春で朧でご縁日
7.
こんなに遅くなってゾロ怒ってるかなぁ・・・。ルフィはぼんやりと天井から落ちる雫を見ながら考えていた。あまりにぼんやりしすぎて少しうとうとしかけては我に返る。さっきからこの繰り返しだ。大変に気持ちがよい。とてもよい湯加減なのだ。
尼に連れられて手近な岸に舟をつけると、ルフィとサンジは目隠しをされ、また駕籠でどこかへ運ばれた。時間から考えると、岸からそう遠くはないような気がする。目隠しの手ぬぐいをとると、この風呂場に案内されていて、サンジの姿はなかった。 「どうぞ、手足の血を落としてください」 と言われた。確かにルフィの手足には血と泥がこびりついていて、気分のよいものではなかったので、その申し出を受けることにした。ルフィには丸腰になることを厭う理由はない。 風呂はルフィの利用している銭湯とはまるで趣きの違う、二人で入るのがやっと、ぐらいの浴槽で最初の方は狭くて落ち着かなかったのだが、一人で入る風呂、というのもまた悪くない、と思うのにそうそう時間はかからなかった。これが話しに聞く、ヒノキ、という奴なのだろうか。確か寮の方にも風呂は作られていたようだったが、たかが寮番の自分には縁のないものと思っていた。こんなに気持ちがいいのなら、ビビに頼んで一度くらい入れてもらうのもいいかなぁ、などとつらつら考える。庶民にとって風呂なんて、そうそう入れるものではないのだ。ましてこんな風に狭い風呂に貸し切りで入るなんて経験なんて滅多にできるものじゃない。すっかりくつろいで、鼻歌のひとつも歌い出しそうになる自分をルフィはあわててたしなめる。一応、ここは敵地なのだ。それでも体がゆっくりとあたたまっていく感覚が嬉しくて、なかなか出ることができず、いまだかつてない長風呂になった。 なんとか浴槽から出ることに成功する。血も泥も、きっとおしろいの匂いも落ちたに違いない。ふぅ、と息を吐き、脱衣所へ出ると籠に着替えが用意されていた。白い着物に赤い帯がある。半纏や腹掛けの類はないようだ。少し心許ないような気になったが、ないものは仕方ない。ルフィは着物をはおって、適当に帯を結んだ。 「おしたくは出来ましたか?」 見計らったかのように板戸の外から声がかかる。ルフィが返事をすると、さっきの尼が入ってきて、 「お召し物はお気に召しましたか?」 「んー。こんな格好初めてしたし、ちょっと頼りねェけどな。おれは着物より風呂が気に入った。ありがとう。」 「いいえ。」 尼は少し戸惑ったような顔をして、燭台をとりあげると、先に立って歩き始めた。ルフィもその後に続く。黒光りした廊下を少し行くと足下が段になって下がっている。両側の闇に葉ずれの音がして、別棟に続く渡り廊下になっていた。辺りに見えるのは目の前の燭台を持った尼だけで、燭台をいきなり奪って蹴り倒せば逃げられそうだ。けれど、風呂に入れてくれて更に、着物の用意までしてくれた相手にそんなことをする気にはなれなかった。彼らがビビ達に敵対するものだとしてもだ。それに、サンジのことも気になった。サンジも風呂に入ったのだろうか。そしたらこの屋敷には風呂がいくつもあるわけか?となんとなく理不尽さを覚えていたら、先導の尼が短い階段を上り始めた。別棟は土蔵作りで、厚い扉を開いた中に障子がしまっている。尼はそれを開けて振り返った。 「どうぞお入りください」 ルフィが中に入ると、黒光りした壁をいくつもの燭台が照らしていて、中央には藁の円座が並べてあって、そこに、いつかゾロの屋敷で逢った尼が座っていた。ルフィを案内してきた尼はなかへは入らず、障子をしめて引き返していった。 「随分遅かったな」 円座のひとつにはサンジも座っていた。ルフィはひとまずほっと息を吐いた。 「サンジも風呂入ったのか?」 見ればサンジもまた着物が変わっていた。 「は?おれは湯を張った盥に手ぬぐいと着替えを用意してもらったんだが、てめェ、のんびり風呂なんか入ってやがったのか?」 サンジが面白くなさそうに呟く。