開けようとしても開かねェんだよ。前後左右、底まで仕掛があって、組み合わさった木が少しずつ動くようになってるんだ。それを27たびだったか、とにかくいやになるほど動かすとやっと蓋が開くようになる。そんな仕掛が錠前にもねェとはかぎらねェだろ。」 ルフィだったらそんな箱、壊して開けてしまいそうだ。 「この迷子札が一枚欠けてもいけねェってのはそういうことじゃねェのか」 「六枚揃って初めて鍵になるってことか?」 「たとえば金を隠した場所に扉があって、細長い穴が開いている。その穴へこいつを一から順に順序よく落とし込んでいく。すると一枚ずつ違う重みによって少しずつからくりが動くんだ。六の札を落とした時にはじめて全部が動いて扉が開く。どの一枚が足りなくても扉は開かねェ。そういう仕掛がどこにかあるかもしれねェだろう」 ルフィはゾロの顔をまじまじと見て、喉の奥で唸った。尊敬と感動が一緒になって思わず飛びついていた。 「ゾロ凄ェ!!絶対それだ!」 「・・・っいや、単なる当てずっぽうだから、そこまで真に受けられると困るんだが・・・」 「でもそうだと思う。おれが保証する。ゾロは凄ェ!剣以外も!・・・でも困ったな」 「おれも困るんだが」 「なにが?」 「そろそろ離れてくれないか」 「あ、ごめん」 「謝らなくてもいいんだが」 ルフィはしぶしぶゾロから離れた。しかし、考えてみれば無礼だったかもしれない。 「それでお前はなにに困ってるんだ?」 ゾロが何事もなかったかのように続けた。 「あ、うん。鍵だとしたらこの迷子札、全部持ってなくちゃいけないってことだろ?一枚だったら石垣の隙間とかでもよかったけどさ、六枚となったらちょっと入らない気がするし、やっぱりそう安全とも思えないんだよなぁ。ゾロに預ける方が安全な気がするけど、おれが引き受けた仕事だからおれがちゃんと隠しておきたいんだ。でも隠し場所とかの見当がつかねェ」 ゾロが少し笑った。 「そうだな。これを護るのは確かにお前の仕事だからな。おれが隠し場所を知らねェ方がいいだろう。ここならここ、とは知ってはいても、はっきりここのどこにある、とは知らねェ方がいい気がするな。だんびら突きつけられたぐらいじゃ白状はしねェが、四斗樽でもかつぎこまれた日にゃぁ、うっかりしゃべっちまうかもしれねェ。」 ルフィも笑った。 「いい知恵がないこともないんだけど。報酬はルフィの取り分の三分の一でどう?」 いきなり声がかかり、ルフィは持っていた迷子札を取り落とすところだった。ゾロを見れば見たこともないような苦い顔をしていた。 「てめェいつから聞いてた」 ゾロは威嚇するように低い声で、不意の闖入者をにらみつけた。 「百万両のありか、辺りから」 闖入者、ナミはにっこり笑い、ゾロはがっくりと肩を落とした。 「人の気配に聡い殿様が全ッ然気づかないものだから、面白くって思わず黙って見物しちゃったわぁ。なににそんなに気をとられてたのかしらねェ」 「斬るぞ」 「えぇと、つまりナミは宝捜しに参加したい、という感じか?」 「話が早くて助かるわ」 「ルフィ、待て早まるな。この女の金に対する執着は並じゃねェぞ。だいたい、少し知恵出したくらいで三分の一って無茶苦茶じゃねェか」 「ほんとに百万両かどうかはわかんねェんだけどそれでもいいか?」 「「ルフィ!」」 二人の声が合わさった。まるっきり違う声音だった。 「だってナミだって巻き込まれたんだしさ。脇差つきつけられたりして大変だったんだぞ。それにナミすげェ頭いいしな。それに金があったらもっと学問学べるし、おれはよいことだと思う」 ルフィはにっこり笑った。 「・・・殿様がやられた理由がよくわかったわ」 「・・・うるさい」 小声でぼそぼそ二人が話す声はルフィには聞こえない。聞こえないように話しているのだから当たり前なのだが。 「ビビもナミのこと好きだから平気だ。あ、でも巻き込んじゃって悪いとか言うかもしれねェな。こういうの出てくるんだぞ。」 そう言ってルフィは文机の脇にあったつくりものの片腕をナミに投げた。 「うわ。なにこれ」 「手。それが地面から伸びてきておれの足首つかんだんだ」 「長刀背負った忍者とかな」 「要は大変危険と言いたいわけね」 「うん」 ナミはつくりものの腕をまじまじと見て縁側にそっと置いた。好事家に売ればいくらかにはなるかもしれない、と思ったせいでもある。 「あのね、最初にはっきり言っとくけど、私は宝捜しになんて興味ないのよ。興味があるのはお宝だけなの。だから手を貸す気も危険を冒す気もまったくないの。あくまで知恵を売ると言ってるのよ。それも成功報酬で。」 「危険は冒さず金だけ欲しいんだと」 ゾロが大変わかりやすく説明した。 「やっぱナミはおもしれェよなぁ」 「あんたたちには負けるけどね」 「んん。だったらいいよ。あ、言っとくけど、おれの取り分の三分の一だからな。ビビの分とかまで取り上げたらダメだぞ」 「わきまえてるわよそれぐらいっ!」 とうとうゾロが笑い出した。ルフィもナミも笑った。 「ほんっとに緊張感ないわよねェ。あんた緊張することなんてないでしょ」 「失敬だな。あるぞ、それぐらい」 「へェ。どんな時?」 聞かれた途端、ルフィの顔が赤くなった。さっき、足の様子を見られたことを思い出したせいだ。あれは緊張だったと思う。 「あぁ、成程」 ナミがポンと手を打った。 「え?わかったのか?」 「あんた正直だからねェ」 ナミが苦笑してルフィの頭を撫でた。なんだか最近やたら頭を撫でられている気がするのは気のせいだろうか。さっきは足を撫でられたけど。と思ったらまた顔が熱くなってきて困った。 「とにかく!」 ゾロの不機嫌そうな声が割って入った。 「その知恵ってやつを聞こうじゃねェか」 2005.2.12up 少しはゾロルっぽくなってきたでしょうか。 じれったいですか(笑)? 早くもラブコメの片鱗が見えて来ましたね(苦笑)。 次の更新はもちょっと早めにしたいなぁ、 と、思うには思ってます。
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