書簡@

元気か?おれはちょっと元気じゃないが元気だ。ゾロのメールはちょっと味気なさすぎるし、あまり送るな、といわれた、とナミに言ったら、手紙をかいてみたら いい、と言われたので、書いてみることにした。手紙はとどくのもおそいから、返事はすぐには来ないのが当たり前だと言われたので、おれも少しは待てると思 うから、ゾロは楽だろう。おれだって別にゾロを困らせたいわけではないのだということをわかれ。あといそがしいのはわかるけど、送るな、というのはちょっ とひどいと思うぞ。けど、がまんすることにする。それもおれがゾロにきらわれたくないからだということもわかっておけ。メールを送るな、というのは、きっ とウワキしているからだとナミが言っていたが、そういうものか?たぶんゾロはそういうことはしないと思う、とナミには言っておいたけど、ひょっとしたら、 キレイな大人の女の人と仲良くしてるのはあるかもしれない。とも思った。ゾロはやさしいので、すきだって言われたら、仲良くするんだろうな、と思った。そ の人と会ってる間にメールが届いたりしたら、その人が気にするだろうからって、おれに送るなって言ったのかな、と思ったらちょっと悲しくなった。でもおれ は強いので気にしなくてよい。が、ほんとにそうなんだったら、早く言え。そうなったらおれも考える。字を書くのはけっこうつかれること判明。学校のレポー トよりむずかしい。漢字もメールなら出てくるのに、自分で書こうとしたらちっとも書けなくてびっくりだ。今日のところはこれでかんべんしてやる。いろいろ 言ったが、おれはゾロが元気だったらいい。








書簡A


 連 絡がないと思ったら、いきなり手紙が来て驚いた。あまり携帯にメールを送るな、と言ったのは、仕事中は電源を切っていることが多いし、こちらとそちらには 時差があって、すぐに返信できないことが多いからだ。更に言うなら、おれは、携帯のメールを打つのが苦手だ。味気ない、というのは、その辺りもあると思う が、気になるなら努力はしてみる。

  お前から手紙が来るなんて、思ってもいなかったので、驚いた。が、そんなことを考えていたのかと、読んで尚更驚いた。自慢じゃないが、おれはお前以外に優 しいなどと言われたことはない。この件に関しては、ナミに聞いてもらっても構わない。心配なら、いつでも送ってきてくれていい。が、返信については文句を 言うな。

  お前が強いのは知っているが、気にするな、と言われると、正直いい気はしない。なにを考える、というのか、架空の話であれ、少し気になる。どうしても淋し かったり、悲しかったりしたとき、言いたいことは、他の誰かに言うより前におれに言え。好きだと言ってくる人間に甘いのはお前の方だ。あと、ナミの言うこ とはあまり真面目に聞くな。あれは悪い奴ではないが、人をからかうのが好きな女だからな。

 おれもお前が元気なのが一番いいと思う。そしてできれば笑っていろ。

 









書簡B



 元気か?おれは元気だ。思っていたより全然早く返事が来たのでびっくりした。メール送ってもいいって書いてあったけど、ゾロからの手紙は思ったいじょうにう れしかったので、またほしいから手紙を書くことにした。うちのポスト開けるのがあんなにドキドキすることだとは知らなかったぞ。あと、すごく切手がキレイ だった。エアメイルなんて初めて見たから感動したぞ。思わずパウリーにじまんした。あ、パウリーというのはゾロの代わりにこうぎにきてる先生だ。まじめな のかふまじめなのかよくわからないとこがおもしろくていい。ちょっとゾロに似てるかも。ゾロがナミにあんまり聞いちゃダメだって言うから、最近はパウリー にいろいろ聞く。ナミとはちがったイミでおもしろい。ゾロが帰って来たら、会うとよいと思う。きっと仲良くなりそうな気がする。パウリーも酒好きなんだっ てさ。ナミにゾロはやさしいよな?って聞いたら、笑って教えてくれなかった。だいばくしょうだったぞ?なんでだろう。あとは、そうだ。おれが強いとつまら んというのがよくわからんかった。おれはゾロが強いとうれしいけど、ゾロはそうじゃないのかな。えぇと、考えるって言ったのは、だれかにゾロをとられる前 に会いに行こうかとかそういうことだ。とられたらとりかえせるようにがんばってみようかな、とか。やっぱりはなれてるのはよくない。早く帰ってこれるとい いな。でもゾロが今いるとこがどんなとこかも気になってきた。おればっかりじゃなくて、ゾロもそっちでなにが起こったかとか話せ。ゾロが元気ならおれも元 気だ。手紙うれしかった。ありがとう。宝にする。







 

書簡C

 手紙は、一週間以上かかることもあるし、事故の可能性も否めないから、余程メールにしようかと思ったが、喜んでくれたようだから、やはりこちらにしようと思う。

  ナミに聞くなとは言っていない。ナミの話は真面目に聞くな、と言っただけなんだが。聞きたいことがあるのなら、ナミに聞く方がいいと思う。あれは頭はい い。だがそもそもお前に一体何をそんなに聞くことがあるのか甚だ疑問だ。少なくともおれはお前に講義についての質問をされたことはあまりなかったように思 う。

パウリー氏はアイスバーグ教授に師事していた人だろうか。彼の書いた論文を読んだことがある。やはり教授の影響を多分に受けているが、なかなか面白い考え方をされていたようだ。しっかり勉強するように。

  お前が強いことがつまらないわけではない。強いということは良いことだ。ただ、おれがお前をどう思おうと関係ないような言い方をされた気がしただけだ。他 意はない。気にするな。お前はかなり、おれのことを甘くみている気がする。単に考えていないだけなのか、未だ謎だ。その辺りはそのうち解明していこうと思 う。