やっぱりそんなにたくさん風呂のある屋敷なんてそうそうないのだとルフィはほっとする反面、自分だけあんなに気持ちのよい思いをして申し訳なかったな、と思う。ルフィは少しだけ考えて、サンジの左斜め前、つまりはいつかの尼の正面の円座に膝をおろした。 「で?さがしものはみつかりましたか?」 サンジがルフィの正面の尼に尋ねた。つまり、ルフィを風呂に入れたのは、ルフィが例の迷子札を身につけているかどうかを確かめるためだったらしい。 「いいえ。どうやら身につけてはいらっしゃらないご様子」 尼は静かに答える。 「んーと。おれも聞いていいか?」 ルフィが正面に向かって口を開いた。 「どうぞ」 「前会った時、今度会ったら名前教えるって言ったよな」 尼が少し驚いたような顔をして、それからクスリと笑った。 「これは失礼を。私はニコ・ロビンと申します。」 「おれはルフィ。よろしく。」 またおかしそうにロビンが笑った。
「で、こんな手の込んだ真似して何の用だ?できればおれ、はやく、寮に帰りてェんだけど」 「用、というのはもちろん、迷子札のことでございますよ」 まぁ、他に用はなさそうだよな、とサンジが横で呟いた。 「でもお調べになったように、こいつはその迷子札ってやつを持ってなかったわけでしょう」 サンジがロビンに話し掛ける。 「えぇ、けれど、迷子札6枚、お預かりになっているはずです」 「預かってねェとは言わねェけどよ。渡せってのは無理な話だぞ?」 ルフィが困った顔でロビンを見据える。 「渡せ、とは申しません。返していただきたい、と申したいのです。あの迷子札にどのようなことが隠されているのかご存知ですか?」 「100万両のありかがわかるとか聞いてるけど」 ほんの少しサンジのことが気になったが、ルフィは素直に喋ることにした。サンジにだってもう、見当はついているような気がしたし、そもそも自分に腹の探り合い、なんて芸当ができるとはルフィは思っていない。 「えぇ、ですが、その財宝にははっきりとした主がおります」 「それがお前だってのか?」 その正当な持ち主こそがビビである、とイガラムは言っていたのだが。 「その通りでございます。もともとは私の一族がたくわえていたものを奪い取られたもので、その事情をお話して、あなた様に手を引いていただこうと存じましてお越しいただいたのでございます。」 そう言ってロビンは頭を下げた。 「おれ、あんまり頭よくねェから、そんな丁寧に言われてもイマイチ何言われてるかわからねェんだけどな。つまりは、ビビ達がおれにウソついてるって言いたいわけか?」 ルフィの眉間に皺がよる。この尼はそんなに悪い奴ではなさそうなのだけど、ビビのことを悪く言われるのはやっぱり気分が悪い。 「そうは申しません。あぁ、丁寧な言い方はお気に召さないのだったわね。つまりは私の先祖がたくわえたものを、あなたの雇い主のお嬢さんの先祖が奪ったの。私の先祖は、忍びの里の者の力を借りて、その怨みを返したのだけれど、その戦のどさくさに、財宝のありかはわからなくなってしまったわ。そればかりか、里の者にも裏切られて私の一族は滅びたも同然に。お嬢さんはきっとその辺りのことはご存知ないのよ。正当な持ち主は彼女の血筋だと教えられて育ったはず。」 つまりはビビは嘘つきではない、ということでいいのか。 「その忍びの里の者ってのが、さっきの黒装束の先祖ってわけかい?」 サンジが間に入る。ロビンは黙って頷いた。 「つまりはこいつの雇い主のお嬢さんと、ロビンちゃんと、例の黒装束の三すくみでその財宝とやらを奪い合ってるってわけか。」 「そぅ。これは三つの家の争いごと。あなたのような子が血なまぐさい思いをすることはないのではなくて?」 むぅ、とルフィは考える。 「なぁ。その戦ってどのくらい前の話なんだ?」 「遠い昔よ。かれこれ300年にもなるかしら」 300年も続いている戦なのだろうか。ルフィは息を吐いた 「そんな大昔の財宝なんて、持ち主もなにもねぇ、掘り出した奴のもんだろ。お前、悪い奴じゃなさそうだけど、おれはビビにつくよ。」 「なんだ、お前、そのお嬢さんに惚れてんのか?」 場違いなサンジのからかいにルフィは顔をしかめた。 「違う・・・って言い切れないんだけど、そうとも言えない感じでその辺はおれも考え中だから聞かないでくれ」 ロビンが微笑した。 「楽しそうなお話だけど、話を戻していいかしら?迷子札だけでは財宝を手に入れることはできないのよ」 「つまりは他にも謎を解く鍵があるということか。それを持ってるのは、黒装束かい?ロビンちゃんかい?」 「私です」 ロビンがこともなげに答えた。 「それでも、おれはビビの味方をするって決めてんだ。お前には尼たちがいるし、黒装束に至っては徒党組んで襲ってくるけど、ビビは一人なんだからおれがついてないと不公平だろ?財宝とかはこの際問題じゃねェ。」 ルフィはきっぱりと言い切った。そこでサンジが手をたたいた。 「えらいぞ、ルフィ、よく言った。好きな娘を守ることこそ男の浪漫だ!」 いや、別にそうと決まったわけじゃ・・・、とルフィは言いかけたが、遮られた。 「だが、考えてみろ。財宝がみつからねェと、そのお嬢さんだって困るわけだろ?時にロビンちゃん。ロビンちゃんが鍵のひとつを持っている、ってことは例の黒装束はロビンちゃんたちのとこにもちょっかいかけてきてる、ってことでいいのかな?」 「はい」 ルフィは話の展開についていけずにいる。 「だったらこういう相談はどうかな。こいつにも義理や意地や浪漫があって素直に迷子札を渡すことはできない。けど、あの黒装束はどうにも目障りだ。だからあいつらをあきらめさせるために芝居をするってのはイヤかい?こいつらと手を組んだと見せかけるんだ」 だから浪漫ってなんだろう、とルフィはあまり本筋に関係ないところに気がいっていた。 「それであきらめるような奴らではないわ。かえってあせって襲ってくるでしょう」 「だから、しばらくの間手をむすんで、一緒に奴らを叩き潰すっていうのも手でしょ?」サンジがそこら辺の娘ならすぐに恋に落ちてしまいそうな顔でロビンに微笑みかけた。 「それも策かもしれないわね。いつかの浪人のように寝返られるよりはいいかもしれない」 ルフィがはじかれたように顔をあげた。いつかの浪人というのはルフィの隣に越して来た、あの男のことだろうか。 「おっさん知ってるのか?」 「えぇ、元は私たちが雇い入れたものよ。若隠居からうまく迷子札をとりあげる役目だったのだけど」 「じゃぁ、やっぱり、若隠居を殺したのはおっさんなのか?」 「えぇ、私が頼んだわけではないのだけれど」 ルフィの顔がみるみる曇る。 「そんでおっさんに腹切らせたのか?」 「人を殺めた者は自分が殺められても仕方がないでしょう。それにあの男は私たちを裏切って忍びの里の者に加担しました。若隠居を殺したのも奴らにそそのかされてのことでしょう。肝心の迷子札は奪えなかったようですけれど。」 ロビンは顔色ひとつ変えない。ルフィは顔を顰めて 「お前、いい奴でもねェな」 「武家の世界の決まりごとみてェなもんだろう。けじめだとか忠義だとかが、人の命より大事な世界なんだよ。」 「そんなもんか?」 今度ゾロに聞いてみよう、とルフィは思う。でもゾロは普通の武家とは違うからあまり参考にならないかもしれない。だって、自分のような身分の低いものにだって、すごく優しいのだ。ビビに聞いてみるのも同様な気がする。ビビだってとても優しい。二人ともいい奴なのだ。ふとわいた疑問を口にする。 「ロビンって尼なんじゃねェの?」 するとロビンは少し苦笑して、かぶっていた白い頭巾をとった。すると見事な黒髪が流れてルフィは驚く。 「なんでそんなキレイな髪なのに、頭巾なんかかぶってるんだ?勿体ねェ。」 「それはおれも同感ですね」 ロビンはクスクスと笑い出した。 「ありがとう。そんなことを言われたのは久しぶりだわ。私の血筋は女系でね、忍びの里と対のように女しかいないのよ。女だけが大勢でいても怪しまれないのは尼寺くらいのものでしょう。一応私が庵主ということになっていますからこのように。内緒にしておいてくださいね。」 