  こちらには仕事で来ているので、特に話すことは思いつかない。ただ、研究設備は充実しているように思うし、国全体の建造物に対する姿勢がそちらと全く違う ので、よい刺激になっている。だがルフィの聞きたいのはそういうことではなさそうなので、こちらの絵葉書を送ることにした。景色と雰囲気は伝わると思う。

 お前の叔父さんによろしく伝えてくれ。







   


書簡D


あれから毎日えはがきが届くのでびっくりしている。ナミもびっくりしている。ゾロがそんなにマメだとは知らなかったと言っていた。でもうれしい。毎日ポスト みるのがたのしみだ。ゾロいまこんなトコにいるんだな。とてもキレーなとこだ。おれもいつか行きたい。そのときはゾロが案内しろ。でもこっちもなかなかよ いよ。学校のにわのもみじが赤くなってきた。半分くらいはまだみどりなんだけどな。おれが送っているはがきも届いているか?学校のみんなととった。ウソッ プがとった写真をはがきにしてくれたんだ。パソコンっていろんなことできるんだな。おれもほしいと言ったらシャンクスがバイト代で買えと言った。シャンク スは最近ちょっといじわるだ。みんないてくれるけど、やっぱりゾロがいないのはさみしい。シャンクスによろしくと言ったら、「いい度胸だ」って笑ってた。 ふたりしかわからん話があるのはなんかイヤな感じだぞ。そうだ。パウリーはアイスのおっさんトコで助手してたんだ。ゾロが論文読んだことあるって言って たって言ったらよろこんでた。しかしゾロ。せっかくの手紙に説教はよくないぞ。おれが言われなきゃ勉強しないと思ったらオオマチガイだからな。で、10日 になったらそっち行くから、空港までむかえにこい。










「あ?」

ゾロは眉間に皺をよせて、今日ついたばかりの手紙を凝視した。ルフィの手紙は毎回ゾロの勤める大学の研究室に届く。ゾロがルフィにすんでいる住所を教えてないのもあるが、個人宅に来る郵便は盗難などの事故が多いのも実情だ。家に帰らない日もあるので、丁度いい。

さておいて。10日っていつの10日だ。とか、迎えに来いってどこの空港だ。とか、何時の便だ。とか、まさか一人で来る気じゃないだろうな。とか、疑問が一瞬にして湧いて出た。そして今日は何日だ。携帯を出そうとしたら電話が鳴った。

「ゾロ今どこだー?」

ずいぶん久しぶりに聞く、のんきな声。けれど懐かしさは感じない。つい昨日話したばかりな気がする。

「こっちの台詞だ」

「まさか学校とか言わないだろうな。迎えに来いって言っといただろ?」

相変わらず人の話を聞かない。言いたいことは山ほどあるが、ここで言っても始まらない。時間の無駄だ。

「どこの空港だ。おれが行くまでじっとしてろよ。知らない人に話しかけられてもついていかない。基本だ。」

ここから近ければいいのだが。ルフィは一言二言文句を言って、それから幸いにも一番近い空港の名前をあげた。

「一時間待て。メシでも食ってろ。おごってやるって奴が来ても信用するなよ」

やはり文句を言われた。携帯を切って日付を確認した。11月11日。10日はもう過ぎていた。

「ほんとにいきなりだな」

眉間にしわを寄せたまま、ゾロは上着を着ると車の鍵を取り、研究室を出た。

 

 ルフィは電話を切って、空港内にあるビュッフェで食事をとった。腹立ちと嬉しさと落ち込みが一緒に襲ってきてなかなか複雑だ。

「ゾロはおれに会うの嬉しくないのかなぁ」

ゾロが発った夏からバイトを始めて、せっせとお金貯めて(この自分がお金を貯めようと思う日が来るなんてオドロキだ)3ヶ月ぶりに会いに来たと言うのに、いきなり怒鳴られるは相変わらず子供扱いだわ、説教だわ、結構な仕打ちだ。

「でも仕事中だったのかな・・・・」

携帯は通じたけど。だとしたら悪いことをしたのかもしれない。ゾロのいる大学まで一人で行けばよかったのかもしれない。確かに手紙にはどこの空港とか書かなかった気がする。でもゾロに会いにいくんだから、ゾロのいる学校の一番近くに決まってると思うのだが。

「そんな下調べもできないと思われてんだな」

けれどなにが一番引っかかるかと言えば、ゾロは一度も手紙にルフィに会いたいとは書いてこなかったという点だ。

「いいんだ!おれが会いたかったんだから!!」

ル フィは前向きに開き直った。一人で喋りながらすごい勢いで食事をするルフィを不審に思ってか、数人の人間が話しかけてきた。けれど言葉がわからないので、 すべて笑って手を振ってごまかした。店にいづらくなったので、店の前で待つことにした。ルフィの荷物は手荷物程度なので、置き引きの心配はないはずだ。早 くゾロが来てくれるといい。まぁ、最初に怒られるのは覚悟しておこう。会えるんだから些細なことだ。さっきの電話からもう50分。ルフィは深呼吸した。ル フィにだって言いたいことはたくさんある。

「あ」

 ゾロだ。本物だ。目が合った。こっちに近づいてくる。走り寄りたいのに、何故か足が動かなかった。ゾロが目の前に立った。文句だって言いたいし、抱きつきたい。なのに体が動かない。

「アホ」

やっぱり怒られた。再会第一声がアホとは、またゾロらしい。そしたら視界が高くなって抱き上げられたことに気づいた。また子ども扱いだ。

「泣くな」

「泣いてねェよバカ」

ルフィは久しぶりのゾロの肩に顔をうずめた。  









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