ロビンも笑うと雰囲気がやわらかくなっていい感じなのに、あんな厳しい顔ばかりしてて疲れないのかな?と思う。武家だとか血筋だとか先祖の因縁だとか、ルフィにとってはわからないものばかりだ。それはそうとサンジは最初からロビンが尼ではないと気づいていたようだ。 「さすがじょせいのたつじんだ!」 ロビンが不思議そうな顔をした。サンジはにっこり笑って 「おれはあまねく女性の味方でありたいと思っていますので、あなた方と敵対するのは真っ平ごめんです。が、ルフィの側のお嬢さんたちと争うのも気が進まない。そもそも美しい女性同士が争う場面などみたくはないものです。どうでしょう。しばらく、ということでも結構ですから手を結んでみるってのは」 「そちらの意向もあるでしょう」 「迷子札だけでは宝のありかがわからねェってのもホントみたいだし、ビビも別に争いごとが好きなわけじゃなさそうだからしばらく手を組むってことに反対はしねェと思うけど、最後にどっちのもんにするかはその時に考える、ってことでいいか?」 それにひとまずあの黒装束たちは悪い奴な印象だから、協力してやっつけるというのは悪くない、と思う。 「承知しました。では、寮の方にお送りいたしましょう。」 ロビンが再び頭を下げた。 「あといくつか聞いてもいいか?」 「お答えできることなら」 「この間、おれとナミをどっかの屋敷に運んだのもお前の指図か?」 「あれは申し訳ないことをしました。私のためを思ってしてくれたことなのですが」 「脇差突きつけられたナミに、今度直接謝ってくれな」 「・・・わかりました。話はそれだけ?」 「あとひとつ。なんで最初会った日、ゾロの家におれを運んだんだ?ゾロのこと知ってるのか?」 ロビンはわずかに微笑して首を横に振った。 「違います。部屋数が多く、住み荒らしていて、人の少ないお屋敷ならどこでもよかったのよ。あなたの住んでる長屋から一番近いそういう場所がたまたまロロノア様のお屋敷だったというだけ。しかもあの折は幸いにロロノア様もお出かけになられていてあすこは無人でしたから」 「そっか。ありがと。」 ルフィはにっこり微笑んだ。ロビンがあの場所を選んでくれなかったら、ルフィはいまだゾロと会えていないはずなのだ。そのことについては感謝しきれないくらいだと思う。 「不思議な子ね、ってよく言われない?」 ロビンがクスクス笑いながら言う。 「変わってるとはよく言われるかな?でもおれの知ってる奴にはおれより変わった奴いっぱいいるぞ?お宝争奪戦なんてすげェ面白いことしてんのに、そんな難しい顔してるロビンやビビの方がおれは変わってると思うし、二人とも笑ってる方がおれはよいと思う。」 ロビンが肩を震わせて笑った。隣のサンジに話し掛ける。 「この子はあなたより性質が悪いわね」 「男も女も見境ない天然誑しですから。その点おれは女性限定ですし理性的ですよ?」 サンジは肩をすくめてみせた。
寮に着いたのは空がしらじらと明け始める頃だった。サンジは猪牙をゆっくりと石垣によせる。 「こっちは大丈夫のようだな。」 寮は雨戸がしまっていないで、障子に灯の色がさしていた。サンジに言われてルフィは立ち上がりながら 「お前ほんとに寄ってかねェの?」 「言ったろ。おれは男に興味ねェんだよ。くだんのお嬢さんがいるって言うなら話は別だがな」 「うーん。ビビはたぶん来てねェと思うなぁ」 「それに店の方も気になる」 「大丈夫かな、って言ったら怒られるんだっけ。おれもまたすぐに見に行くから、おっさんによろしく言っといてくれ。あといろいろありがとな。」 桟橋を上がって、庭の柴折戸をあけながらルフィが振り返ると、櫓の音もしなかったのにもう猪牙舟はいなかった。ルフィは目をくばりながら縁先に近づいて、 「・・・ゾロ、いるか?」 声をかけると障子があいて、中から顔を出したのはナミだった。 「あれ?なんでナミがここにいるんだ?」 ルフィが目を丸くすると、ナミが口を開くより先に座敷の中からゾロの声があがって、 「よく帰ってきたな。他に目的があっても泊まってくるかもしれねェとは思ったが。そんなにいい女でもいたか?」 いろんなことがあってすっかり忘れていたけれど、吉原の大まがきの庭に迷子札を隠しに行ったまま、ルフィは寮を留守にしていたのだった。 「ひょっとして、あのおしろいの香りのヒト?」 ナミが小声でルフィにそっと囁いた。ルフィは思い出してあわてて弁解する。 「いや、おれ吉原に引き返して泊まったわけじゃねェぞ!!」 話すと長くなるんだけどな、と続けてルフィが座敷にあがると、ゾロは膳を前にして壁に寄りかかっていた。なんだか随分久しぶりに会うような気がしたが、考えてみれば、まだ一日もたっていない。ゾロはルフィを見た途端、顔を顰めたので、ルフィはそんなに怒らせたのかと落ち込んだ。けれどこちらにも事情、というものがあるのだ。ナミは障子をしめて、もうひとつの膳の前に戻りながら、 「あんたが帰ってこないってうちに使いが来たのよね。どっかの親分さん。私はルフィを花魁に引き合わせた覚えはないんだけど、ちょっと責任感じて様子を見に来たわけよ。あの親分さんには手間かけたけどね。」 親分というのはひょっとしてあの目明かしのことだろうか。 「あぁ、若隠居殺しの件でここにお前を訪ねてきた目明かしがいたから、ナミとでかけたまま帰って来ねェと伝えたら様子を見に行く、と言ったんで、じゃぁ、様子がわかったら知らせてくれ、と頼んだんだが。」 ゾロがルフィの考えを読んだかのように説明をくれた。それは迷惑をかけたな、とルフィは人のよさそうな目明かしの顔を思い浮かべた。次いで若隠居を殺したのはあの浪人だということを伝えておかなくては、と思う。でもそうすると、あの浪人が腹を切らされたことをどう説明するべきか、悩む。ここはひとつ、ゾロとナミにも考えてもらおう。そこまで思考が進んだ時点で、ゾロが言いにくそうに口を開いた。 「あー・・・ルフィ。お前それ、女物の寝巻きだろう。吉原じゃなかったら、どこにいたんだ?」 言いたくなかったら言わなくてもいいが、そんな格好で外出歩くもんじゃねェぞ、と続いた。そうか、これは寝巻きだったのか。とルフィは得心がいった。道理で頼りないわけだ。女物、ということは、まぁ、尼の用意したものだから、考えられなくはない。でもサンジが着てたのは寝巻きにも女物にも見えなかったけどなぁ、とつらつら考えて、 「変か?」 とだけ聞いてみた。 「いや、寧ろ似合うんだが、変じゃねェってこと自体変だろう?」 「つまり変なのか。そういや、おれの着物返してもらうの忘れてたなぁ。」 ルフィは困った。替えの着物なんて長屋に一枚あるきりだ。 「とりあえず今度会った時に返してもらうとして、そうだ、ビビにちょっと話さなきゃいけねェことあんだけどこの格好だとまずいのか。」 「また会うのか?」 「アンタそれちょっと無神経じゃない?」 ゾロとナミそれぞれから少し棘を含んだ声を聞かされて、ルフィはふと気づいた。まだ誤解を解いていない。 「いや、ロビンはそんな悪い奴じゃなくて・・・」 「ロビンって花魁?」 ナミが眉を顰める。いや、吉原から離れろ。 「ロビンは尼だけど尼じゃなくて、武家らしいってサンジが言ってて」 「サンジ?」 今度はゾロが眉間に皺をよせる。ゾロも男が嫌いな性質なのだろうか? 「えーっと」 ルフィは混乱してきた。とてもうまく説明できる気がしない。 「・・・わかった。とりあえず今はしばらく休め。ナミは悪ィがここにいて、なんかの気配を感じたら、こいつをたたき起こしてやってくれ。ビビからの使いだったら、そうだな、夜に出向くとでも言っといてくれ。」 ゾロがあっさりと指示を出す。 「ゾロは?」 「おれはお前の長屋に行って、替えの着物をとって来る。起きたらお前がナミを送り届けたあとの出来事を順番に、ゆっくりでいいから説明してくれ。それでいいか?」 ルフィはぶんぶんと首を縦に振った。 2005.4.17up
あまりにも更新できないんで、 ちょっと短いですが、できたところまでで。 次の更新はも少し早くできるといいなぁ、とは思ってます。
|